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クリエイティヴ・ライティング入門(3)「創造と治癒」


文章を書くメリットは無数にあるが、人間にとって最も価値あることをあげるとするなら「治癒」である。過去に起きた自分にとって不条理で苦しい体験、誰にでもある哀しく辛い出来事、それを書くことによって、精神的なダメージを克服し、治癒へと向うことができる。

創造的な行為はむしろ、治癒のプロセスとして現れる。人間はダメージから立ち直るために創造する……と言い換えてもいい。
人間のもっている自己治癒能力の発露として、表現活動が存在することは過去の芸術家たちの人生と作品を見れば理解できる。日本の文豪、とりわけ近代文学を築いた作家たちの苦悩の人生。多くの作家が、いやほとんどの作家が自身の内的な苦しみを作品として昇華してきた。太宰治しかり、芥川龍之介しかり、森鴎外しかり……である。

文学だけではない。絵画でも同じだ。ゴッホや、ゴーギャンなど、印象派の画家たちの人生は消して幸福とは言えないが、芸術家は人生を通して自身の苦悩のプロセスを作品に表現し、自己治癒へと向っていった。より自分らしい、自分だけの人生を創造するために、表現へと向う。それが人間だ。

近代に始まった芸術療法はシュールリアリズムから発生した。写実ではなく、個人の内的な真実を表現すること、それが人間の精神を開放することが示された。社会的な抑圧によって押し込められた自己が、本来の自分を取り戻していくプロセス、そこに着目したのが、近代の芸術療法で、精神的ダメージが創造的な行為によって回復し、成長していくことが証明されていった。その礎となったものの一つに、精神科医カール・グスタフ・ユングの研究があり、田口ランディのクリエイティヴ・ライティング講座もユング心理学をベースにして構築されている。

私のクリエイティヴ・ライティングは、フィクションという方式を使って自分の体験の「内的な真実」へと迫る。それが、通常の創作講座とは違うところだ。あくまで体験をベースにしながら、そこに「自分だけの真実」を描いていく。誰かにとっての真実ではない。社会にとっての真実でもない。自分にとっての真実だ。

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