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《それでも、私は。》

#小説 #短編小説




返信が、来ない。



不思議なことは何もない。
だって私が返信してないのだから。
既読スルーされてる中、連投してくるような人じゃない。


***

きっかけは些細なこと。

昨日、電話中に喧嘩した。
喧嘩と言っていいかもわからない。
お互いが謝り続け、お互いに落ち込んでるんだから。

喧嘩とは言えないからこそ、とても厄介だ。
お互いに謝ったり、落ち込んでしまうと、本当に収拾がつかないから。
しかも顔が見えない。近くにいない。
テキトーに甘えて、話自体をなあなあにすることもできない。

私は素直になれず、そのまま電話は終わる。
ちょっと構ってほしいだけなのに。もう一歩、私に踏み込んでくれるだけでいいのに。
察してほしい。わかってほしい。
こんな身勝手な自分が、とても嫌いだ。
素直になれなくなったのは、いつからだろう。
大人になるって、こういうことなんどろうか。


***

やっぱりモヤモヤして、さっき他愛もないことでLINEした。
こんな面白い記事見つけたよ、とか、これ作ってみたよ、とか。
うんうん、いい感じ。これで元に戻れる。
そう思ったのに。

私への返事とともに、「共通の知り合い」と飲みに行くことになった、一緒に来る?と彼は聞いてきた。

「共通の知り合い」と私の仲は、良くも悪くもない。
けれど、私にとって苦手な相手。
できれば今後一切関わりたくないグループの人。
もっと言えば、彼にも関わってもらいたくない。こんなこと、言う権利ないし、絶対に言えないけど。

私は、行かないと短く返した。
「なんで?」と聞いてくる彼に、面倒ごとは嫌いだからとまた短く返す。
「わかった。昔から約束してたみたいだから飲みに行ってくる」と彼は言った。
私がイラついているのに、絶対に気づいてる。面倒ごとが嫌いなのは彼も同じ。



あー、なんでこうなっちゃうんだろう。
せっかく元に戻れると思ったのに。
なんで、今なの?もっとタイミングあったじゃん。よりによって、どうして。
私が嫌がるの、想像つかなかった?


わかってる。
私にとってのタイミングが悪かっただけ。
飲みに行くことを告げられなかったら告げられなかったで、私はきっと怒ってしまうから。
私が悪い。知ってるんだ。自分が面倒くさくて幼稚すぎることくらい。


ただ、今は、
ちょっと拗ねたい時で、
私だけを見ててほしい時で、
生理前の些細なことで落ち込みやすい時で。
一個でもなかったら、どんなに良かったか。


自分の気持ちを素直に言うことすらできないくせに。
露骨に攻撃だけするなんて。
自分の未熟さを嫌という程感じて、余計に私は堕ちていく。
こんなの全然大人じゃない。のに、完全な子供にも戻れない。
どうしたら良いんだろう。
苦しい。
何も言いたくない。自分の殻から出たくない。


めんどくさがって距離を置こうとする彼を肌に感じる。
漫画みたいに、私を追いかけてきてくれれば良いのに。
無理なことくらい、わかってるけど。



崩れそうな自分を保つために、LINEの通知を切って、トークを非表示にする。
LINEが来てないか、気になって仕方ないのに何もできない自分が悔しくて、悲しくて。
崩れてしまいそうな自分を抱きながら、静かに泣くしかなかった。


***

どれくらい時間が経ったんだろう。
少し落ち着いて、ケータイを開く。
24:57。
当たり前のように、連絡は来ていない。
わかっていたことなのに、ちょっとだけがっかりした。

カーテンを開ける。外はなんとなく明るい。
そのままの勢いで窓も開ける。
冷気が部屋に入り込む。
澄み渡った空に月が輝いていた。

そっか、スーパームーンか。ニュースで言ってたっけ。
周りに月以外の明かりはなく、月が余計に綺麗に見える。
なんて自分はちっぽけな存在なんだろう。


大きく息を吸い込む。冷たい空気が私を浄化してくれたような気がした。

明日こそ、素直に言おう。
ちゃんと、元に戻ろう。
だって、それでも私は好きだから。

なぜか、自分が大人になったように感じた。

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