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「肉の火入れ」を”熱力学”で理解する:初心者でもわかる科学講座とグラデーションの作り方

はじめに

肉の火入れにおいて、美しい断面をつくる均一なグラデーションの難しさは、ミオグロビンの含有量が少ない豚肉や鶏肉によく当てはまりますが、それらにおいてグラデーションを意識するということは、脂肪酸やテクスチャの調整を考えないというマイナスな側面を生み出す事があります。

一概に『美しいピンクであればいい』が最善ではない時もあるという認識も重要です。

この考えは特に、羊肉や、豚肩ロースの部位に当てはまることがおおく、牛肉のようなグラデーションを作るという感覚で臨むと、脂肪分やミオグロビンの含有量が多い場所、また筋肉繊維(アクチン)が密集している箇所が混在しているお肉において、到底グラデーションと味やテクスチャの両立は成立せず、結果として、単なる長時間一定温度で加熱するだけの、単調な火入れになりやすい特徴があります

火入れの詳しいマニュアルはマガジン内ですべて見ることができます。

それでは解説を初めて行きましょう。


エントロピー増大の法則

料理といえば、熱力学による解釈をすることが多いわけですが、その中でも一番の基礎になりえるエントロピー増大法則を紹介します。


簡単に説明するために『たとえば、水から氷になる場合』を考えましょう。

水が冷えて氷になる場合を考えてみましょう。

この時、水の温度は外に放出されて氷になります。結果として氷のエントロピーは減少されたと言えます。

反対に、その熱を受け取った環境側はエントロピーは増大していると言います。

ややこしくなると思うので詳細を説明しませんが、氷の系でみると減少していますが、全体の系で見たときには結果としてエントロピーは増大しています。

■テリーヌで考えた場合のエントロピー増大の法則

テリーヌ型を1つの系として捉えたとき、料理におけるエントロピーについて考えてみましょう。

例えば、テリーヌ型に入ったパテを加熱する場合を見てみます。

加熱すると、パテの中の脂肪やタンパク質が変化し始めます。これは、まるで氷が溶けて水になるようなものです。熱が加わることで、パテの分子たちが激しく動き出し、より自由に動くようになります。これにより、パテの中の

エネルギーが広がり、無秩序さ、つまりエントロピーが増えるのです。(パテ内の)

タンパク質の熱変性として得られる効果の一つとして、 筋肉タンパク質の変性変化に関連する4つのピーク、 ミオシン(39.59℃)、サルコプラズム (51.67℃)、結合組織(63.16℃)、アクチン (74.40℃)の変性が観察されています。

もう少し具体的に説明すると、パテを加熱するとゼラチンが溶け出し、肉のジュースが流れやすくなります。これにより、パテの中の分子たちがより自由に動き回ることができるようになり、無秩序さが増します

熱力学における熱的均衡状態

■料理でエントロピーが安定する温度

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