【もうワンダフルライフ】 #746
ネガティブな事も障害も不幸も
自分の中でステイタスだと勘違いしている
いわゆる不幸自慢的な所があるという話だ
表立って自慢話みたいにはしないけど
話題がそういう流れになった時は話したりするよ
その話をした時の相手の反応に多分快感を覚えてしまっているのだろう
承認欲求というヤツだな
自分が車椅子生活になった事もまるで感動作品のように話すし
親父が事故死したのもちょっとだけ脚色して同情を得られた時なんて
頭の中にアドレナリンが放出されたよ
多分人に注目されていたいのだと思う
夜ひとりでボォーッとしてる時なんて
とても虚しく感じる
そんな時はSNSをやったりとかして誰かと交流しようとするも
空振りだった日にはスネまくっている
昼間はだいたいヘルパーさんが来て色々と身の回りの事をしてくれる
年取った母ちゃんだけだと僕の世話なんて無理だからな
ヘルパーさんは毎日人が変わる
今は3人の人が交代ごうたいに来る
時々専門学校の生徒がインターンで一緒に来る事もある
今もインターンの子が来ている
とても可愛い子なんだ
僕の大好きな眼鏡女子
名前はナオミちゃん
とても真面目で一所懸命だ
僕の自慢話にも真面目に付き合ってくれる
短い時間の中で色々聞き出した
好きな音楽や映画
その他の趣味
それから彼氏が居るのか居ないのか
彼氏とは最近別れたらしい
同じ専門学校の同級生だったんだけど
やめて実家に帰っちゃって
なんとなく自然消滅したそうだ
そもそも付き合ったのも2か月くらいだったから
彼氏っていうより同級生としての感覚の方が濃いかったそうだ
僕は更に突っ込んで別の質問もしてみた
どうしてこの道に進もうと思ったのか
高校生の時に大好きだった人が居てその人が部活で頸椎を痛め車椅子生活になったんだって
車椅子になっても好きな気持ちは変わらなかったしそういう人に対する偏見も無かった
でも自分から告白できるようなタイプでも無かった
その後彼は自分の事が苦になったのか自死(自殺)してしまった
「私がちゃんと告白してお付き合いしていたらひょっとしたらあんな事にならなかったかもしれないって
だからそういう人をサポートできる仕事をしたいと思って今勉強しているんです」
ナオミちゃんは強い口調でそう言った
だから僕は言った
「ナオミちゃんはもうすぐインターン終わるだろ?
どうだろう勉強にもなるし終わった後もボランティアになるけど僕のサポーターとして来てくれないか
母ちゃんと2人だと不安な時もあるし」
ナオミちゃんは真面目な子
真剣に考えて次の日
僕のサポーターになってくれると返事をくれた
僕は有頂天さ
だって可愛いんだもん
不定期だったが時間があれば家で色々手伝ってくれた
LINEも交換したから連絡も取りやすくなった
こっちに来る時に買い物を頼んだ事があって
そしたら家の中にばかり居る僕を表に出して一緒に買い物に出かけた
まるでデートしてるみたいだ
楽しい
僕はもう完全に惚れてしまっていた
来年で30歳になる
彼女とはギリギリ10は離れていない
車椅子の人に対する偏見は無い
彼女のカラダに触れたい
歩けるものならば歩いてベッドに押し倒して抱きしめたい
完全に思い詰めている
僕は勇気を振り絞って
洋服を買いたいから買い物に付き合ってほしいと誘ってみた
真面目な彼女は承諾してくれた
今日は一日中ナオミちゃんを独り占めできる
めちゃくちゃ楽しみだ
ナオミちゃんは家まで迎えに来てくれて2人で出かけた
母ちゃんはナオミちゃんに頭を下げた
僕はルンルンだ
色々と洋服をコーディネートしてくれた
お店で新しい洋服に着替えた
お洒落な美容室で一緒にカットもしてもらった
楽しい楽しい楽しい
他の人から見たら僕たちはカップルに見えるだろうか
だったら僕は嬉しい
味をしめた僕はちょいちょいお出かけに誘った
断られた事は一度もない
調子に乗った僕は大胆な提案をした
一泊で良いから旅行に行きたい
費用は全部こっちで用意するから
流石にこれは直ぐには返事は無かった
LINEも3日間音信不通だった
そして3日後LINEではなく
本人が現れた
彼女の返事はイエスだった
僕はなんて幸せな人間なんだ
ウキウキじゃないか
旅行の手続きなんかは彼女がやってくれた
そして当日ナオミちゃんが迎えに来てくれて駅に着いたら男の人が居て紹介された
「旅行となると私1人だけだと何かと心配だったんで同じクラスメイトの山田くんにも同行してもらう事にしました」
「あっ山田です
よろしくお願いします」
めっちゃ爽やかなイケメンやん
なんでやねん
僕の目論見がぁ…
断る理由を探し当てられず
あっという間に旅館に着いた
部屋は2部屋で僕は爽やかイケメンの山田くんと同じ部屋で隣の部屋がナオミちゃんの部屋になった
最悪やん
こいつの分も僕持ちなん?
