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「合理的配慮」のテンプレート、作っちゃいました!──「配慮のお願い」から、一緒に抜け出すために

割引あり

※本記事は全文無料で読めます!

みなさま、どうもこんにちは!りえです。

この記事を書いてから、1年半。
実は、ひそやかに、ひそやかに格闘を続けてきていました。

そして!ついに!
「合理的調整(合理的配慮)」に関して、
より社会モデルに則った、新しいテンプレートを作成することができました
👏
※今回は学生向けです!社会人の方にももしかしたら参考になるかも?

みなさんにもぜひぜひ使ってみて欲しい!
ので、ここでどどーんと公開します✨

今回は、その文書の配布・紹介です!


1.文書のテンプレートはここから

以下からDLできます!
編集できるテンプレートと、参考までに私の記載例を公開しています。
ぜひご覧ください↓

使用に際してのお願いごとは、文書に直接記載しています。
基本的には「個人利用はOK」「再配布・二次配布は改変しない限りOK」「改変して再配布・二次配布場合は一報ちょうだいね」という感じです。


さて!あとは余談になりますが……
ここからは、作成の経緯や、大切にしたポイントなどを紹介していこうと思います。

2.なぜ改訂が必要だったか?

直接のきっかけとしては、先生方と仲良くなったあとに「……あれ?りえさんってもしかしてわりと元気?」って聞かれることが多かったことです。

エ、そんな不健康だと思われてんの……?

と思って詳しく先生に聞いてみると、
障害配慮の文章しか知らないうちは、もう本当にへろへろで伏せってるような人だと思っていたと。
でも蓋を開けたら授業ではガンガン喋るわいろんなことで飛び回ってるわで、びっくりしたと。

え!?臨床心理学の先生方もそう思うって相当じゃない!?!?
impairmentとdisabilityの概念は!?!?
器質的な障害と病いの違いは!?!?!?

と思って、障害配慮の文章を見直すと…………
これか〜〜〜〜!!!!!
って感じでした。


少し説明すると、今の障害配慮の文章って、項目が
①状態・履修上の問題点
②希望する配慮

になっているのね。
で、①に、その人の器質的な状態(impairment)と、授業での状態(disability)がいろいろ混ざって書かれている感じ。
※自分だけなのかなと思ったけれど、周りの友人も割とこのフォーマットが多いみたいです。

impairmentとdisabilityの違いが気になる方は、ここに書いてあるので、よければ読んでみてね↓

だから、
「この人はこんなに体調が悪い!なので授業ではこうなります!」
という構成で書かれてました。器質的な状態(impairment)と生きる上での障害(disability)がほぼ1:1対応で紐づいているので、しっかり医学モデルやね。

翻って、私。
ADHDは、授業中に考慮すべき社会的障害(disability)が割と多い方の障害なのではないかなと思います。なぜなら多動・感覚過敏・不注意は、どれも割と「教室で過ごすこと」「課題を出すこと」が障害になりやすいから。
その上、実は精神障害の支援例は東大でもあんまり多くない(2017年入学当初、がっつり発達障害/精神障害で支援を受けたのは私がほぼ初だったっぽいと聞いています)。

するとどうなるか。
とにかく、書かないといけない量が多かったんですね
前例がないことが多くて、一個一個を丁寧に説明する必要があった。

その量の多さと、医学モデル的な文書の構成がマッチして、
どうやら「こいつめっちゃ調子悪いんだな!?!?」と思われていたそうです。盲点だった。

一つ留保を置くと、この文書自体は革命的でした。
今まで毎回いろんな複雑な手続きをしてやっと支援が受けられたのが、その辺をガシッと割愛できたんです。その意味で元の文書を作ってくれた先生には、本当に感謝しています。


でも今は、もう一歩先に行きたい。
じゃあ、文書のフォーマットを変えてみよう!


そして……そう思っていろんな人に相談したところ、
なんと他の当事者も同じことを感じていたことが判明しました。まじか。
それなら、私だけじゃなくて、できるだけみんなが使えるようなものにしよう。そう思って、合理的調整(合理的配慮)のための新しい文書を作りました。


ちなみに、今の方向性としては
「全員でこれを導入する」ではなくて
「もしこの文書の方が使い勝手がいい人がいれば、選べる選択肢として確立したい」という感じ。

そのために

・一旦、私の支援で新しい文書を試してみる(先生たちに慣れてもらう)
・関係各所(相談支援研究開発センター、バリアフリー支援室、教育学部)で、ひとつの支援文書の例として保管しておく
・私自身が個人で公開する

という感じで、文書をブラッシュアップしつつ、必要な人がアクセスできるための土壌を整えています。

3.文書を改訂するまでの流れ

ざっくり言うとこんな感じ↓

①学生バリアフリー連絡会&インクルーシブ教育関係の勉強会で意見を聞く
②学科の先輩と自分の担当カウンセラーに意見を聞く
③学生支援課の方とバリアフリー推進オフィスに暫定版の文書を提出、意見を聞く
④支援面談で先生方の意見を聞く
⑤最終版を提出&テンプレート版を各所に送付
⑥個人でテンプレートを公開←いまここ

感想:もーーーーーーーーー大変だった!!!!!!!

