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5冊読了(4/3〜4/22)

1『ヴィヨンの妻』
太宰治/ 新潮社 (1950年12月22日発売)

2『殺意の構図 探偵の依頼人』
深木章子/光文社文庫 (2016年9月8日発売)

3『一番売れてる株の雑誌ZAiが作った「株」入門』
ダイヤモンド・ザイ編集部/ダイヤモンド社 (2009年03月26日発売)

4『ツレがうつになりまして。』
細川貂々/幻冬舎 (2006年03月25日発売)

5『夢の叶え方を知っていますか?』
森博嗣/朝日新聞出版 (2017年1月13日発売)


本はよく読みますが、活字を読むこと自体が好きというわけでは全然ありません。
学生時代は全く読書をしてこなかったし、教科書を読むことも苦手だったし、意味を理解させるだけなら図やイラストや音声や映像を使えばいいじゃないかと思っていました。
知性の低さと学習への意欲の低さが活字への苦手を生んでいたのだと思います。

とても興味深くとても面白い文章なら、頑張ればなんとか読める、というレベルです。
今でもそうです。
読書好きの人の中には活字マニアというか、誰が書いたどんな文章だろうと、読むという行為そのものが好き、という人もいますよね。
僕は全然そんなことではないということです。

それでも僕が読書をするのは、読書でしか味わえない感動や知的好奇心への刺激があるということを知っているからです。
活字が苦手で読書を全くしない人もいますが、本を読むことへの苦手意識でいえばたぶん僕もそういった人たちと同程度のものを持っていて、でも違うのは、読書でしか得られない喜びを知っている点だと思います。

小説ではそのストーリーが文章という形態で描かれているからこそ味わえる感動や面白さがあるし、教養本では文章でしか説明できなかったり、本という媒体でしか世の中に発表できない内容のものがあったりします。
そういう作品に巡り会えた時にこそ、この内容を表した媒体が本であるということの素晴らしさを感じられて、また読書への興味が増幅するのです。

活字を読むのは苦手だし読解力も脆弱だけど、読書で得られる喜びを知ることができているのは、自分の人生のうちの大きな財産であると感じています。


さて、
いつも通り本にまつわる謎の前文から始まり、1から感想を書いていきます。
久々に太宰治さんを読んでみました。
いわゆる日本の文豪の作品を読むこと自体もかなり久々でした。
なぜこの作品にしたのかは、短くてすぐに読めそうだったからです。
僕は基本的には現代のエンタメ小説の方が好きで、文豪の作品は武者小路実篤さん以外は苦手だと思っています。
食わず嫌いですが。
武者小路実篤さんだけは食って好きです。

太宰治さんは『人間失格』だけ二十歳くらいの頃に読みましたかね。
内容はあんまり覚えていないし、特に面白かった気はしませんでした。
でもまあ名作という扱いだし、みんな凄いって言うし、自分にはそれがわからないんだろうなぁ、自分は読書センスがないんだろうなぁ、と感じていました。

よく聞くのは、大人になってから読むとまた違うよ、みたいな話で、大人になった今、また同じ『人間失格』を読むのはなんか嫌なので、なんか聞いたことのある『ヴィヨンの妻』にしてみた、というところです。
結果、なかなか興味深く面白かったです。

表題作のほかにいくつかの短編が収録されているのですが、さすがに全部が全部というわけではないですが、面白いものがいくつかありました。
中でも一番面白かったのは、一番最初に収録されている『親友交歓』という作品でした。
図々しい性格の友達が家を訪ねてきて主人公が閉口する、というだけの内容なのですが、これがとても笑える描写が多くてコメディ的に面白かったのです。

ピースの又吉さんが、よく太宰治さんの話をする時に、太宰のユーモアが云々と語っていらして、僕は、え、太宰の作品にユーモアなんてあったっけ、と感じていました。
『人間失格』しか読んでなかったからそう感じていたのだと、『親友交歓』を読んでわかりました。
太宰治さんは確かにユーモアの人でした。

