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映画「冷たい熱帯魚」人物を描かずして人間を描く

こんにちは、ラオウです。

10年ぶりに冷たい熱帯魚をNetflixで観ました。10年も前だと感じることが違うかなと思ったら、さほど感じることに違いがなくてあまり成長してないことが確認できました。

早速冷たい熱帯魚について解説していこうと思います。

私の解説は作品の軸となるコンセプトのようなもの(以下「テーマ」)があって、コンセプトの表現のためにすべてのシーンはあるという考えで解説していきます。

■冷たい熱帯魚の概要

監督
 園子温
脚本
 園子温、高橋ヨシキ
キャスト
 吹越満
 でんでん
 黒沢あすか
 神楽坂恵
 梶原ひかり

『冷たい熱帯魚』(つめたいねったいぎょ、英題:Cold Fish)は、2010年の日本映画。園子温監督、脚本によるホラーで、1993年に起こった埼玉愛犬家連続殺人事件をベースとした物語である。
引用:冷たい熱帯魚−Wikipedia

殺人事件のお話なので、血などは盛り沢山で出てきますが、すごくグロいといったシーンは割と少なめです。ただエロと血はたくさん出てくるのでR18指定だしお気づきかもしれませんが、家族で見るような映画ではないです。

■テーマ「人間の弱さ」

結論から言うとこの映画のテーマは「人間の弱さ」です。

人間というのは結局弱い生き物で、所詮動物であり、弱い奴はとことん食われていく。弱肉強食の世界で生きている。頑張ればなんとかなる。そういう世界じゃない。弱い奴はずっと弱いまま。宇宙人からみた地球や人間というのはこんなものなんだろう。人間は弱い。それでも生きていかなければならない。家族を大切な人を守らないといけないし守りたい。だからこそ「人生は痛い」


■なぜ人間の弱さなのか

以下園子温監督インタビュー参照

『冷たい熱帯魚』で描かれているような、行き過ぎてしまった犯罪は、確かに凄惨ですが、視点を変えると滑稽なんです。まず犯罪そのものが人間臭いですよね。普段は隠している本性が全部出てしまうわけですから。本性むき出しで罪を犯す人間は傍から見ると滑稽だったりします

このインタビューからは人間の本性、つまり人間の本質を映画では描いていることを示唆しています。そしてその姿を滑稽と仰っている通り、僕らで言う動物の交尾だったり、テレビ番組にある動物のハプニングの映像を見ているかのように感じさせるほど人間を動物的に描いています。そして本質を描くという点では以下のインタビューが参考になります。

富士山って松竹映画みたいにいつもきれいに撮られているけれど、現実には周りは工業地帯で、その向こう側に見える富士山を誰も撮ろうとしない。あれは富士じゃないと思っているかもしれない。日本の嫌なところは撮ろうとしない。なので僕は、最初に工業地帯に囲まれた富士の実景を映すことによって、「見せかけのラブロマンスとか、親子の愛とか情愛とか描いた映画はもううんざりだ。これから日本の本当の社会の醜さをさらけ出して見せるよ」って意味で、わざわざ最初に見せたかった。
人間社会っていうのは、ちょっとでも基盤が崩れてくると、どんどんグラグラ壊れてくるっていう恐怖のほうを主体として描いています。(中略)どんな犯罪の背景にも必ず家族と社会問題があって、それをちゃんと描きたかった

わたしが伝えたいことの中に「宇宙人から見た地球や人間」というのはまさにこのことで、映画の中で何度か地球が出てくるカットやシーンがあります。それは地球から俯瞰した時に見える地球の姿や人間の姿を本質的にみたらこうなるよねってところを映しているのかなと思います。

人間は同じ生き物なのでどこか主観的に人間を見ていますが、宇宙人から見た人間や地球は、綺麗なものだけでなくて、地球はゴツゴツとした岩だし、人間は割と動物的だよね。ってことを表現したかったのかなと思います。

ダメな人生は徹底的にダメになる。そういうことを常に考えながら生きて行くべきだというのが、僕のポリシーです。嘘も甘えもない人生の苦さや辛さ、痛さをこの映画で出していきたいと思いました。そして、他人の人生で苦しさや痛みを味わうと、見終わった後、毒が薬になって逆にスッキリして、「よし!生きよう!」と思えたりします。そんな活力を与えてくれるビタミン剤のような映画を目指しました。