やってみて思ったけど、障害支援って、マジでいろんな人のいろんな意見が関わってる!

具体的に言うと、
・身体障害/精神障害/発達障害でも状況や周りの目が違うから、そもそも障害者ひとりひとりに適した文書のフォーマットが違うし、
・支援者も支援者で大事にしている観点がひとりひとり違うし、
・先生の知識の量も違うし、スタンスも違う、
・授業の性質も目的も違う。

こんなん集約できるわけなかろ!!!!!!!
って思ったけど、ゴリゴリゴリゴリいろんなところとひたすら調整して、なんとか形になりました。
いやーすごい。テンプレートを作る人たちって本当にすごい。大変だよこれは。
学科の先輩が「この一言も、きっと何回も何回も調整したんでしょう?」って言ってくれたとき、思わず泣きそうになっちゃったよね。

でもさ、いままさに障害の当事者が苦しんでるなら、いまのままにしたくないよ。少しでも前に進めたいし、選択肢は増やしたい。
せっかく社会モデルの考え方が広まってきたのに、テンプレートが医学モデルじゃもったいないじゃない。それで配慮が申請できない人もいるなんて、あってはならないでしょうが!!!
あとめっちゃ現金なこと言うと、しんどくなってきた後半は「これやりきったら心理職のガクチカになるぜ!!!」でなんとか気持ち奮い立たせてました


……とまあ、入念な調整の甲斐あって、
おかげさまで文書は先生方にもカウンセラーさんにも好評でした!✌️
表現は割と強気に書き換えた部分があるけど(例えば前までは「学術要件に抵触しない範囲で考慮してくれたら大丈夫です🥺」みたいな文書だったのを「原則考慮、しかし学術要件に抵触する範囲はこの通りではありません」にした)、
「全体的にむしろわかりやすくなったから今の方が良い」と言ってくださいました。

各所でも参考にしてもらえるとのことで、どんどんプッシュしていきたい。必要な人にとっての選択肢になれたらいいなって思います。

4.こだわりポイント

大まかにまとめると、こんな感じです。

医学的な「障害」(impairment)と環境的な「障害」(disability)を分離した
「本人の障害を議論する」のではなく「良い環境を議論する」という形に変えた
使う表現を可能な限り対等にした
大学の綱領から合理的調整(合理的配慮)の根拠を持ってきた
⑤返信用テンプレートをつけて返信の負担を軽減&なあなあになるのを防いだ

んね!がんばったでしょ!
それぞれ少しだけ解説します。

4-1.医学的な「障害」と環境的な「障害」の分離

初っ端だけど、ここがいっっっっちばん、議論があったところ。
「あえて分離することで、むしろ医学的な部分に目が集まってしまうのではないか?」という声が結構聞かれました。主に当事者から。
一方で支援者からは「わかりやすい」と好評で、早速壁にぶち当たり。

でも結局のところ実利(合理的調整)が得られないと意味がなくて、
そしてその「実利」のためには診断書が必要な今、医学的な「障害」を全く書かないことは、到底できない、という現実があります。
そもそも医学的な障害(impairment)ありきの「支援」の枠組みだからね。

本当は誰もがインクルーシブな環境に生きてほしいし、そういう観点で「医学的な障害」以外でも「合理的調整」がなされたらいいなと思うけれど……
何かしら器質的な側面を立証しないといけないのなら、せめて「環境」を議論するところに「医学」が入らないように分離したい。
「障害」って書かずに「背景」って書いたのは、ささやかな抵抗。

というわけで、あえて項目として分けました。
いつかこの項目ごといらなくなる日を願って。

4-2.「本人の障害」ではなく「良い環境」を議論する

これは、インクルーシブ教育の勉強会のメンバーの方が提案してくれて、めっっっちゃくちゃハッとしたところ!!!集合知ってすごい!

