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『宇宙考古学の冒険』レビュー

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『宇宙考古学の冒険 古代遺跡は人工衛星で探し出せ』

サラ・パーカック (著)/熊谷玲美 (翻訳)

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宇宙考古学というと、SFファンなら誰しも「異星人の遺構が眠る惑星に降り立った探検隊が……」っていう設定を思い浮かべるのですがw (わたしだけ?w)
残念ながら本書は地球のお話です。月面ティコクレーターに立ってる謎の板や、月の裏側の遺跡とかはでてきません。
サブタイトルにある『古代遺跡は人工衛星で探し出せ』という言葉で、まあ、たぶんそうだろうとはおもってたのですがねー。(ちぇー)

とはいえ、読み始めてみたらめちゃくちゃ面白い。現実の考古学も人工衛星をつかってけっこうSFっぽく遺跡探しをしているようです。

著者のサラ・パーカックさんは、こうした人工衛星のデータから地上の遺跡などを探すパイオニアにして第一人者。(そういう地球を対象にした考古学に人工衛星を使うことを「宇宙考古学」と言い出したのは彼女ではなくてNASAなのですと。。なので言葉の責任はサラさんではありません><)

小さいころにインディ・ジョーンズを見てハマってしまった彼女は、ほぼ白人男性しか存在しなかった考古学の世界へ身を投じ、衛星からの画像データや、赤外線等マルチスペクトルの目に見えないデータを活用して、地上を歩き回るだけではみつけられない遺跡の数々を探し出しました。

実際にインディ・ジョーンズの舞台となったエジプトの失われた街「タニス」をこの方法でデジタルマッピングし、そのデータをもとに直接現地へ赴いて発掘するなど、「リアルに」インディ・ジョーンズしているサラさん(すごい!w)

※その後、TEDで講演したときにハリソン・フォードが見に来てくれて、二人の「リアル」なインディ・ジョーンズの対面があったとかw

↑TEDで講演しているサラさん(日本語字幕あり)

とまあ、こうしたテクノロジーを使って学術的な調査を進めていくのですが、もともとインディ・ジョーンズでも描かれていたように、こうした考古学には明るい面だけでなく負の面もあるのでした。

そう、「盗掘」です。

現代でもこんなに盗掘が日常的に行われているんですね…、本書を読むまで私はぜんぜん知りませんでした><

衛星データから遺跡の場所を特定し、数々のめんどうな手続きなどを経て、ようやく現地へ行ってみれば、そこにはすでに大きな穴が開いていて、高値で売れそうなものは持ち去られ、学術的に貴重な品は粉々に砕かれ、先祖の骨などバラバラに荒らされてしまった後…なんてことがごくごく普通に、それもしょっちゅうあるのだそう。

盗掘されて売られる美術品は、ただ美しいという程度の価値だけになり、どこの墓から出土したのか、その持ち主は誰かなどといった考古学的な価値はなくなり(言ったら盗掘者がばれちゃうからね)、人類の遺産としての過去を知る手がかりも失ってしまいます。

そこで、サラさんは衛星画像の時間的な差分をとることで、盗掘前の遺跡と盗掘後の遺跡を比べてみることにしたそうです。

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すると、びっくり。なんとわずか数年で穴だらけ!!(これ、解像度があがったわけじゃなく、ぶつぶつが増えてるんですよ!><)
この2枚の間に「アラブの春」が起こっていたので、当初、そのせいで盗掘が増えたのではないかと予想されていましたが、実際にはもっと昔からガンガンやられていたそうです><

このままでは、人類の遺産がすべて盗掘によって破壊されてしまう……と、懸念したサラさん。自分たち一部の考古学者だけの問題ではなく、グローバルな人類全体の問題にして、感心を持ってもらおうと、あるプロジェクトを立ち上げます。

それが、グローバル・エクスプローラー・プロジェクトです。

NASAの衛星画像を小さな区画パネルにしてネットに公開し、そこに盗掘痕があるかどうかをWebにアクセスしてきた人に目視チェックしてもらう。という、間違い探しのようなある意味「ゲーム」としてデザインしたのです。

(コンピュータが読みにくい文字を人間に読ませて人間かどうかチェックするアレの航空写真版ですね)

クラウドをつかって人々のわずかな労力で考古学に貢献できるとあって、公開後大人気になり、実際、ペルーでは盗掘だけでなく数々の未発見の遺跡が確認され、歴史上の大発見につながったのだそう。
(今まで知られていなかったナスカの地上絵が大量に見つかったニュース https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/040900156/ も、この成果なのですって!)

↑こちらがそのグローバル・エクスプローラーのサイト。最初はペルーのみでしたが、続いてインド(これまた遺跡多そう!)、エジプトなども計画しているようです。考古学に貢献したい方はやってみるとおもしろそうです!

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と、本の紹介のつもりがサラ・パーカックさんの活動の紹介になってしまった気もしますがw

このほかにもたくさんのエピソードが満載。未来(100年後)の考古学者が出てくるちょっとしたSFっぽいシーンもあります。

いまの考古学ってこんなことやってるんだあ的な興味本位でも十分面白いとおもいます。知的でグローバルな過去と未来への探検の書でありました。

SF的な未来(100年後って書いてあったけどもうけっこう実現できそう)もいいですけど、今後はテクノロジーをつかって「誰でも考古学者」になれるという未来もなかなかおもしろそうです。
(そういえば月で見つかった赤い宇宙服が冒頭の某SFのラストシーンは、地球の某浜辺で考古学者がでてきましたっけね。あれがプロの考古学者でなく、素人の発見ならあり得るんじゃ? なんて、べつの想像してみたりして。おっとネタバレw)

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