『ヴィヨンの妻』に収録されている作品は、太宰さんの晩年に書かれたものたちで、そのせいか内容も死を扱ったりするシリアスなものが多いです。
収録順は作品発表の年月順になっていて、だから最初の『親友交歓』は、内容がまだ明るくユーモアを含んだ作品になっているのだろうと察せられます。

であるなら『親友交歓』よりさらに過去に書かれた作品は、もっとユーモアを含んだ作品が多いのかなと推察できます。
『人間失格』も死の直前に書かれたものですから、太宰さんのユーモアを味わうには、僕が読んだ2冊はたぶんあまり適さなかったのだろうと思います。

僕が武者小路実篤さんを好きなのは、読んでいると思わず笑ってしまう描写が多いからです。
ウケを狙っているのかよくわかりませんが、昔の文豪の小難しいイメージとはかけ離れた、親しみやすくユーモラスな印象を感じます。
『人間失格』『ヴィヨンの妻』からはそういった印象を受けることは少なかったですが、他のものなら太宰さんの作品でも読みやすいと思えるかもしれないので、今後も読んでいきたいと思います。


2は現代のエンタメ小説です。
深木章子さんです。
みきあきこさん、と読みます。
もう僕は大好きなのです、この方。

いかにもなタイトルからもわかるように、本格ミステリー小説です。
『鬼畜の家』『衣更月家の一族』に続く「榊原シリーズ三部作」の完結編です。
元刑事の私立探偵・榊原聡さんが終盤に登場して事件の謎を解くシリーズです。
アガサ・クリスティさんのエルキュール・ポワロさんを思わせる人物ですね。
ミステリー好きとしてはこういう人物が活躍するシリーズはもうそれだけでウキウキしてしまいます。

深木作品は、作者が元弁護士さんであるという特徴を活かした、法律にまつわる物語内容が多いことが魅力です。
殺人事件を扱うのですから法律の知識が出てくるのは当然といえば当然なのですが、深木作品はそれがより濃厚で詳細でリアルなんですね。
だから小難しく感じる部分もありますが、それによってミステリーとしての物語全体に、複雑さと奥深さが増していると思います。

どの作品も複雑でついていくのがやっとなのですが(それがちょうどいいのですが)、今回はいつにも増して難解で、話を理解するのが大変でした。
でもそれは出てくる法律の知識の難しさではなく、物語の登場人物の相関関係の理解に難航したのです。
とにかく登場人物が多く、その血縁関係が複雑で凄いんです。

主な登場人物紹介が本の最初の目次のあとに載っているのですが、それだけじゃ全然整理できず、僕は読みながら自分でも人物の相関図を紙片に書くことでなんとかついていきました。
そうしないと絶対に、あれコレ誰だっけ?とか、この人とこの人どういう関係だっけ?となってしまうと思います。
本当に本当に複雑で、よくこんな関係性の世界観を考えたなぁ、と思います。
ミステリー作家さんって凄すぎです。

複雑であればあるほど魅力的になるのが深木作品で、終盤の事件解決編も、そこに至るまでの謎が謎を呼ぶ話の展開も、大興奮するほど面白かったです。
シリーズの完結編ということもあって、きっと作者も相当気合を入れたのだろうということが伺えました。
いやぁ面白かった。


3は株の本です。
お金とか経済とか資産運用についての本は常に読んでいこうと思っています。
一応、証券口座を作って積み立てNISAをやって投資信託を体験してはいるものの、それは一回設定したら放っておくだけのものですから、株自体の仕組みとかは全然よくわかっていないので、初歩的な知識を学べそうな本を読んでみました。

なんか読んでみると株で儲けるのなんて簡単そうに思えちゃいますよね。
そんなふうに思っちゃいけないけど、そんなに敷居が高いものと感じちゃうのも違うと思いますね。
ギャンブルと混同して敬遠しちゃうのは誤りなんだろうなぁと。
仕事をして給料を得るのと同等で、自分の資産を増やす上での手段の一つであると捉えておくべきなのでしょうね。

