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5冊読了(6/9〜6/13)

1『みなさんの爆弾』朝比奈あすか

2『腸内細菌の逆襲』江田証

3『自律神経が整えば休まなくても絶好調』小林弘幸

4『作家の収支』森博嗣

5『はるか』宿野かほる



梅雨明けが早かったり、猛暑日が続いたり、安倍元首相が襲撃されたり、参院選があったり、ウクライナ侵攻が長期化していたり、東京のコロナ感染者がまた増えてきたり、色々ありますね、世の中。

ここ数日は特に安倍元首相の報道が多いですね。
かなり衝撃的なニュースで世界中に波紋を呼んでいて、歴史に残る重大な出来事なので報道の過熱は当然かと思います。
民主主義への冒涜だとか、こんな悲惨な出来事は断じて許すことはできない、などというコメントが政治家さんたちから上がっていますね。

それはその通りで何も否定する余地はないのですが、でもどこか違和感を覚えてしまうのは、被害者が安倍元首相じゃなかったら、ここまで大きく取り上げられていないんだろうなぁということです。
どこかの地方議員の演説中の事件だったり、あるいは政治家でもない一般市民が被害者だった場合は、「民主主義への冒涜」とか「断じて許すことはできない」とは言ってなかったのかなぁとか邪推してしまうのです。

元首相が暗殺されたから悲惨なんでしょうか。
いやいや、一人の男性が突然銃で撃たれて亡くなったから悲惨なんですよね。
被害者の職業や功績によって事件の悲惨さの度合いが変わるはずないですよね。
刑罰の重さについても同じようなことを思います。
こういう暴力的な事件で、被害者が負ったダメージによって罪の重さが変わるのはおかしい。
やっている行為は変わらないんだから。
単純に幼稚に、そんなことを思ってしまいます。

自分の身近な人であったり、有名人が亡くなって、その親しみの度合いでショックが大きくなるのは人間の感情として自然かと思います。
メディアの取り上げ方が変わってくるのも致し方ないことです。
でも人間の価値とか、平等ってなんだろうという観点で報道をながめていると、違和感を覚えてしまうなぁというのが正直なところです。
葬儀の規模とか、遺族がそれを大きくすることに何の意味があるのかな、などと疑問に思います。

こういったセンセーショナルな事件が起こった時に注意すべきなのが、模倣犯などによって似た事件が起こることです。
最近では電車内での無差別刺殺事件とか、あと芸能人の悲しい事件とかも連続して起こっていますね。
今回の事件は、演説中の政治家への襲撃であり、特定の宗教団体の関係者(と思しき人物)を標的としたものでもあり、自作の銃を使用したものでもあり、それぞれの要素に特殊性があります。
そういう特徴のどれか一つにでも準えた事件が今後起こったとすれば、今回のことが影響を及ぼしたとみて間違いではないのかなと思います。

議席数を競う政党同士の争いとか、思想の違いによって反発し合う関係性とかはあるのでしょうが、みんなが平和に暮らせるようにという願いだけは、そこに関わる人たち一人一人が共通して持っているものだと信じたいものです。
あくまでそれを前提とした争いであって、平和を脅かすほどに、その境界線を超えた闘争には関わりたくないものですね。


さて、
1は様々な境遇の女性たちを主人公とした短編集です。
僕は女性作家さんの中でも特に朝比奈あすかさん好きです。
この作品も楽しく読ませていただきました。

6編からなる短編集で、それぞれの主人公が個性的な性格で、何かしら文章の執筆に関わる生活をしています。
ジェンダーとか待機児童とか現代の社会問題を投影したようなお話もあれば、コメディっぽかったりミステリーのようなエンタメ要素の強いものもあったりします。

色んなアプローチで読者を楽しませてくれる作品集でした。
6つの短編でどれが一番ということはなく、それぞれが独自の魅力を持っていて面白かったです。

物語の構築の仕方やその視点や構成、女性ならではの女性の心理の描き方とか、そういった部分が朝比奈さんの小説には特徴として色濃く出ているように感じます。
『みなさんの爆弾』でもそれが散見できて良かったです。

