ねじれ
ねじれている。ねじれがどんどん強くなる。ねじ切れてしまったら、どうなるんだろう。
……って私が言ったら本橋君(27歳)は怪訝な顔をする
「さっきからねじれがどうのって、何言ってんですか?」
「G7サミットだよ。七カ国の首脳が平和祈念公園に花を手向けた。ニュース映像として美しかった。少なくともイヤな気分にさせるニュースじゃない。だけど、私は猛烈にしっくりこない」
「そうですか、平和資料館も見学してくれたし、原爆のことを理解してもらえてよかったじゃないですか」
「いくら核廃絶を訴えていても、日本は「核兵器禁止条約」に署名すらしていないんだよ。政府のやってることって矛盾している」
「えー? 日本はなんで署名しないんですか?」
「理由はいろいろ説明しているけれど、どれも納得できない。日本は【核拡散防止条約】ってのには署名しているんだけど、【核兵器禁止条約】には署名しなかったんだ」
「その二つって、どう違うんですか?」
「えっとね。核兵器禁止条約は、核兵器の全廃を目指す条約。例外は認めない。それに対して、核拡散防止条約は米国、ロシア、英国、フランス、中国の5か国(核保有国)の保有を認め、それ以外の国々(非核保有国)は核を持つことを認めない、っていう条約」
「それって不公平でしょ」
「すでに持っているところはしょうがないとして、これ以上の保有を禁ずるっていうわけだよ。日本はそっちには署名している」
「なんか、ご都合主義な感じがするんですけど……」
「拡散防止の方は、核を必要悪として認めているわけ。禁止のほうは、核は悪だから絶対ダメってこと。長年、世界では核は必要悪で、核を持つことで力関係が均衡になり平和が維持できるって考えられてきた」
「なるほど〜、必要悪ね。でもそんなこと言っていたら、いつまでたっても核はなくならないでしょ」
「日本の言い分としては、日本はアメリカの核の傘に守られてこれまで安全だった、でももし核廃絶の立場に立ったらアメリカに守ってもらえないからやばいよ、ってことなんだよ」
「うわー、立場弱い〜情けねー」
「そうなんだよ。なんかいつもコウモリみたいにあっちについたりこっちについたりしながら、このちっちゃな極東の島国で生きていこうとしている日本人って、けなげっていうか……。実際、めっちゃ周りに気を使ってるからさ、それでなんか国民も幸せ感持てないんじゃないかって思うよ。この国は筋を通せないよじれの中に入っていて、八方塞がりの状態なんだよ」
「それって、あちらを立てればこちらが立たず……みたいな?」
「そうそう、そんな感じ。世界全体が八方塞がりって言えばそうなんだけどね。複雑にからみあっちゃっているから……」
ここから先は
Web magazine「ヌー!」
田口ランディが日々の出来事や感じたことを書いています。
日々の執筆を応援してくださってありがとうございます。