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【町の片隅に】 #932


久しぶりに寒い年末になった

昔は
アパートはしょっちゅう
電気が止まったり水道が止まったりした

それでも何とかなるものだ
ちゃんと生きていた

娘には辛い思いをさせてしまっているけど
なんとか理解しようと努力してくれている


妻が先立つ迄はそれは酷い男で家庭もかえりみず
パチンコと競馬それから後マージャンなんかで借金が膨れた
そのくせツケ飲みで金も払う気も無いもんだから
出入り禁止の店は増えるばかりだった

しかし不思議なもんでなんだか魅力的で人を惹きつける空気を作るのはうまかった

多分あの笑顔がそう思わせるのだろう

あの笑顔はちょっとした武器だ


出入り禁止の店も店長居ない時にこっそり行って店の女の子に酒をご馳走になって帰る

仕事は売れないクルマも販売する中古車屋兼修理屋
父親が経営者で後を継ぐ準備をしている

お父さんは飲み歩いているのは知っていたが
ギャンブルで借金があるのは知らなかった

一応仕事は真面目だ
これだけはちゃんとしている
娘も生まれたばかりだったし
頑張らないといけない

それから数年して妻の病気が見つかった
入退院を繰り返し病院を変えてみたりと色々したが衰弱する一方だった

そして1年前に亡くなった
あれほど放ったらかしにていたのに
会いたくて会いたくて
会えなくて切なくて
カラダの真ん中に穴の開いたようなとはよく言ったもんだ
本当にそんな気持ちで過ごしていたが
娘を見ていたら
コイツまで悲しませたり
病気になってしまったらどうしよう

そんな強迫観念のような気分になった

まだ今からでも取り返せる


ギャンブルからは足を洗い
借金を返済しつつ 
がむしゃらに働いた

父親もだいぶと弱ってきている
自分の代でぶっ壊す訳には行かない


電気や水道はよく止まったが
以前とは違う
今は娘のため
父親が作った店をぶっ壊さないよう
本当に心を入れ替えて働いた


その甲斐もあってか
店の売り上げは少しずつ伸びて行った
借金も少しずつ減って行った
電気や水道が止まる事はほぼ無くなった
娘の笑顔の回数も増えた
父親だけは最近調子が悪く店を休みがちだった矢先

無理をしていたのか
自分がぶっ倒れてしまい

そのまま
お釈迦になっちまった
人生を振り返る間もなく


サヨナラ地球


ほな!

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