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らせんの本棚

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SF、ファンタジー、実用書からマンガ、画集、絵本などなど、アトランダムに紹介するレビュー集。神楽坂らせんが読んで「グッ!」と来た本を不定期に紹介していきます。もちろんネタバレはな… もっと読む
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2020年10月の記事一覧

『「色のふしぎ」と不思議な社会』レビュー

『「色のふしぎ」と不思議な社会』 2020年代の「色覚」原論 川端裕人(著) ◇ 『夏のロケット』、『川の名前』、『銀河のワールドカップ』、『雲の王』に『青い海の宇宙港』……などなど、ワタシ的に超ツボな、ぐっとくる小説の数々を書かれている川端裕人さんなのですが、最近はノンフィクションも多く出されています。ナショナルジオグラフィックで『「研究室」に行ってみた。』なんて連載もこなされていて、さすがの一言。 ◇ さて、本書は、そんな川端裕人さんがここ数年取り組まれていた

『一人で歩いていった猫』レビュー

『一人で歩いていった猫』 大原まり子(著) ◇ 前回紹介した の前に出版された中短編集。 タイトルの『一人で歩いていった猫』が1980年の第6回ハヤカワ・SFコンテストに佳作入選しデビューしたという、大原まり子さんのデビュー本でもあります。 表題作含め収録4作品すべてが、いわゆる「大原まり子の未来史」、と言われる世界の物語。この世界感がなかなか深いのですよー。 今回は語りたいことたくさんなので、まとめて一気に行きますねー。 ◇ 『一人で歩いていった猫』 上に書

『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』レビュー

『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』 大原まり子(著) ◇ 大原まり子さんの二本めの短編集です。 1980年代前半というから、ちょうどバブル景気前夜ってぐらいでしょうか。 景気も日本のSFもとても活気づいていたころに書かれたお話たちです。 そのころ、日本SF界では、かの栗本薫御大、新井素子さん、そして、大原まり子さんら女性作家もばりばりと活躍を繰り広げられていたそうです。 (その後、バブル崩壊とともにSF界にも失われた数十年? の間隙があると言われていますが…

『生き物としての力を取り戻す 50の自然体験』レビュー

『生き物としての力を取り戻す 50の自然体験』 身近な野あそびから、森で生きる方法まで カシオ計算機株式会社(監修)/株式会社Surface&Architecture(編集) ◇ コンピューター関係の本で有名なオライリーさんって、電気や工学の本だけじゃなくてけっこう自然科学系の本も出してくれているんですよね。 そのなかでもこの本は特に、とっても自然自然しています(なにそれ?w) 33名の自然体験のスペシャリストが、自然と親しんだり、自然を知ったり、また、自然と一

『宇宙考古学の冒険』レビュー

『宇宙考古学の冒険 古代遺跡は人工衛星で探し出せ』サラ・パーカック (著)/熊谷玲美 (翻訳) ――― 宇宙考古学というと、SFファンなら誰しも「異星人の遺構が眠る惑星に降り立った探検隊が……」っていう設定を思い浮かべるのですがw (わたしだけ?w) 残念ながら本書は地球のお話です。月面ティコクレーターに立ってる謎の板や、月の裏側の遺跡とかはでてきません。 サブタイトルにある『古代遺跡は人工衛星で探し出せ』という言葉で、まあ、たぶんそうだろうとはおもってたのですがねー

『はじめアルゴリズム』レビュー

『はじめアルゴリズム』三原和人 (著) ◇ 年老いた頑固者の(元?)数学者、ウチダは出身地である米作島で、誰も聞いちゃいない数学の講演をぶちこわし、苛立ちながら会場を後にします。そして、引き寄せられるかのように、かつて自分が数学に目覚めた母校へ足が向かうのでした。 おんぼろ校舎には、彼が過去に残していった数式の落書きと共に、小学生の小僧が楽しげに遊んでいる姿がありました。 難解な数学と「遊ぶ」小学生!!(小5)ハジメとの出会いです。 この少年こそ、まさに天才だと