確かに、社会モデルに忠実に作るなら「環境」を議論する必要がある。
「環境」を議論するなら、「良い環境と、困る環境」を併記した方が良い
それまでの私は「障害を解消する方法」を伝達するという構成でいたので、なんだかんだかなり医学モデルから抜け出せてなかったなと感じました。

しかし、ただただ併記してもしょうがない。じゃあどうするか?
ってことで、表にしたのが私の答え!笑

私の記入例

「苦手な環境→困りごと→良い環境の例」をセットで書くとわかりやすいし、支援者側も当事者側も楽な気がする。

実際、実はここは先生方から超ウケがよかった。「見やすいし、わかりやすい」って!
ただ、書くのに少しコツや慣れがいる気がする。ここは今後さらに要検討なところ。

4-3.使う表現を可能な限り対等に

いくつか挙げると、こんな感じ↓

合理的配慮→合理的配慮(合理的調整、reasonable accommodation)
※3つを可能な限り常に併記するようにしました
配慮のお願い→合理的配慮の希望
履修上の問題点→過ごしづらい環境・実施が難しい事柄

あと、ここは一番力を入れたところ!

学術要件に抵触しない範囲で、以下の配慮をいただけますと幸いです

以下の点についての合理的配慮(reasonable accomodation、合理的調整)を希望します。なお、以下の希望が、各講義において「学術的要件の本質部分の変更」または「過重な負担」に該当する場合は、この限りではありません。
※参考:東京大学バリアフリー推進オフィスによるバリアフリー支援ガイド (p.70)

これ、「学術要件に抵触しない範囲で」に下線引かれてたのよ。めちゃくちゃ弱腰で謙ってたのがすっっっっっっごい気になってたの。
「インクルーシブ」なら、もっと「双方がすり合わせる」みたいなイメージを念頭に置きたいよね?

でも、尊大すぎると先生方に聞いてもらえない……

ということで、いっそめっちゃ事務的に書いてみた!逆に定型文みたいな感じで読み飛ばしてくれるかなっていう期待笑。

4-4.大学の綱領から根拠を持ってきた

これ〜〜〜〜〜〜!!!!!
これもマジでめっちゃ頑張った!!!!

大学ね、すごいんですよ!!!
めっちゃちゃんと書いてあるんですよ!!!!!


出典:東京大学バリアフリー推進オフィスによる「障害のある学生へのバリアフリー支援ガイド

…………………………………………

いや配慮が合理的でない時は理由説明しろっておもいっっっっっきり書いてあるやん…………
そもそも配慮依頼に返信しないのが通例になってたの、なんなん…………?

まあ、いいでしょう。
なぜなら今回のテンプレートは返信を義務付けてるから!!!!

4-5.返信用テンプレートの追加

ここは先生方からの意見も聞きながら頑張ったところ!!!

マジで!
返信しない先生の多いこと多いこと!!!!!!!

なぜか東大ではそもそも返信をしないのが通例になっていて、いつも私が無理を言って返信を書いてもらっていました。
でもそれおかしくない?
なんの調整(配慮)得られてるのかわかんないままに調整(配慮)してもらってるの、普通に意味なくない???

しかし、めっっっっちゃ丁寧に返信書いてくれる先生が多いのも事実。すごくすごくありがたいんだけど、お忙しい中本当に申し訳ない。でもありがたい、本当に嬉しい。

これってもしかして、何返信すればいいかわからないから、返信コスト上がってるのでは?
ということで、テンプレートを作ってみました。
(先生方からは「ありがたいけど、そこまで頑張らなくても大丈夫だよ!」って温かいお言葉をいただいて、いや実際そうなんですが、でもそうでもしないと返信くださらない一部の先生方がいらっしゃるのでしょうがない……)


返信用テンプレートの記載例

こんな感じで、個別の要望の対応可否をさくっと返信できるようにしてみました。実際、今学期の先生はすぐ返信くれた!

結構いい発明だと思うので、なんなら返信用テンプレートだけでもぜひ使ってみてほしいです〜!

5.余談:ちょっと湿っぽいお話

ここまでは明るい感じで進めてきましたが、少しだけ湿っぽいお話です。


悔しいことが、たくさんありました。
「障害者である」ということが「不健康である」ことと紐づくこと、それでやれることが減っていくことを、目の前で何度も何度も体感させられた。
それは、残酷なまでに善意に基づいていた。誰もが私のことをすごく大切にしてくれていて、優しくて、
だからこそ「無理をさせてはいけない」と、私を庇ってくれていたんです。

でも、それが悔しかった。

どんなに努力しても、私が「障害者」であり、「不健康」である限りはできないことがあるかもしれない。それが恐ろしかった。
頑張っても頑張っても、頑張っても、──頑張ったからこそ、
「そんなに頑張ってはいけないよ」と、柔らかく押し返された。そんなyogiboみたいなガラスの壁。


