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子どもと悪(河合隼雄)

親のための本というよりは、この日本社会に疑問を持って、生きづらさを感じる人のための本かもしれない。

谷川俊太郎氏や、田辺聖子氏との対談を元にしたエピソードも含まれていて、面白い。

本書は、いわゆる悪といわれる「窃盗」「自殺」「うそ」「秘密」「性」や、「いじめ」などの社会的な問題も含めて、子どもと親がどう向き合うかだけでなく教育現場や日本社会への問いかけをしている。

・盗みはなぜ悪いか?
・人と仲良くしなければ良い子ではないのはなぜか?
・自殺はなぜ悪いのか
・援助交際はなぜ悪いのか
・うそは絶対にいけないことなのか
・ルールはなんのためにあるのか?
・いじめはいけません、と言い続けて本当に根本的な解決があると思うか?

『ただ、なんとなくダメっぽいのはわかってる。でも、衝動が抑えられない。』
そんな子どもたちに、大人はどう対峙するべきなのか?
そのヒントが本書にはあった。

わたしはどうだっただろう、と振り返る。

スーパーマーケットで、言えば買ってもらえるのにチョコレートをくすねようとしてみたり。
それが時に本だったり。
性描写の入ってる漫画が面白くて親に隠して読んだり。
少し話を面白くしたくて、小さな嘘をついてのちのち大変なことになったり。
したいわけではなかったけど、援助交際に興味を持って、友だちの話を興味津々に聞いたり。
別に好きでもない人と遊んで、ちょっと怖い目をみたりーーーー
親に言ったら叱られるかも…とドキドキしながらもやっていた、いわゆる"悪"みたいなことが、振り返るとたくさんあるのだ。

もちろんそれらについて、同意するわけではない。危険なことは危険だし、私はぎりぎりで犯罪には巻き込まれず、なんとか不良少女にならずに済んだのだ。
ただそれだけなのだ。

人生を面白くするためのウソと、自分のした悪いことを隠す人を傷つけるようなウソとは別ものだと、本書には書いてあった。

私は、それを知っている。
しかしその具体的な区別を親に教えてもらったわけではない。
自分がウソをついた経験から学んだのだ。もしくは、漫画や絵本の登場人物が、大事な人を傷つけた話を読み、自分ごとに捉えて教訓として残った。

そのような経験がある人は多いのではないだろうか?
本来、おそらく子どもは自ら学ぶことができる力を持っているのだ。それを大人はなかなか信じることができない。大人自身が"自分"を信頼できていないからだ。

子どもの悪を、大人は止めることなどできないし、止めようとすることは、また違う形で"悪"を呼び覚ますきっかけになる他ない。

静観し、時に叱咤し、それでも受け入れ、愛を示す。
言葉で言うのは簡単だが、なかなかそうもいかない。そんな多くの親の葛藤も、本書には具体例もふまえて記載があった。

河合隼雄は言う。
どんな正しいことも、"スローガン"になると硬直する。対立するかのように見える厳しさや優しさをいかに自分という存在の中で両立させるか、その両立の仕方こそ"個性"である、と。

現代人の抱える不安は大きい。
少しの悪をも自分に対して許せぬ気持ちが、子供に向かい、敏感に察知した子供たちは圧力に打ちのめされる。そして彼らの個性は死んでゆく。

簡単に善と悪は切り分けられるものではないのだ。
もしかすると、本当の悪は大人たちの善意の中に隠れているのかもしれない。

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