旅行どころやないで
帰りたくなってきた
「ヤスシさん
ヤスシさんの話
よくナオちゃんから聞いてますよ」
「あっそうなの」
なんだよナオちゃんだなんて馴れ馴れしい
「でどんな?」
「すんごく面白い人だって
だから紹介したいって
でね僕もボランティアのサポーターに誘われたんですよ
勉強になるし良いなぁと思って
もしヤスシさんさえ良ければ
僕も参加させて下さい」
マジかよ
コイツうちの家に来るのかよ
まさかナオミちゃんと一緒に手を繋いで現れるんじゃないだろなぁ
しかしココでこのイケメンを断るとナオミちゃんはなんて言うだろう
それどころか辞められたら困る
仕方がない
「ホントに?
それは助かるなぁ
よろしく頼むよ
いやー楽しみだなぁ
賑やかになる」
けっ…
旅行はまぁこの山田が居たから気持ちが萎えたが
リフレッシュできたのは良かった
次の週から山田も現れた
その分ナオミちゃん率が減った
ナオミちゃんは真面目だから平等にしたいようだ
山田めぇ
もうこれ以上増やすなよ
そんな山田から一番聞きたくない事を相談された
「ヤスシさん
実は僕ねナオちゃんの事好きなんすよ
でも彼氏居たから諦めてたんすよ
だけどアイツ田舎帰って続いてると思ってたら別れたって聞かされて
これってチャンスじゃないかなと
ねっとう思います?
ナオちゃん僕の事なんか言ってませんでした?」
もうもうもう最悪
「いや何も聞いてないよ」
「そっかぁ…
誰か好きな人でも居るのかなぁ」
「さぁなぁ…」
「あっそうだ
ヤスシさんちょっとナオちゃんから
その辺のとこ聞き出しといてくれませんか?」
「僕が?」
「だって仲良いじゃないですか
兄妹みたいに見えますよ」
なんだってぇ‼︎
「兄妹ねぇ…
聞けそうなら聞いとくよ」
無理に決まってるじゃない
ナオミちゃんは好きな人でも居るのかい?
ええ居ます
とか嫌やん
しかし状況が180度変わった
なに?
ある日うちに来たナオミちゃんが泣いた
理由を聞くと山田にフラれたそうだ
えっ?
山田はナオミちゃんの事好きやったんちゃうん
話を聞いてみたら
飲み会があってナオミちゃんは酔っ払っちゃったみたいで二次会の後
山田が介抱してくれて終電が無くなったから仕方なしにラブホに泊まった
ナオミちゃんは山田の事をちょっと良いなぁって思ってたから流れでエッチしちゃったんだけど
何故か次の日から態度が冷たくなって
エッチしたくせにその後別の同級生と付き合い始めた
という事だそうだ
なんて野郎だ
ナオミちゃんを抱きやがって
こちとらキスもした事ないのにエッチまでしやがって挙げ句の果てにはフルなんて外道中の外道だ
「もう山田はうちの家には入れません
ナオミちゃんはいつでも来て下さい」
これくらいしか言えなかった
僕にはショックが大き過ぎた
しかし
その日以来ナオミちゃんも家に来る事は無くなった
もちろん山田も
LINEも既読にすらならない
元から一人だけれども
今は前の一人より
もっと一人なような気がするよ
あ〜あぁ
エッチしてぇなぁ〜
ほな!
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