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キックボクシング 11章~何も聞いていない~

 ブーブー またスマホが鳴ったので佐藤の方を見ると、佐藤は校長に滅されてはいない唯一の在校生のようだった。大翔は携帯を取り出し、メッセージを見た。
『大翔バカすぎ。来ないならお詫びに何か奢って?』
 なぜ行かないだけでお詫びしないといけないんだろう。まあ、何かって言ってるし、奢る物は何でもいいんだろうけど。
『水道水とかで良いなら全然奢るよ』
『また足踏まれたくなったのかしら? どうなのかしら?』
『ですよね。ダメですよね』
 そう言えばさっきの自己紹介の時助けられたっけ。いつも雑誌を見せてあげていたのに、佐藤に何かを奢ることになるなんて、めちゃくちゃ悔しいがまぁ何か奢ってやるのも悪くないか。
『分かったよ。今度飯奢ってやる。さっき自己紹介の時に俺のサポートしてくれたし、そのお礼な』
『分かった』
「それでは、これで入学式を終わります。ご来場の方々、ご退場お願いします」
 2人はスマホを閉まった。
 入学式が終わり、保護者と在校生が出て行くと、新入生だけアリーナに取り残された。大翔は早く帰りたくて反射的に貧乏ゆすりをした。何となくゆすっていた足が怪我した方の右足で、チクッと針を刺されるような痛みが走った。
 しかし、ふと思い返すと、何分間か貧乏ゆすりをしていたことに気が付いた。大翔は自分でも驚き、右足を見ながら怪我自体は思ったより大したことは無いことを確信した。早ければ十日、遅ければ二ヵ月かかる。美奈さんに言われたその期間が気になっていて、大翔の中では結構な不安要素だったが、この怪我は十日コースであることを確信し、ちょっとした安心感が出て来た。
 大翔が喜びに浸っている中、各授業の担当教員が担当科目を言いながら自己紹介していた。寝ていた他の生徒もいつの間にか起きていて、教職員の自己紹介に耳を傾けていた。
 そんな中、大翔は全く自己紹介を聞かず、治ってきていることの嬉しさから、『どのくらい右足を動かしたら痛みが走るのかを確かめる』というチキンレースを始めた。
 ここまで足を動かすと痛い。ここまでなら痛くない。ここよりもうちょっとなら動かせるはず・・・・・・。まだいけるか、俺ならいける・・・・・・痛っ。って事はもうちょっと、足を下げれば痛くないって事だから・・・・・・。あ、若干痛いかも。
「え~では皆さん。これで教職員からの自己紹介を終わります。全員教室に戻りましょう」
 あ、やべっ。全然聞いてなかった。まあ、教職員の名前を知らなくても、先生って言う共通の呼び方があるから、知らないことははぐらかせる。そう考えると先生って呼び方って最強だよな。

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