ミネラルウォーターで”煮込み料理”/硬度(こうど)の違いが及ぼす影響について
「ミネラルウォーター」か「水」どちら?
このようなツイートが話題になっていますが、実際の論文を読んでみると少し曲解しすぎていると感じたので、改めて解説しようと思います。
水の硬度が牛肉,鶏肉およびじゃがいもの水煮に及ぼす影響 (jst.go.jp)
そもそもミネラルウォーターで、”煮込み料理”をした場合、
どのような違いが生まれると思いますか?ミネラルウォーターで料理をする派の人は多く、特にフランス料理業界でもミシュランの星を獲得している人も、よく実践しています。
実際の結果は、皆さんが理解されているものとは
少し違う結果になっているので解説します。
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実験内容とその条件について
まず実験の内容について紹介します
✅硬度の異なる水を使用した
水道水
ルソ(低い硬度)
エビアン(中くらいの硬度)
コントレックス(高い硬度)
それぞれのミネラルウォータで、水煮が実験されたのが牛肉・鶏肉・野菜(ジャガイモ)で、60分と120分での官能評価を調査されました。
軟水と硬水の主な違い
水の硬度は、水中のカルシウムやマグネシウムなどのミネラルの量によって決まります。硬度が高い水(硬水)はこれらのミネラルが多く含まれているのに対し、硬度が低い水(軟水)はこれらのミネラルが少ないです。硬水は石鹸と反応しにくく、軟水は石鹸がよく泡立ちます。また、味や調理においても違いがあり、硬水は独特の味があり、軟水は比較的まろやかな味がします。
硬度は300程度のみ(エビアン)、牛肉に限る
牛肉は、硬度300〜356では破断強度が小さくなったが(柔らかくなった)、更に硬度が高いコントレックスででは破断強度が大きくなった(硬くなる)。
✅単に硬度が柔らかくするとは言い難い。
つまり硬度が300付近の水が牛肉に作用すると考えられた。 旨味の項目では、コントレックス(高い硬度)よりエビアン(中の硬度)の方が柔らかく、ジューシーであり、旨味が強いと評価された。
硬度が強すぎると(コントレックスでは)カルシウムやマグネシウムが牛肉の表面に作用して、硬くなりすぎるが、鶏肉では筋肉組成の関係で違いが生まれなかった。
▶︎つまり、水と比較した場合は表面が硬くなって調理損失の速度が遅延された可能性も示唆され(180分とか240分にしたら多分全部同じ結果になる)、若しくは、筋内膜や筋周膜と分離して間隔できたので、表面が柔らかい結果となった。
※コントレックスでは非常に密になった(硬い)
一方,鶏肉では,硬さとうま味には有意な差はみられな かったが,ジューシーさにおいて水道水よりエビアンが ジューシーであると評価された。
✅鶏肉の 15 分水煮では,重量 変化率はルソ 66%,水道水 66%,エビアン 65%,コント レックス 63%となり,硬水ほど保水性が減少することが認 められた。結果からみるとあまり変化ないですが・・・
✅野菜は荷崩れしにくくなる(硬くなる)
じゃがいもはカルシウムイオンとペクチンとの相互作用で、当然のように硬くなる。野菜は全般細胞壁なので、当然同じ結果になる。
90℃で加熱すると、野菜中のペクチンは軟化します。また50度から70度の範囲で加熱し続けると、ペクチンらゲル化すること軟化します(野菜が柔らかくなると考えられています)このような加熱処理によって、野菜中のペクチンの結合が緩み、野菜が柔らかくなります。
90度で野菜は軟化する
低温加熱50から70度の温度帯で、ゲル化しペクチンを軟化させると言うプロセス
90度以上の高温加熱は有無を言わさず軟化する
ただし、野菜の種類によっては、加熱しても柔らかくならない場合があります。例えば、セロリやニンジン、カリフラワーなどは、硬いままでも食べられる野菜として知られています。
それらは、硬化ペクチン以外にも、構成成分が野菜を硬くしている場合もあります。また、野菜に含まれる水分の量や種類によっても、加熱しても柔らかくならない場合があるため、加熱の方法や時間を工夫する必要があります。今回の場合はミネラルウォータに含まれるカルシウムイオンが、ペクチンに作用しています。
煮込み料理と硬度と時間の関係性
つまり牛肉に限って、ちょうどいい硬度(300程度)のミネラルウォータが、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルによって、120分程度の加熱のみ丁度いい美味しさを得ることが出来た。
60分では効果は弱く、これ以上長い時間での煮込みでは実験されてないところを見ると、この限定的な場合のみ、硬度300が影響していると考えられますね。
例えば、180分や240分で加熱したら、実験結果は全て同じような結果になると予想されます(鍋の中のミネラルは多少増えるが、ミネラルも多少揮発します)。
硬度(こうど)が高いと濁る?
エビアン(硬水)で『めっちゃ灰汁が取れる』言う人いますが、 これ硬水(こうすい)によって、牛肉の表面の『タンパク質が溶けている』だけなのです。
本来なら静かに水でやった方が “不純物が出にくい”という結果なので、出汁とか煮汁を重視する(不純物少なく、クリアにしたい)料理の場合は、 軟水(なんすい)のがクリアに取れます。
つまり繊細なフォンは、硬度の高いミネラルウォーターを使用すると濁りやすくなってしまうという反面、風味などの複雑さは得られるかもしれません。
ただ、一般的には、日本出汁の場合は軟水を
肉の場合は硬水をといわれています。
ただフランス料理のフォン(フュメ)においても、場合によっては軟水のほうが良いでしょう。しかしフランス料理で使われるフォンは、極端に長時間なので結果的に、あまり変わらない可能性もありますね。
こちらで提示された論文にも、書いてあるように、軟水の方が、繊細な出汁は向いていますが、相関関係は色々と条件によって変わるようですね。
各ミネラルウォーターの値段
【まとめ買いの場合】
✅ルソは1Lあたり、345円
✅エビアンは1Lあたり、270円
✅コントレックスは、1Lあたり、164円
大きな鍋で、煮込み料理をする場合に、エビアンを3L使用した場合、810円の原価が上がる。つまり”高級な肉の煮込み料理”の原価分くらい上がる。
何にお金を使うべきか考えよう。
※普段はマガジンで公開している内容ですので、興味のある方はチェックしてみてください。
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