タイトルにインパクトがあって目を惹きますが、表題作となる作品はありません。
作品集としての別個のタイトルのようです。
ただ「みなさんの爆弾」という言葉が、全ての話に共通して象徴となるような、そこまで大きな意味はないような気もします。
そういう意味ではこのタイトルは少しずるいな、と感じたりもしました。
でも言葉のセンスがあって良いなとも思いました。


2は消化器系のお医者さんが書いた本です。
2020年に刊行された本で、その時点での最新の医学研究の内容が記されています。

「腸活」なんて言葉が生まれてそれがブームとなり、人々の腸に対する意識や知識が深くなって久しいですが、それによって消化器系のクリニックを受診する患者さんが減ったのかというとそうではなく、腸の不調を訴える患者さんは今も多く見られるとのこと。
そして病院へ行って過敏性腸症候群などと診断されて薬を処方されるけど、どうも症状は改善されないという患者さんが増えているらしいです。
不調を改善させるために腸活をもっと意識しようとしがちですが、不調の原因がそもそも腸活の誤った認識や捉え方にあるのではないか、と著者は警鐘を鳴らします。

腸活というものが、腸内細菌を増やして腸内フローラを整えましょうというような趣旨のものですが、それには落とし穴があるようです。
大腸に腸内細菌が増えるのは良いのですが、小腸の方に腸内細菌が過剰に増えると不調を起こすのだそうです。
これが最新の研究で明らかになった「小腸内細菌増殖症=SIBO(シーボ)」という症状です。
この本では、そんなSIBOの症状とその原因や解消法を紹介してくれています。

実は僕も以前、腸活を生活に取り入れたことで腸に不調をきたして、病院通いをしていたことがありました。
たぶん腸活を過剰にやりすぎて、SIBOの状態になっていたのだろうと今では思います。
現在は症状は改善して、腸活のことも一旦忘れて、変に発酵食品を多く食べたり食物繊維を多く摂りすぎたりするのはやめました。
それで通常の状態に戻っています。

この本を読んだのはもちろん症状が改善されたあとですが、もっと早く読んでおけばなぁと思いました。
結構苦しかったので。
身体に良いとされていることも、全部過剰にやりすぎると良くないですよね。
これさえ食べておけば絶対健康、みたいなスーパーフードは存在しないんだなと思います。

僕が体験したことを具体的にいうと、腸活に良いと言われる発酵食品、納豆とかキムチとかヨーグルトとかと、腸内細菌のエサとなる食物繊維が豊富な野菜やバナナなんかを毎日食べていました。
もともと胃腸は弱い体質なので、それを強くしたいと思ってした行動ですが、余計に負担になってしまったみたいです。
不調が出てから病院に通ったけど、もらった薬を服んでも治らず、腸活自体が良くないのかもと自分で考えて、それらを一切食べなくしたら症状は改善に向かいました。
なんか、そんなことで治るなら、病院のお医者さんに教えて欲しかったです。
たぶん最新の研究で明らかになったことなので、お医者さんもわかっていなかったのかなと思います。

体質改善のために何かを始めるときには、かなり慎重になるべきだなと学びました。
腸活を始めたせいで腸の不調が起きてしまった人には、この本は強くお勧めしたいです。


3も健康に関する本です。
お医者さんで自律神経研究の第一人者である小林弘幸さん。
本屋さんの健康本の棚を見れば必ず著作が置いてあるぐらい、作品が多くて人気も権威もある方です。

僕もこれまで2、3冊読んだことがありましたが、どれも優しい語り口で文章に説得力があり、そしてそこまで難しくない健康のコツを教えてくれます。
今回読んだこの一冊が、彼の教授する知識の基本的なことが総まとめになっている感じで、年齢を重ねて健康への興味を持ったらまず読むべき一冊かなと思いました。

自律神経、特に副交感神経の働きを意識的に優位にすることで、最適な休息を得られて、毎日疲れずに健康的に過ごせるといいます。
その方法は数多くあり、身近なことで今日から実践できるものばかりです。
それを一つひとつ紹介してくれます。

