番外編③:名著「ザ・モデル」の自身にとって大切なエッセンスをまとめてみた その1
今回、SaaSビジネス関わる人であれば誰もが知っているであろう名著「ザ・モデル」について、自身にとって大切だと思ったことを纏めてみました。
私自身、この本は20回くらいは読んでいるのですが、毎回発見があります。
本に書かれている内容・項目としてはボリュームがあるため、「その時に、自身が困っていることに対するヒント」が毎回目にとまり、とても助けられています。そのため、もし「ザ・モデル」をこれから読むという人は、1回ですべての内容を記憶しようとするのではなく、1回目では全体を把握して、「実務で何か困ったな」というとき、各論を精読してヒントを得るという方法がオススメです。
今回、ふと自身の「ザ・モデルに助けてもらった歴」を残しておきたいと思い、noteに記録していくことにしました。では、書いていきます。
リサイクルの概念(P.54-58)
エッセンス
SFAを導入した企業の多くは、受注高・受注率の向上がみられる。その理由は単純で、SFA導入前は営業の頭の中にしかなかった情報が可視化され、マネージャーなどの関係者が適切にフォローできるようなるためである。
しかし、これに受注率改善には限界がある。例えば、ソリューション提案型の商材では一般に3割程度の受注率があると優秀と言われる。SFAは2割の受注率を3割に引き上げることはできても、6~7割まで引き上げることはできない。
また、ビジネス初期段階で獲得できるリードはアーリーアダプター層なので、商談化&受注しやすい。しかし、事業の成長期にはアーリーアダプター以外にどうリーチできるかが鍵になる。流入してくるインバインドリードを待つだけでは、それは難しい。そのため、展示会出展や他社とのタイアップ企画など、認知拡大活動が必要となる。当然であるが、認知拡大活動によって獲得できるリードの質はインバウンドリードよりも低くなるため、受注率の低下が起きる。
このモヤモヤを解決するのが「リサイクルの概念」である。すなわち、この概念を導入することにより、受注率をある程度維持した状態で、受注高を伸ばすことができる。リサイクルの対象になるのは「コンタクトはあるが、商談にはつながらなかったリード」「商談として進めたが失注したロスト商談」「顧客になったがアップセルのフォローができていない既存顧客」である。
このリサイクル対象になっていくリードは、事業年数が経過するほど増えていく。リサイクルの重要性を意識するかしないかで、ビジネスの組み立てがまるで変わってくる。
私の所感としては、この「リサイクルの概念」は「言うが易し 行うが難し」である。一見当たり前のことでも、それをきっちりと実行してPDCAを回せるか否かが、チーム・組織の実力の差になると感じる。
分業の副作用(P.60-69)
エッセンス
マーケティング 、インサイドセールス、フィールドセールスが分業され、それぞれの部門で業績指標が設定されているケースを考えてみる。こういったケースだと、ビジネスがうまくいっている時は良いが、そうでないときにほころび(負のループ)が生じやすい。
たとえば(前述の「リサイクル」の概念が浸透していない企業において)、新規リードが減少した時、マーケティング部門はとにかく新規リードを獲得したくなる。そして、短期間でリードの量(リードの質は低い)を稼げる展示会のような施策に走る。
その時、インサイドセールスはどのような行動をとるだろうか。インサイドセールスは商談化させたいので、商談化率の高い経路(無料トライアルのサインアップなど)で入ってきた、新規リードに対してアプローチする。そして、展示会で獲得したリードは後回しとなり、結局放置される。
また、インサイドセールスからの商談供給数が減ってくると、フィールドセールスは「まだ柔らかい状態でも良いから、パスしてくれ」と言い出す。その結果、見込みが薄い顧客に工数をかけ、本来集中すべき顧客へのフォローや提案の質が低下し、営業の生産性が下がる。このような状況をみかねた営業部門のマネージャーは、マーケティング 部門に対して「リードが足りない」と言いはじめる。まさしくこれは「負のループ」である。
この「負のループ問題」を回避するには、下記3点が有効である。
部門間の共同作業によって達成可能な共通の目標を作ること
ファネルの順方向だけでなく、逆方向のフィードバックを仕組み化すること
チーフ・レベニュー・オフィサー(CRO)を設置すること
レベニューモデル(P.73)
エッセンス
レベニューモデルとは、下記のプロセスである。
認知拡大
リード獲得
リード育成
※1 ターゲットから外れるリードにはパワーを割いてはいけない有望リード化
アポ獲得
商談
オンボーディング
更新 + アップセル / クロスセル
※2 SaaSビジネスの利点は、製品・サービスそのものが顧客接点になる点である。ユーザーの活用状況がトラッキングできるため、顧客の解約リスクを検知できたり、満足度の高い顧客に対してはタイムリーにアップセル/クロスセルなどの提案ができる。
このレベニューモデルを実現するには「顧客ステージの設計」が必要になる。
具体的には、下記5点が必要である。
自社にあわせた各プロセス(ステージ)の設定
1で設定したステージにおける顧客の状態定義
各ステージの移行判定基準
各ステージにおける顧客とのコミュニケーションチャネル
各ステージで顧客に届ける施策・コンテンツ
営業(フィールドセールス)
各論にはなるが、今の自身にとって大切だと思った部分を記載する。
最終交渉と意思決定(P.139-143)
エッセンス
ここで目指すことは「顧客に正式に稟議プロセスを開始してもらうこと」である。そのために必要なのが「Mutual Close Plan」の提示である。
「Mutual Close Plan」とは、自社と顧客の双方で、契約までに必要なタスクをリストアップした一覧表のこと。
顧客は自分の仕事で忙しいため、購買部門でない限り、決裁に必要なプロセスをすべて把握していることはまずない。そのため、提案する営業から「今後、このような手続きがあると思いますよ」とタスクを示すことは、顧客にとっても有益である。
「Mutual Close Plan」を顧客と握ることができれば、今後のプロセスのどこにリスクがあるかわかり、時間軸とともに、具体的に進捗確認することができる。
また、「Mutual Close Plan」をうまく活用すれば、商談期間を短縮することもできる。まず、商談期間短縮の前提となるポイントは「お互いにとって何も生み出さない、非生産的な時間を最小化すること」である。そして、この「非生産的な時間の最小化」は、「想定されるタスクを営業が先回りして顧客に伝えること」により実現される。
稟議決裁プロセス(P.144-147)
エッセンス
顧客が稟議決裁の準備を開始したら高確率で受注に結びつくが、一定の確率でフェーズが後退したり、失注することもある。それを防ぐために必要なのが「リスク検知能力」である。たとえば、下記チェックポイントでリスクを確認する。
最終承認者は誰か?
