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東京グランドキャバレー物語★13 ショータイムはヌードショー

 私は、大きな声では言えないが過去に一度だけ、温泉街のストリップ劇場に行った事がある。温泉につかり、ちょっと夕暮れの町を女性5人組、お酒も入り良い気持ちでふらふら歩いていた。
その時
「ハイ、そこのお嬢さん達!女性大歓迎!何でも人生の勉強だよ!そんじゃそこらじゃ見られない観音様の御開帳だよ~」
 観光客相手の呼び込みのおじさんの大声につられ、ピンクやブルーの裸電球が妖しく光る、ストリップ劇場と大きく書かれた入口の前で、全員が立ち止まった。
「何でも人生ありだよね」
「今を逃したら、一生来ないし見れない気がする」
「皆一緒だしね」
「行ってみようか?」
「レッツ ゴー!」
 開放感と若さと恥のかき捨ての勢いで、勇ましい言葉を口々にしながら、躊躇せず全員で足を踏み入れた。中は暗く、地元のおじさんらしき人達が数人いたぐらいの小さな舞台だった。ほんの十分前に入場券を売っていた女性が、スポットライトの中で裸になって踊り始めたのには、皆が驚いた。事務とストリップ嬢との兼業と言うべきか。
 古びたスピーカーから流れて来た演歌の曲が、妙に生々しく、40分程のショーは、大部分が裸のその女性が一人で体をくねらし舞台狭しと踊り、時折見せる秘芸であっという間に幕を閉じた。
 うら若き乙女であった私たちの、熱い思い出の一つとして各々の心の片隅に残っているのだった。
 
 毎週木曜日、グランドキャバレーの看板メニューのヌードショーがある。
私は、お客様以上にその日を心待ちにしていた。流行る気持ちを抑え、お客様のお酒を作りながら、ステージばかりを気にしていた。
「福ちゃん、今日は、何か上の空だねぇ~。彼氏のことでも考えていたの?」       
 と、お客様の高橋さんに、言われてしまった。
「あっ、スミマセン。実は、これから始まるヌードショーって、すっごく興味があるんです」
「なに?福ちゃんヌードダンサーにでも、なりたいの?」
「まさかぁ!違います!私が踊り子さんになったら、皆、帰ってしまいますよ~」
 笑いながら私は、否定した。
「そんなことないよ!福ちゃんがダンサーになったら、前列に席取るね」「きゃあ」
 私は、小さな悲鳴をあげた。
「本当ですか?嬉しいような、恥かしいような」
 意外な一言に照れながら、もじもじした。
「だけどね、僕なんか、ヌードショーなんて、見飽きちゃったよ」
 高橋さんがおっしゃった。
「えぇ?そうなんですか?男性でも、飽きる事なんてあるんですか?」

 ウイスキー好きの高橋さんは、グラスを手で廻しながら、適度な形に溶けていく氷を見届けると、クッと一口飲み、こう言った。
「何十年僕がキャバレー通ってると思う?かれこれ30年は経つかな。若い頃は、その日にヌードショーがあるって聞くと、わくわくしたもんさ。今の福ちゃんと同じ、まだかまだかって、待ち遠しい気持ちになったね」 
「きゃあ」
 二回目の小さな悲鳴をあげる。
「だけどさ、今は、ヌードショーで裸の女性が踊たって、近くに寄って来たって、何も感じないね」
「高橋さんは、飽きるほどヌードショーを見たって言うことですか?」
「まぁ、そんなところだよ、福ちゃん。穴が開くほど見たんだよ」
 あははははは。あはははっは。

明るい笑い声が響く、高橋さんは、スマートでそれなりに人生を謳歌して来たダンディな人物だ。
「今はさ、演歌歌手がしっとり歌って、握手とかしてくれる方が嬉しいな」
 高橋さんは、言った。

ジャ~ンとバンドのギターが、始まりの音を流すと、ざわついていた店内がシーンとなった。
「ほら、福ちゃん、お待ちかね。ヌードショーの始まりだよ」
 高橋さんが、私の顔をのぞきこんだ。        
恥かしさのあまり私は、真っ赤になり、変な言い訳をした。
「福は、本当にヌードダンサーになるつもりは、ありませんから!」

        つづく