とはいえ元本がそれなりに必要で、少額からでも始められる、みたいな謳い文句もよく見るけど、NISAの毎月の積み立てで精一杯の経済状況である自分には、今すぐそれ以外の株投資を始めるのは難しい感じですね。
まあ実践的に、いますぐやってやるぜと思ってこの本を読んだわけではないのでいいんですけど。

あとこういう株についての本は、最新のものを読むのが良いなと思いました。
これは10年以上前の本なので、実践のシステム的なところや、例に出る株の値動きも古いデータのものなので、今の感覚だと当てはまらないのかなぁと思ったりしました。
そのつもりで買って読んだので全然いいんですけど。


4はツレうつです。
これ系のコミックをよく読むので、これ系のコミックの流行のはしりとなった作品を読んでみようと思って読みました。
自分の認識ではこれが元祖コミックエッセイみたいな感じなんですけどね。
いや、もっと前からあったでしょうけど、先駆け的な作品というかね。

旦那さんが仕事の多忙さによって鬱病に罹り、それに腐心しつつ克服していこうと懸命に奮闘する夫婦の物語。
とかいうと闘病モノのストーリーで重そうに聞こえるけど、全くそうは感じさせない軽妙なイラストとギャグテイストな内容で、面白く読ませていただきました。

鬱病というものが身近なもので、歴とした病であり、そして薬や改善法がちゃんとあるんだということを世に伝播した作品といえるんでしょうね。

作者である奥様も、作中にはあまり描かれていないけど実際には辛い思いをされたのだと思います。
旦那さんがずっと布団に潜りっぱなしで一日過ごすとか、電車に乗れなくなるとか、仕事を辞めなければならないとか、症状はかなり深刻だと思うのですが、それを奥様は同じように深刻に捉えるのではなく、この出来事を軽妙なタッチの漫画にできるほどの明るいマインドを持って旦那さんに接していたんだろうと思います。
それこそが支えになって、旦那さんも症状が改善していったんだと思います。

精神を病む病気はやはり身近な人の存在と、その人の自分との接し方とか、心理や精神性によって改善の進行具合も変わってくるのだろうなぁと思いました。


5は森博嗣さんの書かれた新書です。
森さんらしい、興味を惹く良いタイトルですね。

森さんの小説以外の本は初めて読みました。
小説は5冊くらい読んでいます。
その刊行スピードや、ミステリーとしてのクオリティやキャッチーさが凄くて、作家界でも異質な存在であることは認知していましたが、このエッセイを読んで更にそれを強く認識した感じです。
いわゆる天才というか、異次元の人ですね。

夢というものについての考えが人とは違くて、そもそも森さんの夢は作家になることではなくて、それは夢を叶えるための手段の一つに過ぎなかったわけですね。
バイトや趣味の感覚で『すべてがFになる』というミステリー界に燦然と輝く歴史的傑作を書き上げてしまったようなのです。

森さんの夢は庭園鉄道のある家に住んで、小さな鉄道や機関車を作って暮らすことだったそうで、そのためには何よりまず資金が必要で、それを稼ぐために大学講師をする傍らで執筆業を始めたとのこと。
それで一週間ほどで『すべてがFになる』を書き上げてしまったんだから天才としか言えないですね。

多くの人が夢というものの捉え方を間違えていて、まずはそこから是正していくべきではないかということを主張されています。
その上で、それを叶えるためのノウハウや、障害の乗り越えかた、意識の保ち方などを、森流に教えてくれる一冊です。
おそらく言ってることは全部正しいんだろうなと思います。
全部正しいんだろうけど、それがなかなか実行できないんだよなぁといったところです。
なにせ森博嗣さんが仰っていることですからねぇ。

しかし森さんの文章はこういうエッセイでも描写が軽快で痛快で博識で、読んでいて楽しくて気持ちがいいですね。
また別のエッセイも読んでみようと思いました。

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