通常は予算を持つ部門の意見が通るが、現場よりITや購買など関連部門の方が力が強いケースもある。発注書へサインする人は誰か?
最終承認者とは異なる場合が多い。ここを押さえておかないと、せっかく承認が取れても予定日までに発注が間に合わないこともある。経理や購買部門の人には、業務時間外に無理なお願いはできないことが多いので要注意。稟議決裁は電子承認か?紙での回覧か?口頭承認でOKか?
電子承認であれば決裁者が海外出張中でもスムーズに進むが、紙の場合はそうはいかない。取締役会や経営会議での決議が必要か?
開催日時の確認はもちろんのこと、いつまでに資料提出が必要かも確認が必要。また、会議参加メンバーも確認し、想定質問に対して回答できる情報が提供できていると良い(会議で質問に応えられないと、次回持ち越しとなってしまう可能性が高いため)。承認されなかった場合、次回の定期開催まで待つ必要があるか、臨時招集または個別説明で対応できないかも押さえる。起案者が過去に同じような金額の決裁を通したことがあるか?
起案者が決裁プロセスを熟知しているかは重要なポイント。起案者の決裁経験や在籍期間を聞くと良い。
マネジメントが見るべき商談のチェック項目(P.148-160, P.171)
営業マネジメントする人間は、各商談に対して下記項目をチェックする。
このチェックにより各担当者のクセもわかるため、それに応じたコミュニケーションを選択して行う。
受注予定日
「とりあえず」で情報入力している営業が多いが、受注が近づいて来たとき、この情報の精度が高い営業については、その情報収集能力を信頼できる。金額
攻めの数値を入れる人、控えめの数値を入れる人などバラバラになる。
そのため、会社・組織としての方針を明確にしておかないと、いつまでたっても受注高着地見込みの精度は上がらない。フェーズ
移行判定基準をどれだけ明確にしても、人によってばらつきがでる。
この点は「マネジメントが商談の中身をレビューして、担当者にフィードバックし、正しいフェーズに修正する」ということを繰り返し、中長期的視点で標準化していく。フェーズ滞留日数
フェーズ滞留日数がやけに長い案件は、マネジメントのフォロー対象となる。
また、やけに短いスパンで受注する案件が多い営業は、直前まで案件を隠し持つクセがあるか、顧客が購入したいというまでフォローできていない受け身の営業である可能性がある。ネクストアクション
単なるTo Doではなく、次フェーズに進めるために何が必要かという観点で記入する。ネクストアクションの記載内容で、その営業のレベルがわかる。
営業組織のDNA(P.177)
営業部門を作り上げるために、著者(福田康隆さん)がチームメンバーに繰り返し伝えてきたことは、下記5点。
成長のための成長はしない
手段が目的化した、数字ありきの破壊的な営業はダメもし1ヶ月前に戻れるとしたら
失注した時に、この質問に真摯に向き合えるかどうかが、実力の差になる失注の時にこそ、会社の品格が問われる
失注した時こそ、爽やかにスピード感のある営業とは
営業のスピード感とは「レスポンスが早い」「自ら提案を持ってくる」「次にすべきことを示してくれる」という意味期初の1日と期末の1日は同じ24時間
期末に慌てて行動する営業が多いが、期初であれば余裕を持って行動できる
面接の基本(P.269)
エッセンス
面接の基本は「候補者に興味を持つこと」である。
候補者を評価するのではなく、お互いをよく知ることに集中するのが採用面接である。
「これまでの経歴」「強みや弱み」「志望理由」など、それを聞くだけで終わってしまっては、勿体ない。各質問の回答に対して「なぜ?」を繰り返して掘り下げることで漸く、「よく知ること」ができてくる。
以上となります。
改めてみてみると、今回はセールス寄りの内容が、私にとって大切なポイントでした。これからも「ザ・モデル」で新たな発見があったら、書き出してみようと思います。