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【遠き春よ】 #712


もし自分が死ぬ事が無かったとしたら
こういう例えはよく映画などである話

でも実際に死なないとしたら

不幸なんだろうか
それとも
幸福なのだろうか

死なないにしても無敵では無い
食べ物を食べなければ餓死するし
治る見込みのない不治の病になってもいずれ死ぬし
何かしらの事故で体がボロボロになっても死ぬ
これはあくまでも普段通りの生活を送っている場合のみに不死である
そういうものであればある程度納得はいく
では細胞劣化はどうなのだろうか
この場合劣化し続ければ最終的に死に至る
その場合どのくらいの成長で細胞が最高レベルでその水準が続くのか
これは個体によっても色々と差が出そうだが恐らく18〜26歳くらいでは無いだろうかと思う

これだけの過程を踏まえて不老不死の男が居たとしよう
彼は幾度となく戦争や事件事故やウィルスと戦い抜いて今では900歳を少し回った所だ
彼はもう人も物も知識も欲しない
全てにおいて飽きてしまっているからだ
人は彼を悟った人間だと敬う

彼の元には沢山の人が毎日訪れる
単に話を聞きたい者
相談したい者
懐疑的な者
宗教じみた者

大してやる事も無いからひと通りの人と会う
とりあえず話は聞いてやる
大した事を言わなくてもありがたがって帰っていく
そんな連中が頼んでもいないのに食料やお金を運んでくるし
勝手に身の回りの世話を買って出る者も居るので何不自由なく生活できている

だが満足している訳でも無いし物足りなさを感じている訳では無い

ただ言えるのは20代の頃にお付き合いした彼女の事だけは忘れられず
未だに似たタイプの人を知らず知らずの内に探してしまっている自分が居る

「嗚呼っ出来る事なら
彼女にもう一度会って抱きしめたい
あの柔らかな首元の匂いを感じたい」

もう900年近くそればかり考えている
虚しいことよのぉ





ほな!

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