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【逆にダイエットコークは買えません】 #812



デブは身体障害者にはならない
ブスも身体障害者にはならない

ただ
当人たちは
普通の人と比べて
身体にコンプレックスがある人が多く
障害であると感じている

だからと言って
障害者手帳がもらえる訳でも無いし
人々から援助を受ける類では無い


そして
境界線が曖昧だし定義もない
どの辺りからデブと認定されるのか
どう辺りからブスと認定されるのか

言葉自体も寛容とタブーの間をユラユラしている

自分から言うのはありで
他人から言われると無し
例外的に好意を持っている場合はあり

デブ専とかブス好きとか


デブとブス以外にも
チビやハゲも時として同様の存在となる




私は単に太いというだけで
これまでの人生に置いて色々な出来事かあった

最初に付けられたあだ名は「お肉ちゃん」
肉好きだからではない
肉の固まりだから

その後も「ブー子」とか「マルコ」とか完全に容姿から付けられたあだ名ばかりだった

普通だったら陰で悪口言う時に使うようなあだ名なのに
私は堂々と呼ばれる

それは私がきっと明るくてオモロい性格がゆえの責任だと思う


でもね
これでも心は傷んでるのよ

そんな事もし言ったりしたら
爆笑されるだけだし
挙句は自己管理ができていない私がむしろ責められる
と想像する


小学生の頃はまだそれでも良かったのだが
中学生になるといわゆるお年頃と言うのもあって
心と体型の曲がり角に差し掛かった

ダイエットをしてキラキラ人生を手に入れるか
欲望に任せて食べまくるのか

ユラユラとゆらめいて
中学一年が通り過ぎた

身長が伸び
体重も増えた
それと共に
密やかに好きな人もできた

美しくなりたい
そう思って夜ご飯を減らしたけど
結局その後にお菓子を大量に食べて
プラマイゼロ

うちの家は明るい
皆んなコロコロしている

お母さんは若い頃からコロコロしている
でもお父さんは若い頃は痩せていた
お母さんと結婚しお母さんの作るご飯を食べていたらコロコロになった

元凶はお母さんだ
高タンパク高脂肪のカロリーチャージ飯のオンパレード
基本的に食卓は9割がた茶色い
オカズは小分けしておらず
大皿で出てきてそれを自分の皿に取って食べるビュッフェスタイルだ
このスタイルだと何故か食のピッチが上がる
その結果食べ過ぎに繋がる

だから私は考えた
自分が食べる分だけ
先に取り分け
大皿は手を付けない

しかし
そんなものは
結局
無理だった
やはり目の前にあるご馳走は
誘惑の天使

どうやったら食べなくて済むのかしら


中学二年になり
学校のクラブ活動では無く
有料の月謝を払う方の活動をしてみた
種目は水泳

太っている私にも浮力という
優しい環境

でも実際に始めてみると
これが恐ろしくキツく
溺れて死んでしまうのではないか
私はコーチに殺されるかも知れない
と勝手に思い
二週間でやめてしまった

食事制限もダメ
運動もダメ
じゃあサプリメントはどうかしらと
ネットで検索すると
値段が高過ぎて中学生の私には
手に負えない

こんなに悩んでるのに
少しは心労で痩せないかしら

学校であれほど爆笑しているのに
カロリー消費していないのかしら



そうこうしている間に
私は高校生になってしまった

中学生で増えた体重はキープしている
パワーアップしていなくて
不幸中の幸いだ


そんなある日
私は居眠り運転のトラックにひかれてしまった

数日間意識が戻らず
集中治療室で色々な計器に繋がれ
ゴロリと寝転がっていた

食事は取れないので
点滴で栄養を送り込まれた


数日して私は目覚めた
事故前後の記憶は無い
それは別に気にしないのだけど
顔の怪我が気になった
ただでさえ太っているのに
顔までキズものになったら
マジでお嫁に行けないよ
というか恋もできないわ