以上のことから地球、社会そして人間を本質的に描くことで、監督は上のインタビューの内容を感じて欲しかったのかなと思います。だからこそ、人間を描かずして、人間を描くことで、これが人間なんだ、これが社会なんだということを感じて欲しかったのかなと思います。個人的にはこれを見て「よし生きよう!」なんて思いませんでしたが、確かに人間て、動物から見たらこんな感じに見えているんだろうなとは思ったし、純粋に人間を描かずして人間を描くのはすごいなっというのが感想です。


■テーマをもとにストーリーのネタバレ

以下はストーリーのネタバレになりますので、内容を知りたくない方は見ないで飛ばして読んでください。

〝THIS IS A TRUE STORY〟

早足でAコープに入ってきた社本妙子は、冷凍食品のつくねハンバーグとからあげ、即席のカップみそ汁と、パックに入った白飯を無造作に買い物かごに入れて購入しました。

帰宅すると、それらを片っ端から電子レンジで温め、カップみそ汁には湯を注ぎます。これで夕食のできあがりです。
夫・社本信行、妻・妙子、娘・美津子は黙ったまま口に運びました。食事中に携帯に電話がかかってきて、美津子は電話を取ります。彼氏が外へ迎えに来ていると聞いた美津子は、両親に何の断りもなく席を立つと、そのまま出かけていきました。

信行は食べた食事をすぐトイレで吐きます。食後、妙子は自動食器洗い機で、洗い物を手早く片付けます。テレビを並んで見ていた信行は妙子に手を伸ばしますが、「いつあの子が帰るか分からないから」という理由で拒否されました。

妙子は熱帯魚店の軒先で煙草を吸います。外はひどい雨の夜でした。家の電話が鳴りますが、妙子は煙草を吸っていて聞こえないので、トイレにいた信行が電話を取ります。電話は、娘の美津子が万引きしたという内容でした。信行は電話を切ると、妙子を探します。

妙子が煙草を吸っていることに気付いた信行は、気付いていない振りをして妙子を呼びました。妙子も吸っていた煙草を捨て信行の方を向き直ります。

ここまでで5分経ったか経ってないかくらいで、ものすごいカット数とテンポで社本一家の家族関係を描き切っています。ものすごいカット数とテンポによって見ている側は考える隙をあたえず、映画に吸い込まれていくように世界観に入っていきます。こんな感じで序盤はテンポとカット数多めで最低限の人物描写によって物語の概要を理解させるように描かれています。まだまだ人物描写と物語の概要の説明は続きます。

〔2009年1月19日月曜日 午後9時11分〕
営業を終了したAコープに駆け付けた信行、妙子は、店長のますだに呼ばれて奥の事務所へ通されました。ますだは「2度3度じゃないよね。手つきがプロなんだよ」と言うと、警察に通報しようとします。信行はそれを必死で制止しました。

とりなしてくれたのは、初老というにはまだ精力的な男性・村田幸雄です。村田はますだと仲がよく、社本が熱帯魚店を経営していることも知っていました。同業者兼ライバルということで、市内の店は把握しているそうです。

万引きを発見したのも、村田でした。
ますだを抑えた村田は、信行らにも愛想よく接します。美津子も「よく分からないけど明るくて気さくなおしゃべり好きのおじさん」くらいに思い、好印象を抱きました。

〔午後10時〕
Aコープを出た村田は、これから自分の店に魚を見に来いと、半ば強引に誘います。押しの強さに押し切られて、社本家は行くことになりました。村田が乗っているのは赤いフェラーリです。社本たちは村田の車のあとをついて移動しました。村田の店は派手な看板を掲げた『アマゾンゴールド』という大きな店でした。

〔午後10時22分〕
店を案内しながら、村田は「商売はエンターテイメントだ」と言いました。村田の陽気さに、妙子、美津子の女性陣は絡め取られますが、信行だけは戸惑いを隠せずにいました。村田の名刺までもが、派手でした。信行が熱帯魚を見ていると、奥から村田の妻・愛子が出てきます。愛子と村田は年齢が離れており、愛子はまだ35歳でした。