適度な運動や睡眠とか、水をよく飲むようにするとか、スマホばっかり見ないようにするとか、マッサージやストレッチをするとか、そういったよく聞くタイプの健康法が多いのですが、それらがなぜ身体に良いのかを、自律神経を整えるというアプローチの医学的観点から説明されると説得力があり、自分もやってみようという気になります。
医学的だけど全然難しい内容ではなく、素人でも十分理解できる文章で書いてくれているので良い本だなと思いました。


4は森博嗣さんのエッセィです。
ミステリィ作家の森博嗣さんが小説家という職業の実態について書かれた、その名も『小説家という職業』という本が大変面白く、今度は小説家の収入など金銭面に特化して書かれたこの本を読んでみました。

本を出版した作家さんが売り上げによってどのくらい稼げるのかを、森さんが過去に書いた作品がどれだけ売れてどのくらい儲かったかを具体的に示すことで説明してくれています。
もちろん目玉が飛び出るくらい巨額の、なんとも羨ましい金額が提示されるのですが、森さんくらい才能があって素晴らしい作品を作り続けている方はそのくらい稼いで当然だろうという気もします。

興味深いのは作家さんには収入の方法や種類が思った以上にあるということで、原稿料や印税というのはすぐに思い浮かびますが、小説がメディア展開した時の原作料を得たりとか、取材やインタビューを受けたりTV出演をしたり講演を行ったりすることで収入を得ている作家さんもいるようです。
もちろんその金額というのは作家さんの人気や知名度や経歴によって違うのでしょうけど、森さんがそれらを行った場合にいくらもらえるのかということも数字で具体的に記してくれています。

その他にも、こういう場合にはこういう収入を得られるとか、こういう時はこういう出費がある、ということまで詳らかに説明してくれていて、小説家という職業の内情についてより深く知れた気がします。
話題は出版業界全体の経済的な傾向にも触れていて、これも大変興味深かったです。
やはり森さんの語り口が面白いし、世の中に対する洞察力や先を読む力もあるお方だから説得力があって、一冊のエッセィとしてとても読み応えがありました。


5は覆面作家、宿野かほるさんの書かれた小説です。
『ルビンの壺が割れた』で衝撃的なデビューを飾った作家さんですね。
年齢も性別もわからない謎の作家さんです。

以前に『ルビン〜』を読んで感想をnoteに書いて、同じような触れ込みの2作目ももう出ているから、それも読もうと書いていたんじゃないかと思います。
それがこの『はるか』です。
『ルビン〜』がそんなに気に入ったわけではなかったんですけどね。
読みやすい文章なので、同じようなテイストで、同じようなページ数だったら読んでもいいかな、と思っていたと思います。
なので、そうだったので、読みました。

んー。また同じような読後感でしたかね。
面白かったとは思いますが、んー、まあ人にはそんなに強く勧めないかなぁという感じでした。
若者向けなんでしょうかね。
10代の頃の自分だったら感動できていたんでしょうか。

本編の前段となるお話が凄く良かったです。
本編はある大人の男女の物語なんですけど、最初の30ページぐらいでその二人の幼少期の出会いが描かれるのです。
そこがとても良くて引き込まれました。
つかみはバッチリという感じでした。
前作はすべて、登場人物の手紙のやりとりのみでお話が展開していく形態の小説だったので、この作家さんの地の文が読めるのが新鮮でした。

そのあともどういう展開になっていくんだろうと、面白く読めはしたんですが、衝撃的なラストを迎えるという触れ込みがやはり邪魔で、別に大きな謎が明かされるミステリーというほどでもないし、ただ展開にオチがついているだけというか、予想はつかなかったけど別につかなくて当然というか、ふーん、そうですかぁというぐらいの終わり方でした。

宿野かほるさん、現在のところまだ3作目は発表されておりません。
もし次の作品が刊行され、また同じぐらいのページ数だったら読みたいなと思います。
ページ数、大事です。

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