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【左側のレジ】 #774


「おいコラ
それが客に向かってする態度か
ええ加減にせぇ」

「申し訳ございません」

「謝ったら済む問題ちゃうやろ」

「ですがぁ…」


事の顛末はこうだった

コンビニでオッサンは一度二つあるレジの向かって右側のレジでピールを一本買っていた
しかしそれを左側のレジのアルバイトは知らなかった
ちょうどこの時間帯は混んでおり人で一杯であった

オッサンはレシートを受け取らず
また店内をウロウロして今度はミックスナッツを持って左側のレジに来た
オッサンは当然だがミックスナッツだけをレジに置いた
アルバイトはそれをピッとやった後に

「そちらのビールも会計しますので」

そう言った途端にオッサンはキレだして

「これはもう払い終わっとんのじゃ」

ここで引き下がっておけばよかったものの
実を言うとこのオッサンはこのコンビニで評判の悪い人だった
とにかく言葉遣いも態度も悪い
無茶苦茶偉そうで
この間も料金が1円足りないと伝えたら

「オマエが690円言うたんやろが」
と言いながら1円を投げた

そんな事もあって
このアルバイトは変な正義感のスイッチが入ってしまい

「お会計済んだのでしたらレシートはお持ちですか?」

オッサンは更にヒートして

「アホんだら
そんなもんいちいち取って帰るか
他の客も皆そやろ
せやからここに要らんレシート入れる箱置いとんねやろ」

「ですがぁ…」

「なんやその態度は
ほんならアレか
俺は泥棒なんか
えっ
泥棒なんやったら警察呼べや」

左側のレジで大揉めなので右側のレジは長蛇の列になっており
他のお客様も心なしかイライラしている

その時やっと右側のレジのアルバイトがその事に気が付いて
大声で

「ビールのお代金は頂いております」

そう叫んだ

ここで左側のアルバイトは自分がパパを引いた事に初めて知った

「おいコラ
それが客に向かってする態度か
ええ加減にせぇ」

「申し訳ございません」

「謝ったら済む問題ちゃうやろ」

「ですがぁ…」

「なんやまだ文句あんのかゴラァ
ぶちかますぞ」

「いえそういう訳ではございません
僕知らなかったものですから
本当に申し訳ございません」

「じゃかわしいわ」

オッサンはどうにも収まらないらしい
そしたら後ろから声がした

「オッサンもうええ加減にしろや
謝ってんねんからええやろが
こっちは急いどんねん
早よレジ空けてくれへんか」

「どいつや
どいつが言うた」

そう言って振り返ると後ろにはサラリーマン風の男が立っていた

「オマエか」

「早よどけや」

「何言うてケツかる
俺はコイツに言うてきかしてるだけや
ニィーちゃんには関係無いやろ
急いどんねんやったら
あっちのレジ行きさらせ」

サラリーマンもブチ切れた

「なんじゃおりゃ
どけ言うとんのや
じゃまや
早よのきさらせ」

オッサンはサラリーマンの胸ぐらつかんだ
するとサラリーマンも負けじと胸ぐらをつかんだ
そして次の瞬間
取っ組み合いのケンカが始まった

左側のアルバイトは急いで警察を呼んだ

右側のレジに並んでいた人たちは商品をレジに置いて皆急いで外へ逃げて行った

棚の商品は落ち踏みつけられ
オッサンはなぎ倒され
サラリーマンが馬乗りになり
オッサンの顔をポッコンボッコンに殴り出した頃
やっと警察官が到着した

2人は警察官に引き離され店の外へと出された
その後また別のパトカーが現れ
2人はそれぞれ別のパトカーに乗せられた

1人の警察官が店内に入ってきた

「何があったのか簡単に教えてもらえませんか?」

アルバイトはひと通りを話した

「なるほど分かりました
ここのオーナーか店長へは今連絡はつきますか?」

外のパトカー2台は彼を残して去って行った
その後すぐにまた別のパトカーが到着し別の警察官も入ってきた

アルバイトはオーナーに電話して店まで来てもらう事となった

オーナーは20分ほどしてから店に現れた

「えらい事になったなぁ」

「オーナーさんですか」

「はい」

今度は警察官から簡単に説明があった

「なるほどそうですかぁ
怪我は無いか?
大丈夫か?」

「はい大丈夫です
申し訳ごぜいませんでした」

「しゃあないわ
そんなややこしい事されたらな
まぁ怪我もなくで良かったよ」

「それでですねぇ
彼からも調書を取りたいと思うのですが
今から彼を連れて行っても構いませんか
終わりましたらまたここまでお送りしますから」

「分かりました
店は私が代わりに入りますので大丈夫です
よろしくお願いします」

左側のアルバイトは警察官と共にパトカーに乗った
それを申し訳なさそうに見つめる右側のアルバイト

「さぁちょっとだけ店閉めさせてもろて片付けよか
怖かったやろ
ホンマ物騒やで」

アルバイトを気遣う優しいオーナーと2人で店内を片付けた


その後
右側のアルバイトはトラウマになったのかコンビニを辞めてしまった

サラリーマンはもう来なくなった
オッサンは2ヶ月くらいは姿を現さなかったが
3ヶ月目に菓子折りを持って謝りに来た
それからはまたちょくちょく顔を出すようになったが二度と横柄な態度は取らなくなったし必ず会計も一回で終わらせ
ちゃんとレシートも持って帰るようになった

これには理由があって
警察署で調書を取っている時にオッサンは警察官から教えてもらった

「あのコンビニのオーナーなぁ
今は善良な市民やけど
昔はカタギの人間や無かったんやで
正義感の強い人やから気ぃつけや」

オッサンは震え上がった
で2ヶ月悩んで菓子折りを持って行く事にした

オーナーは笑って許してくれた





ほな!

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