村田は信行に、事情がありそうだから美津子を自分が預かると言い出します。年頃の女性が「家でくすぶっているのはよくない、責任持って預かりましょう」と村田は言います。

〔午後10時55分〕
村田が社本の店を見たいと言い出し、村田夫妻が社本家に行くことになりました。この機会にフェラーリに乗ってみろと村田が助手席を美津子に勧め、その代わり村田の妻・愛子が信行の車の後部座席に乗ります。
店を見て回った村田は、感心しきりでした。おさえるべき魚はきちんと入荷しており、魚がいきいきしていると指摘します。信行は「世話は妻の妙子がしている」と言いました。雨がやむと共に、村田と愛子は帰っていきます。

その夜、布団に入って天井の蛍光灯を見つめた信行は、プラネタリウムの空を思い出しました。信行の夢は、家族が平和に暮らすというただそれだけの、ささやかなものでした…。

翌日、美津子が世話になるので、社本一家は村田の店へ行きます。店には袖無しTシャツに短パン姿の女性ばかりが、スタッフとして働いていました。そこへ美津子も加わることになります。村田がスタッフのひとりを呼びました。さわだゆうこというショートボブの少女が、美津子の世話役をするそうです。スタッフが暮らす寮に美津子も加わり、住み込みで働くことになりました。

ここで同じ田舎なのに、同業者で稼ぎが桁違いの村田との出会いとなります。同業で同じ地域での活動なのに、稼ぎが全く違うという点、年齢差のある奥さん、スタッフの年齢層や服装と色々な違和感と村田の明るい感じが、これから何か起きそうという予感を感じさせる演出で、どこか恐怖を覚えるような演出で村田の深みを描いていました。ここも比較的テンポ良く描かれていて、あっという間に物語が進んでいく感じも村田の違和感を演出していたように感じます。

またプラネタリウムは信行が好きという設定で描かれていますがここは人物描写とテーマの2つの部分で重要な意味を持ちます。まず人物描写として社本自身は地球を美しく美化して見ている傾向にあります。ですがこれから出てくる、地球の姿はどこにも美しいものなんてなく、工場の煙などによってくすんで見える富士山であったり、信行が描いている理想とはかけ離れた世界を見せられることになります。そして信行はこの映画の中では最も人間らしい人間です。そことこれから垣間見える動物的な村田との対比にもなってきます。

もう一つのテーマの部分という点で、何回か地球のカットやシーンがこれからも出てきますがこれは遠くからみた地球の美しさとこれからの現実の地球の汚らしさの対比であり、地球を俯瞰して見ている構図にもなります。そういった意味でこの映画の中で今回テーマの重要な部分としてプラネタリウムのシーンがあります。

ここまでが物語の概要と人物描写となっています。ここから一気に人間が動物的になり、地球は岩になっていく描写に変わってきます。

仕事があるだろうからと信行を帰すと、妙子と「今後の話し合いがある」と愛子が引き留めます。村田と愛子は2人がかりで、妙子に話しかけました。連れ子の扱いに困っただろう、自分のせいだと責めて、ふさぎこんだんだろうと声をかけます。旦那である信行がよくないと言って、村田は妙子に服を脱げと言い出しました。軽く平手打ちしながら、妙子に服を脱ぐよう命令します。妙子は途中から「もっと殴ってください」と言いました。

帰宅した妙子は、村田がビジネスパートナーとして話があるらしいと、信行に伝えます。アマゾンで仕入れた魚を養殖し、増やして売るというものでした。成功すれば何千万ものビッグチャンスだと妙子が発破をかけます。信行は困った顔をしました。

〔1月21日水曜日 午後2時50分〕
信行が村田の店へ行きます。娘の美津子は忙しそうにしており、声をかけられません。応接室に通されると、そこには先客の男性・吉田アキオと筒井高康がいました。吉田アキオはビジネスパートナーとして声をかけられている男性で、筒井は村田の顧問弁護士です。村田は吉田に、「1000万する熱帯魚のオスとメスを繁殖させる」と口説いていました。村田は、すでに信行が参加するような口ぶりで話します。吉田は半信半疑でした。そこで弁護士の筒井が「初期投資は必要」と横で話します。それでもまだ吉田は疑問視し、「高級魚でも100万くらいと聞いている」と意見しました。すると村田は突然怒り始め、ならば信行と2人でやっていくと宣言します。村田の激昂した顔を見て、吉田は焦りました。
信行が村田を呼び出しますが、村田は「吉田の前では何もしゃべらなくていい」と答えます。出資はできないと信行が言うと、「金は用意しなくていい。手入れだけフォローしてほしいのだ」と村田が告げました。

