Blue Monday は終わらない

自分の人生なのに「やりたいことが分からない」なんて、いよいよわたしも気が狂れたみたいだ。小学生のときは、ずっと花屋さんになりたかったし、中学生になってからは映画監督になりたかった。高校時代は、映像制作に明け暮れて、その後は映画を勉強する大学へ進学した。
でも、いつしかわたしのそういう情熱は、都会の雑踏の果てに消えていった。

久々に会いたい人がいた。
何年か前に知り合ったバンドマンだ。ステージに立つ彼を初めて見たとき、わたしの中のあらゆる細胞が弾け飛ぶ音がした。彼は、目が眩むような光そのものだ。大きな手から紡がれる繊細な音色に誰もが心を奪われる。
才能に溢れていて、キラキラしている人なのだ。そんな彼に、久々に会いたくなった。

新宿で待ち合わせをした。
「久しぶりだね」と現れた彼は、着古された黒いスーツに身を包んで会社員みたいだ。少し疲れているようで、何故だかとても小さく感じた。

それから食事をしながら、仕事が大変だの最近どうだの、すごくつまらない話をした。会話の中で、彼がとっくに音楽をやめていたことを知った。
身勝手なわたしはひどくショックを受けた。世の中にはずっと変わらないものがあって、夢を語る彼の横顔こそ、存在し続けるに値するものだと思い込んでいたからだ。
それなのに、結局彼もわたしと同じなのか。毎朝、眠気に目をこすりながら電車に乗って、仕事をして、大切で輝かしい時間をお金に換えるだけの人生を送っているのか。そう思ったら、軽蔑すらした。

わたしがかつて追いかけていたスーパースターはもう居なくなった。目の前にいる彼は、そこら辺の男と変わらないただの人になったのだ。もう地球上、どこを探しても見つからないのだろう。彼から夢を奪ったこの世界は、罪だ。

頬をかする風が肌を切り裂くように冷たい2月の月曜日。
星のない夜に、白く広がっては消える互いの息。JR新宿駅で見送った彼の背中を、わたしはいつの間にか見失っていた。

わたしたちの Blue Monday はまだ始まったばかり。


らいむぎちゃん。をちょっとだけ幸せにする