幸い顔の怪我は大した事はなかった

一般病室に移り
すぐに同室のおばあちゃん達と仲良くなった
それはそれとして
病院のご飯はなんて味気ないんだ
茶色じゃないし
量も少ないし

足を骨折していたので
自由が効かない
歩けるのならば地下にある売店にお菓子を買いに行けるのに

隣のおばあちゃんは
若いからもっと食べたいだろうにと
ミカンをよくくれる


私は若いので
あっという間に退院できた
とは言えまだ松葉杖は必要だし
キツいリハビリが待っている


家に帰って洗面所で手を洗っている時に
初めて気が付いた

あらヤダッ
顔がシュッとしてる
ちょっと待ってよ
あれほど痩せなかった私がぁ
モデルみたいじゃん

と浮かれた


嬉しい
これはチャンスかも知れない
骨折ダイエット

お母さんに相談した
痩せたいと
真剣に

お母さんは笑っていた

「頑張れるの?」

「うん」

その日から私だけ
別メニューとなった

私以外は皆んないつも通りのメニュー

ギャハギャハ笑いながら
バラエティ番組を見つつ
茶色物体をガンガン口に運ぶ

私は五分と経たない内に食べ終わってしまった


なんだか仲間外れにされている気分

お兄ちゃんは意地悪して
私のお皿に茶色を入れてくる


毎日体重計に乗った

変わらない

心が折れそうだ

そんな時は遠足に行った時に
コッソリ撮った好きな人の画像を見た

諦めるな

自分を奮い立たせる為に
Netflixでロッキーを観た

ロッキーのテーマもダウンロードした

私はアスリートなのだ
痩せるという金メダルを目指して


そしてとうとう私は
あれほどしつこくカラダにまとわり付いた
肉をこそげ落とし
美貌を手に入れた

クラスメイトの目も変わった
男子が優しくなった
女子は変わらなかったけど
新しい友達が増えた
前だったら話しかけて来なかった人


私は次の目標ができた

今は単に痩せただけ
これからはオシャレになり
化粧も上手になり
あとそれから
カラダを引き締める為に
運動もする

もう茶色の誘惑など何とも思わない

カラダが軽く
家の二階の上り下りも楽ちん


大学生になった

春がやってきた
男の子によく誘われるようになった

彼氏ができた
嬉しい

調子に乗って
浮気も一度だけした

その後
彼にフラれた

浮気が原因ではない

私の態度が偉そうだから


気が付かない間に私は
自信というのが豹変し
傲慢になってしまっていたようだった

そう言えば
最近アホな事をしていないし
ガハハと笑わなくなっていた

ふと家のことを思い出した
最近家族と話ししてない
同じ食卓には着くものの
他の三人はギャハギャハしながら
楽しく食事しているのに
私はさっさと食べ終わり
自分の部屋にこもった


これってホントに幸せなの


お母さんに話した

「お母さん
今の私と
太ってた頃の私と
どっちが好き?」

「どっちってぇ
どっちだって好きは
変わらないわよ
何言ってんの」

「そーかなぁ
なんか三人は相変わらず
楽しそうなのに
私だけ取り残された感じがして」

「学校で何があったのかい?」

「そーいう訳じゃ無いんだけどね
なんだか最近寂しくて」

「困ったねぇ
食べないでも良いから
一緒に居たらいいじゃない」


うまく伝えられなかったし
分かってももらえなかった


毎日孤独感が増す一方だった

ある日
友達がランチに誘ってくれた

最近新しくできたお店で
昼のランチは食べ放題になる

今の私には無縁のワード
食べ放題

そこにはありとあらゆる茶色の物体

久しぶりに口にしてみた


「あっ」

私は思わず声をあげてしまった

口に入れ噛んだ瞬間に
肉汁が口いっぱいに広がり
鼻から抜けるアブラの香り
何と素晴らしいことだ

痩せて以来ずっと避けてきた

嗚呼っもうダメだぁ
肉に愛撫されている
何ともこの官能的な時間は


私は本来の私を取り戻した



半年後
家では爆笑が戻り
学校では
アホな事をしてギャハギャハする

近寄っていた男たちは
影も形も無くなったが
新しい彼氏ができた

等身大の私を愛してくれる男だ

ウチの家族ともすぐに打ち解け
卒業と同時に結婚した


これでいいのだ



ほな!

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