ピラニアが小さな魚を食べるのを見て、にやりと笑う娘・美津子を見た信行は、美津子に呼びかけますが無視されます。部屋に再び戻ると、吉田が弁護士の筒井に指示されて、何かの契約書にハンコをついていました。契約が終わった頃に妻の愛子が栄養ドリンクを持ってきます。それを飲んだ吉田は、直後に苦しみ始め、水を求めました。水を渡しても苦しみはおさまらず、信行の見ている前で吉田が死にました。信行は大いに動転しますが、村田も愛子も、筒井も当たり前のように受け止めます。村田は「これで58人目だ」と言うと、信行に命令し始めました。圧倒された信行は逆らえず、言われるまま愛子と共に吉田の遺体を毛布にくるみます。

美津子を送った後に帰る信行の描写からくすんだ富士山が出てから、村田の本当の姿が思っているよりも早く一気に出てきます。村田は一種の洗脳技法で妙子、吉田、信行が村田によって掌握されていきますが、少々無理があります。これは単純に映画としての欠落かなと最初は思いましたが、実はそうではなく、あえて村田の人物描写をなくしています。

その理由は信行との対比構造によってテーマを浮き彫りにするため。
信行との対比というのは信行と村田たちのことであり、信行はプラネタリウムの美しい地球や家族円満を夢見る物凄く人間らしい部分があり、実際作中もずっと人間らしさがあるのは信行だけなのです。ここで一気に村田たちが動物と化して妙子を抱いて妙子は動物としての圧倒的な力に喜んで身体を差し出します。美津子がピラニアに魚を食べさせてニヤッとしているところとリンクします。これは弱肉強食の様であり村田たちによって社本一家は食われていることの構図にもなります。そして信行の人物描写がしっかりとなされているからこそ村田の人物描写がなくても違和感を感じずテーマを表現するための手法なのだと理解できます。

〔午後4時22分〕
軍手をはめた村田、愛子、信行は、吉田の遺体を車のトランクに入れました。言われるまま、信行は車の運転をさせられます。

〔午後9時〕
村田の案内で、車は山中に到着しました。そこには廃墟となった教会のような建物があります。和風家屋なのですが、入り口には磔刑のキリスト像が飾られていました。愛子は家に入ると、ライターと殺虫剤で手早くろうそくに火をつけ、遺体は風呂場へ運びます。村田と愛子がすべて作業を行ないました。信行は娘の美津子を盾に、逃げるなと命令されます。村田も愛子も慣れているようで、風呂場で談笑しながら遺体の解体をしていました。遺体をパーツごとに分け、骨と肉は完全に分断しました。肉をからあげサイズにまで刻みます。「おい、入って来い。終わったぞ」村田に言われて風呂場に近づいた信行は、おびただしい血であふれた凄惨な風呂場を見て、血のにおいにむせかえります。村田は吉田がつけていた高級時計を「お前にやる」と投げてよこすと、コーヒーを淹れてくれと言いました。

信行は汚れた台所の流しで吐きますが、村田と愛子は鼻歌をうたいながら風呂場の掃除をします。その館は村田が言うには、小さい頃に閉じ込められていた場所だそうです。現在は誰も使用していないようで、ただの廃墟となっていました。ドラム缶に火を起こすと、村田は骨を焼きます。火にくべた後、油を注いで高温で焼きました。夜を徹して作業をおこない、最後に灰を集めます。判断ができない状況下に追い込まれた信行に、村田は次々に指示を与えた。

〔1月22日木曜日 午前6時20分〕
車で山をおりる途中、橋のところで村田は「止めろ」と言いました。誰も見ていないのを確認すると、ビニール袋に入れた肉片を川に捨てます。魚の餌にするのです。「次は骨だ」と言い、灰を崖から撒きました。これで吉田の遺体が見つかることはなく、遺体がない以上、事件として立件が難しくなります。村田はこれを「ボディを透明にする」と表現しました。村田は信行に、「うちへ戻って平静を装え。飲んでたんだと言え」と指示します。信行の小心ぶりを見た村田は、「自分の小さい頃にそっくりだ」と吐き捨てるように言いました。

〔1月22日木曜日 午前7時53分〕
帰宅した信行は妻の妙子に抱きつくと、詫びと礼を言います。「愛してる」とも告げました。望まない形ではあるものの、犯罪に加担してしまった信行は、戦々恐々と過ごします。小心者の信行は、夜も満足に眠れませんでした。水を飲んで落ち着こうとします。