そういうひとつひとつに、「差別だ」と怒ってくれる友人や、先輩が、たくさんいました。
宥める私をよそに、私以上に泣きそうな声で、怒気を孕んだ声で。
すごく嬉しかったし、ありがたかった。生まれてきてよかったと思った。

それでも、私を「不健康」だと判断する人たちの「正しさ」と、そしてその人たちならではの、すごく不器用でパターナリスティックな優しさも痛いほど身に染みてしまう。
だから私は怒れない。先輩や友人が怒ってくれる横で、けらけら笑って「大丈夫ですよ〜!」なんて返して、そして家に帰ってどうにもならずに何度も一人で枕を濡らした。

幾度となく思う。そのガラスの壁が、あまりにも優しかったことを。
私よりも私を大切にしてくれる人たちの、私を大切にしたがための提案だった。そんなことは十二分にわかっていた。
だからこそ悔しかった。だからこそ絶望的だった。ただの悪意だったら、怒ることもできたのに。


そうやって考えて考えて考えて、
その末に見つけたのが、この「配慮のお願い」のトラップでした。

「配慮のお願い」は、「配慮される側が可哀想」だから「配慮してあげましょう」という構造を内包する
その構造をそのままにしていたら、配慮を求めるたびに「可哀想」が膨れ上がっていくに決まっている。

でも本当は違う。
僕たちが論じているのは、impairmentではなくてdisabilityだ。

僕たちは「可哀想」だから配慮されるのではなくて、
「今の社会が僕らをサポート外にしているから、他の人と同様に、適切なサポートを受けたい」だけだ。


私は甘かった。
「誰か気づいて」なんて生ぬるいことを言ってはいけなかった。私が気づいていたのだから、私が変えなくてはいけなかった。このトラップをそのままにしておいたから、だからガラスの壁につながったのだ。

正直なところ、なぜ障害者ばかりがその「甘さ」の責任を取らされるのかと腹立たしく思う。それもまた事実。
でもそんなことを言っていても、悲しい目に遭うのは自分。だったら早く変えた方がいい。

もう、わかってくれる「誰か」は、待たない。

6.おわりに:「みんなで」抜け出していこう

……と、長々と語りましたが!

いうても、見ての通り、この文書を作れたのは「みんな」のおかげです。

学生バリアフリー連絡会の皆様
・インクルーシブ教育の勉強会の皆様
・尊敬する臨床心理学コース博士の先輩
・お世話になっているカウンセラーさん
・支援担当の方
・バリアフリー推進オフィスの皆様
・お世話になっている先生方

これだけの方が時間を割いて協力してくださいました。
さらに私が凹むたびに励ましてくれた、ずぼらのメガネのメンバーやフォロワーさんをはじめとしたたくさんの友達。
そして何より、私が落ち込んでいたときに代わりに怒ってくれたたくさんの友達、先輩。

ここまで来られて、本当に嬉しいです。
この場を借りて、改めてお礼を言わせてください。
ありがとうございました。


そしてそして!!!!!!
みなさんにも、ぜひ!使ってほしいです!!

既に書いた通り、このテンプレートが合う・合わないはあると思います。
合わない場合は、ぜひ他の書き方も使ってみてください。いつでも相談に乗ります。
こういうテンプレート待ってたよ、って人はぜひ!ひとつの選択肢にしてほしいな。
もちろん、部分的にコピペするとか、そういうのもOK
活用できそうなところ、どこでも使っちゃってください!


また、こういうテンプレートを相談機関に共有していくことも進めていきたいです。

実際に各所に送付したあと、
学生支援課の方、
バリアフリー推進オフィスの方、
相談支援研究開発センターの方
(私がお世話になっているカウンセラーさんのご所属)などなど
多くの方が「こういうやり方・考え方もあるんだって気付いた」とか「新しい選択肢として内部で共有します」とか言ってくださって、嬉しかった。

そのため、営利目的でない二次配布・再配布も歓迎します!
よければ以下までご相談ください↓

7.ご相談はこちらから

・使用に関するご相談(個人/団体共に)
・配布に関するご相談(個人/団体共に)
・その他のご相談(個人/団体共に)
いずれも受け付けています!待ってまーす!

連絡先はこちら↓
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山口 莉絵/Rie Yamaguchi
mail: rie.y.0906.ut@gmail.com
Twitter: こちら(DM解放中)
※障害の特性上、お返事にお時間をいただくことがございます。ご了承ください。
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また、頑張った私にコーヒー一杯奢ってやろうって方は、
ぜひこの記事を買ってもらえると嬉しいです……🥺
拡散もとてもとても力になります!!!よろしくお願いします✨

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