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東京グランドキャバレー物語★1 就職難、私が選んだ道は・・・

 私は、毎日の様にハローワークに通い続けた。
その年は、世間は就職難の風が吹いており、デパ地下のお惣菜屋、鉄板焼き、牛丼屋。何とスーパーのレジでさえ、どこもかしこも通らなかった。
不合格である。
なぜ?どうして?何がいけない?この私の美貌か?頭脳だろうか?

 日が暮れた町を、私は運のなさを嘆きながらふらついていると、道の反対側にある一件の大きなビルが目に入った。入口近くに華やかなドレスを着た数人の女性達が談笑している。私は、彼女達が中に消えた後、そっとそのビルに行ってみた。

 ホステス募集と大きな看板が目に入った。さらに、その下には高収入!ともうたっている。
「これだ!」
「さっきの女性達は、ここのホステスさんか!」

 私は、外に立っていた黒服の男性に意を決して
「社長は、どこ?」
 と尋ねた。何度も就職の面談で落ちている私は、度胸だけは据わっている飛び込みの直接交渉だ。

「社長は、5階にいますよ」
 黒服の男性は、にこやかにエレベーターの5階のボタンを押した。
心臓はバクバクしている。

 ホステスって、何すれば良いんだっけ?お酒作って、おしゃべりするって感じかしら?アポなしで面接行っちゃって大丈夫かな?
 ゆっくりとエレベーターが5階に上がって行く間に、あれこれ考えた。

 エレベーターがガクンと止まり、重いドアが開いた、古臭い、けれど、どこか懐かしい。昔どこかで嗅いだ事のある甘い匂いが、その空間に広がっていた。

 私のこれからの未来が回り始めた瞬間だった。

つづく