村田は映画内でこう発言しています。「俺にとって地球はただのゴツゴツとした岩だ」と言っています。これは村田が動物的であり、どちらかというと神の視点から物事を見ているからこその発言だと思います。その証拠に村田の解剖所にはキリスト像があり、解剖する前に儀式のようにやっています。さらに骨を燃やした後こなにして、余った肉を魚にあたえます。他にも「ボディを透明にする」という発言などから、自分が人間を超越したものと自分自身感じているだろうし、そのように描かれています。

〔1月29日木曜日 午後2時15分〕
信行は村田のところへ行き、美津子を帰してほしいと頼みます。村田、愛子、弁護士の筒井が事務所にいました。筒井の部下の茶髪男性・オオクボヒロシも黙って座っています。その時に、吉田の弟分を名乗る男が、村田の店に電話をかけてきます。吉田がもう1週間も戻ってきていないと言った男は「明日、そっち行くからな」と電話を切りました。信行は動転しますが、村田たちは平然としています。信行は娘の美津子のところへ行き、「帰ろう」と言いますが、美津子は拒否しました。再び事務所に連れられた信行は、口裏合わせの練習をさせられます。「吉田は金を持って誰にも告げず、女性と逃避行をしたのではないか」という筋書きを描き、自分たちは一切吉田の失踪に関わっていない振りをします。村田は何度も「死体がなけりゃ、ばれっこないんだ」と、信行の不安をかき消すように言いました。

信行はこの日、バスに乗って店までやってきていました。出がけに妻の妙子が車を使っていたからです。弁護士の筒井が信行を送ると言いました。村田の妻・愛子も車に乗り込みます。筒井は車中で信行に「自分の味方をしろ」と言い始めました。もともと『アマゾンゴールド』の店は愛子に所有権があり、村田はもう終わりだと言った筒井は、村田を倒す時には手伝いをしてくれと、信行に言います。愛子も筒井の前では、筒井の味方をします。信行を家まで送り届けた筒井、愛子、オオクボは、信行の店へ顔を出しますが、すぐ帰りました。

信行は妻の妙子を、半ば強引にプラネタリウムに連れていきます。戸惑っていた妙子ですが、プラネタリウムを見終わると、「最初のデートの時のことを思い出した」と言いました。

圧倒的な村田の存在感を示したあとは、村田にやってくる危機で、騙した相手が悪くてヤクザみたいな男たちの兄貴を殺してしまったために面倒ごとに巻き込まれてしまう。いわゆる物語の起承転結の「転」の部分に当たる。村田の圧倒的存在の陰りと同時に信行にも変化が訪れていた。

信行は強引にプラネタリウムに妙子を連れ出し、妙子が少しときめいているのです。これはあれだけ冷め切っていた夫婦としてはかなりの変化になります。つまり妙子もこの映画では動物的に描かれているので本能的に信行の変化に気づいているのだと思います。ただ当の本人はそのことにあまり気づいていないけれど、少し動物的になってきている片鱗がこの妙子とのプラネタリウムのシーンにあたります。


〔1月30日金曜日 午後2時08分〕
吉田の舎弟が6人、村田の事務所を訪問します。村田は詰め寄る舎弟たちに対し、むしろ自分が被害者のように装いました。弁護士の筒井は、舎弟たちを恫喝します。信行は指示されるまま、前日に練習していた言葉を並べました。確たる証拠が一切ないので、舎弟たちも引き下がります。その後、愛子は弁護士の筒井と出かけました。運転手はオオクボです。筒井宅に行った愛子は、筒井と関係を持ちました。途中でオオクボを呼び、行為を見ておいてくれと言います。

信行は事務所を出て車に乗り込もうとした時に、静岡県警捜査一課の川尻進警部補に声をかけられました。名刺を渡されます。川尻は、村田の周囲で行方不明になった者が30人以上にものぼることを告げ、さらに村田の助手のようなことをしていた男も、妻子ごと消えてしまったと言いました。「もう奴の共犯者じゃないでしょうね。くれぐれもご注意を」と川尻に言われました。川尻が去った後、村田に呼び止められた信行は、反射的にもらった名刺を車のダッシュボードに入れます。妻の妙子に短い電話をかけ、「何かあったら車のダッシュボードを見ろ」と言いました。村田は信行の車に乗り込みます。信行の車を、川尻たちの車が尾行していました。それを知る村田は道順を指示し、強引に尾行をまきます。

