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『クローディアの秘密』レビュー

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『クローディアの秘密』

E.L.カニグズバーグ (著) /  松永ふみ子 (訳)

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長女はつらいよ。
こんなことは改めて書くことでもないですが、家族の中で長女というのは、いつだって年齢以上の責務を負わされた上に貧乏くじを必然的に引かされて、つらい思いをしつづけるんですよね。血のつながった家族が存在する以上、「常に」。そして他の家族からは顧みられることはないのです。あーあ。
ということで、12歳の誕生日のひと月ほどまえ、三人の弟をもつ長女のクローディアは、こんな生活が永遠に続いていくということに、そして、常にオール5のクローディア・キンケイドであり続けなければならないことにとうとう嫌気がさし、ある決意をします。

そう、家出です。

でも、彼女はだらしないことや不便なことは大嫌い。家出と言っても逃げ出すのではなく、どこか大きくて美しい、できれば屋内に逃げ込むのがいいわ。と計画を練った結果、メトロポリタン美術館へ「逃げ込む」ことにきめました。
真面目に長女をやりつづけていたクローディアは、じっくり計画を練ることは得意なのです。
そして、計画を達成するのに必要な相棒、まだ9歳なのにお金勘定が得意でお小遣いをため込んでいる弟のジェイミーも連れていくことにしました。家出というのはお金がかかるものですから。

と、言うわけで、11歳と9歳の姉弟は、学校へ行くスクールバスから首尾よく脱出して、計画の地のメトロポリタン美術館へ忍び込むことに成功します。

それから幾日も、昼間の混雑と、守衛さんと、夜間の見回りをうまくやり過ごしながら、美術館で夜をすごします。
(誰もいない美術館で好きなだけ展示をみれるなんて、めっちゃうらやましい!)

そうして、人気の展示物「天使の像」に出合います。最近美術館が手に入れた天使の小像は、なんでもあのミケランジェロの手による像ではないかと噂され、多くの専門家が調査しているとのこと。
一目で天使像に魅せられたクローディアは、その「秘密」を探り出そうと決意するのでした。

というかんじの、小学生姉弟の冒険の物語。
夜の美術館、あこがれだわー☆ と楽しみながら読みました。(いいなあw)
最初に書いた長女の責任感や日常からの逸脱という彼女なりの冒険から、実は、本当は何をしたかったのか。という真の意味での冒険へと変化していく心境や気づきの流れがめちゃうまい。簡素な表現なのに手に取るように心の変化が読み取れるのです。すばらしい~。著者さんいわく、「ストーリーの流れを妨げるものは、たとえどんな美しい言葉でも描写でも、校正の段階で思い切って捨ててしまいます」とのこと。ごてごて飾り立てた難しい言葉より、シンプルにストーリーをつづる文章を楽しみたいですもんね。まさに児童文学。読み手のために、本当に伝えたいことをきっちりまとめています。

物語冒頭で謎めいた展開を予想させておきながら、さらにもう一歩踏み込んで予想外の「秘密」まで。どこにも破綻のないはめ絵のごとくきっちり組み上げられたストーリー。大人が読んでも十分面白い本です。特に弟のいるお姉さんに読んでほしい児童文学の傑作でした☆


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