『失踪日記』/『アル中病棟:失踪日記2』/『逃亡日記』レビュー

『失踪日記』/『アル中病棟:失踪日記2』/『逃亡日記』 吾妻ひでお (画・著) ◇ はああ~。(ため息) 吾妻さん、もういないんですよね……。 10月13日は吾妻ひでおさんの命日。今日で一周忌だそうです。。 (吾妻ひでおさんは2019年10月13日にお亡くなりになりました><) 謹んでご冥福をお祈りいたします。。南無……。 ――― がっくりと肩をおとしつつ、吾妻ひでおさんの晩年を飾った話題作『失踪日記』~『アル中病棟:失踪日記2』、そして『逃亡日記』を読んで見

『クローディアの秘密』レビュー

『クローディアの秘密』 E.L.カニグズバーグ (著) / 松永ふみ子 (訳) ――― 長女はつらいよ。 こんなことは改めて書くことでもないですが、家族の中で長女というのは、いつだって年齢以上の責務を負わされた上に貧乏くじを必然的に引かされて、つらい思いをしつづけるんですよね。血のつながった家族が存在する以上、「常に」。そして他の家族からは顧みられることはないのです。あーあ。 ということで、12歳の誕生日のひと月ほどまえ、三人の弟をもつ長女のクローディアは、こんな

『アレックスと私』レビュー

『アレックスと私』アイリーン・M・ペパーバーグ(著) / 佐柳信男(訳) ◇ 世界でもっとも賢い鳥類として、全米ネットワークやBBC等で紹介された「ヨウム」のアレックス。 事実、彼は100語あまりの英語を操り、自在に人間とコミュニケーションをとることができました。 ※Youtubeで Alex Parrot で検索すると動画も沢山上がっています。 ↑これはBBCのもの。アレックス本人(本鳥?)と、鳥類とのコミュニケーション研究者であり著者のペパーバーグさんが登場

『完全焚火マニュアル』レビュー

『完全焚火マニュアル』 Fielder編集部(編) ◇ 焚火マニュアルかー。ゆるキャン△流行ってるもんねー。ふつーに焚火の火の付け方とか、薪の組み合わせ方とか書いてある本なんだろーなー。って最初おもっていましたがとんでもないw (もちろんそれも書いてありますが) 「完全」と書いてあるだけあって、まずは「燃える」という根本的なところを科学的に押さえています。 「木に火を近づけたらふつー燃えるじゃん」だなんて、単純なことではなかったんですね。(知りませんでした) 木

『時をとめた少女』レビュー

『時をとめた少女』ロバート・F・ヤング (著) / シライシユウコ (イラスト) / 小尾芙佐・他(訳) ◇ 『たんぽぽ娘』、『ジョナサンと宇宙クジラ』で有名な抒情SFの第一人者、ロバート・F・ヤングの日本オリジナル編集、ほっこり恋愛と一目惚れと純愛と悲哀のSF短編集です。 この、ヤングさんの評価はこれまた日米で大きな差があるようで、バリイ・N・マルツバーグによると、ヤングはSFにおける ”もっとも知られざる作家のひとり” なのだそう。ようは誰も知らない作家であると

『宇宙【そら】へ』レビュー

『宇宙【そら】へ』メアリ・ロビネット・コワル (著) / 酒井昭伸 (翻訳) ――― 時は西暦1952年。人類の技術はようやく宇宙開発のとば口にさしかかり、やっと数個の小さな人工衛星を打ち上げることができたぐらいの時代。 当然アポロ計画なんてないし、まだ有人ロケットも打ち上げられていなかったころです。 そんなある日、突然に巨大な隕石がアメリカはワシントンD.C.近海へ落下。 アメリカの首都を一瞬にして文字通り消し去り、東海岸に未曾有の被害をもたらします。 その日、ロ