ここでも村田が少しずつ立場が危うくなってきていることを証明しています。今まで警察の尻尾すら掴ませていなかったのに警察にも目をつけられてしまいます。

〔午後5時23分〕
筒井宅に到着した信行は、倒れた筒井を目撃しました。救急車を呼ぶと電話しようとしたオオクボを、村田が絞殺しました。オオクボの茶髪はカツラだったことが、殺した際に露見します。愛子と村田は手際よく2つの遺体(筒井、オオクボ)を毛布で包むとガムテープで固定し、運び出します。愛子が先に家を出て様子を確認し、誰もいないのを見てから車に入れました。

前回と同じ山中の廃屋に運び込むと、風呂場で村田と愛子は解体を始めました。村田は信行に「向こうで休んでいろ」と言われます。信行はラジオを聞いてやりすごしました。相変わらず村田と愛子は、死体を解体しながら談笑していました。作業の途中で村田が信行を呼び、「死体を透明にする方法」を覚えておくと便利だと言います。骨と肉を分け、肉片はからあげ大にまで切るのだと説明する村田の言葉を、信行は呆然とした顔で聞いていました。その後も前回と同じように、インスタントコーヒーを淹れさせられます。火を起こし、前回と同様、衣服とオオクボのカツラ、骨を焼き、油を注ぎました。筒井は欲をかいて金の増額を要求し、村田の怒りを買っていました。

このシーンでは村田が喰われるかと思いきや、村田は逆に反逆者の筒井に対して逆に食ってかかりました。村田を呼んで死体を透明にする方法を説明したシーンは技術の継承を意味していると思い、まだ信行自身は目覚めていないけれど、信行は村田の技術を継承していく様が描かれています。村田がなぜ信行にここまで後継者として考えているのかは定かではないけれど、おそらく以前の自分にそっくりだということで昔の自分にダブらせているのかなと思います。

〔1月31日土曜日 午前6時50分〕
今日は信行が捨てろと、命令されます。ひるむ信行に対し、村田は妻の妙子の「背中のほくろが可愛いな」と挑発しました。信行の眼鏡を捨てられます。妙子と村田が関係を持ったと知った信行は、怒りが湧きました。さらに村田はあおり、「殴ってこい」と言います。信行は村田を殴りましたが、その力は弱いものでした。しかも信行は殴った後、泣き崩れます。村田は信行を殴ると「共犯者だろ」と言い、今すぐ目の前で愛子を抱けと強要します。車のトランクに腰かけた愛子に覆いかぶせられた信行を、背後から村田が尻を押します。行為の最中、トランクに鉛筆を見つけた信行は、愛子の首に突き立てました。さらに振り返り、村田の首も刺します。愛子の傷は、致命傷になっていません。後部座席に逃げ込んだ村田を追いかけ、信行は何度も鉛筆で村田を刺しました。虫の息の村田を後部座席に乗せたまま、信行は再び山中の廃墟に戻ります。愛子に「村田を降ろせ」と命令し、包丁を突きつけて「楽にしてやれ」と言いました。愛子は信行に言われるまま、テレビで殴って村田を殺します。風呂場まで運ぶよう愛子に命令した信行は、強引に愛子にキスをすると「今日からお前は俺の女だ」と宣言しました。愛子は盲目的に、信行を信頼するようになります。

信行は愛子に村田の解体を任せ、自分は車中の血痕を拭きました。その後ふもとへ降り、村田の店にいる美津子を殴りつけて「言うことをきけ」と言い、強引に家へ連れ帰ります。

〔2009年1月31日土曜日 午前11時35分〕
美津子を連れ帰った信行は、先に美津子へ家に入れと言います。車中に残った信行は、頭をハンドルに何度もぶつけました。家で向かい合っている妻・妙子と美津子のところへ入ってきた信行は、妙子に「食事の用意をしろ」、美津子に「お前は着替えてこい」と命令しました。いつもと違う居丈高な態度に、妙子と美津子は従います。3人で食卓を囲む最中に、美津子の携帯に電話が鳴りました。相手は美津子の彼氏ですが、信行は「食事中に席を立つな」と言います。表に出た美津子を平手打ちして気絶させ、信行は金髪頭の彼氏も殴りつけ、車にぶつけました。気絶した娘の美津子を部屋まで運んだ信行は、妻の妙子に「村田と寝ただろう」と言うと、自分との結婚は大間違いだったと思っているんだろうと、大声で詰問します。信行の言葉は、妙子の本音でした。認める妙子を、信行は犯します。行為の途中で美津子が目覚め、「おめーら、何やってんだよ」と言いますが、信行が殴って気絶させました。

