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かたちだけでも飼っているから犬だ

 現代川柳と400字雑文 その41

 むかしよく歩いて通った道に豪邸があった。高い塀に囲まれた大豪邸。塀にはところどころにデザインされた四角い穴が空いていて、いつも前を通るとその穴のひとつから白い大型犬が顔を出すシステムになっていた。システム。そう呼びたいほどの規則正しさで、来る日も来る日も同じ穴から犬は顔を出した。音なのか匂いなのか、塀を隔てた向こう側に人間の気配を察知して顔を出すのだろう。四角い穴から出てくるから「四角犬」と心の中で呼称していたが、体長全体を見たことはなく、やがてその道を通ることもなくなってしまった。これから先、もしあの犬とどこかでばったり再会したとき、わたしはそれが四角犬だとわかるだろうか。穴が無くても四角い形ならわかるだろうなと思う。「トムとジェリー」のトムのように。トム、猫だけど。

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