〔1月31日土曜日 午後2時32分〕
妻・妙子と娘・美津子を車に乗せた信行は、山のふもとまで移動します。川尻警部補に電話した信行は、「カタをつけてくる」と告げました。川尻警部補はいぶかしみ、信行の携帯のGPSで場所を確認し、出動します。

〔1月31日土曜日 午後3時34分〕
妻と娘を車中に残したまま、信行は廃墟に入りました。愛子が作業の手を止め、「半分終わった」と嬉しそうに報告します。その愛子の頭部を、信行は鈍器で殴りました。愛子も反撃し、揉み合いになります。愛子が持った包丁を奪い、信行が腹を刺しました。愛子は死亡します。廃墟の外に、川尻警部補らが駆け付けました。

〔1月31日土曜日 午後4時24分〕
廃墟の外にある椅子に血まみれで座っていた信行は、川尻警部補らに「中です」と告げます。川尻らは風呂場に行って凄惨な現場を見て、思わず声をあげました。妻・妙子は示されないながらも、夫の信行が自分たちを守るために奮闘していたのだと気付き、涙を流しながら車から出て、信行に抱きつきます。抱きつく妙子を、手に持った包丁で信行は刺していました。くずおれた妙子を見て、娘の美津子もあっけにとられ、車から出ました。美津子の方を向いた信行は、「お前はひとりで生きていけるか? 生きていきたいんだよな」と言います。信行は美津子の腕を刺しました。美津子が痛がるのを見て「人生ってのはな、痛いんだよ」と言います。信行はその後、包丁で自分の首を掻き切って、死にました。父親が亡くなって悲嘆にくれるかと思いきや、娘の美津子は高らかに笑います。「やっと死にやがったな、クソジジイ。起きてみろよ、クソジジイ」と言いながら、何度も信行の遺体を蹴りつけます。プラネタリウムで説明される時に表示される、地球が映し出されます。

信行は村田を殺し、愛子を従順に従わせました。愛子ももちろん動物的に描かれているので、村田を殺した信行の方が動物として優秀と判断してころっと従順な姿になったのかと思います。

では信行も動物的になったのかという部分については、個人的にはなっていないと思います。理由は美津子を強引に連れ出したり、妙子に食事の準備をさせているけれど頭をハンドルにぶつけている姿は、これから自分がやろうとしていることに対して納得の行っていない様子のように感じられるからです。

娘や娘の彼氏を殴って気絶させたり、妻の不倫を問い詰めひっぱたき、娘の前で妻を抱いたのは動物的な行動に思えますが、最後のシーンで信行が自殺します。動物には生存本能があるので、自ら死を選ぶということは人間としての理性が働いている証です。このラストの部分は信行自身が動物的になろうとして自分の欲求を全て爆発させたがなれないのはわかっているので、せめて娘には真っ当に生きてほしいと願い「人生は痛い」とメッセージを伝えるも届かず死んだ後に娘に大喜びされ、蹴飛ばされる。なんとも悲しい結末となってしまいます。園子温監督自身がインタビューで仰っていた「ダメな人生は徹底的にダメになる」という部分を描いたのかなと思います。この映画は弱い奴はとことん弱いし、弱いままだよ。という生物の縮図「弱肉強食」をリアルに冷徹に表現した救いのない映画だったのです。


■個人的な感想

強く感じたのは人間を描かずして人間を描いていた。要するにこれぞ人間の本質だなと感じた。よく人間の本質を描いている作品を見るけれど、それらの作品が紛い物に見えるほどにこの作品は人間を動物的に、宇宙人的に描いているように感じた。私たちはまるで宇宙から地球に住む人間を見せられているかのように感じるほど、狂気的な本能的な人間が見られてあっという間の2時間半だった。
人間の本質を描いた作品であれば間違いなくこの作品の右に出るものはないなと感じるほど、人間が動物的に描かれていたそんな作品でした。







































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