アカウンティング(企業会計)の基本㉓:「管理会計 本格入門」を読んで、大切そうなことをまとめてみた
管理会計 本格入門(駒井伸俊 著)を読んでみました。
書籍に書いてある内容自体は、基本的なことから実務に沿ったことまで、わかりやすく丁寧に記載されている印象です。
個人的にこの書籍で面白いなと思ったのは「意思決定別のケース」という切り口で、管理会計の知識・概念が紹介されていた点です。また、各ケースについて、章末に「演習問題」という形で、自分で考えてみるパートがありました。
今回は、書籍記載の内容のうち「短期的な意思決定パートの演習問題」について、解答を作ってみて、その内容をメモしてみたいと思います。
※ このnoteのまとめ(メモ)には、自分の解釈が多分に含まれているため、少しでも本の内容が気になった方は、ご自身で読んでみてもらえると嬉しいです。
ケース❶:管理会計固有のコストを鑑みた意思決定
問題
A社はB社から部品を仕入れるにあたり、取引額100万円の10%を手付金として支払った。(手付金はキャンセルしても、戻ってこない)
後日A社は、C社からであれば、同様の部品を85万円で仕入れることが可能であることがわかった。
「仕入れの費用」を判断基準とする場合、A社は、B社 or C社のどちらから部品を仕入れるべきか?
解答
[結論]
C社から、部品を仕入れるべきである。
(B社との取引はキャンセルする)
[考え方]
B社から仕入れる場合は、すでに手付金10万円を支払っているため、残り90万円の費用で購入できる。
一方、C社からの場合は、85万円の費用で購入できる。
よって、シンプルに「仕入れの費用」を判断基準とする場合、B社との取引をキャンセルして、C社から購入するのが良いと考える。
ここで、C社からの仕入れは、B社をキャンセルして行うため、「キャンセルで戻ってこない手付金10万円」も、C社の場合でかかる費用として考えてしまう(すなわち、C社の場合では費用が95万円と考えてしまう)というのが、よくある間違えである。この場合、手付金10万円は「埋没コスト(←後述)」として考える必要がある。
また、人間が意思決定するにあたっては、「せっかく手付金10万円を払ったのだから、B社にしたいな・・・」と思ってしまったりもするが、管理会計の観点では、経済性を基準に、合理的に判断する必要がある。
キーワード
埋没コスト
将来の意思決定に影響を与えないコストのこと(すでに発生していて取り戻すことのできない費用など)。埋没コストは、意思決定の際に考慮してはいけないコストである。
ケース❷:アウトソーシングの意思決定
問題
A社は、製品Xに必要な部品Yを600 円/個で自社生産している。
部品Yは、外部の部品メーカーから400 円/個で購入できそう。
A社は部品Yを1000個/月で自社生産しており、外部の部品メーカーからは、1000個/月の注文であれば、400 円/個で納品可能と言われている。
部品Yの自社生産をやめた場合、その機械の稼働時間を使って製品Zを生産できる。製品Zの生産により、200,000 円/月の利益が見込める。
部品Yの自社生産コスト(1000 個/月)は、以下の通り。
・直接材料費:250,000 円(部品Yの製造に直接かかる材料代)
・直接労務費:200,000 円(部品Yの製造に直接かかる人件費)
・固定間接費:150,000 円(工場全体で発生する経費)上記を踏まえて、部品Yを自社生産すべきか、アウトソーシングすべきか?
解答
[結論]
アウトソーシングすべきである。
なぜならば、アウトソーシングの方が、自社生産よりも50,000 円コストを低くできるためである。
[考え方]
まず、自社生産の製造コストは、600,000 円/月(直接材料費 250,000 円 + 直接労務費 200,000 円 + 固定間接費150,000 円)となる。
さらに、アウトソーシングする場合に製品Zによって得られたであろう「機会コスト(← 後述)」である 200,000 円/月を加味し、自社生産の場合のコスト合計は800,000 円/月(製造コスト + 機会コスト)となる。
次に、アウトソーシングの場合は、400 円/個での購入となるため、1000個/月での購入費用は400,000 円となる。
そして、アウトソーシングにしても自社生産の場合の直接労務費は無くならない(担当の人を解雇することは考えにくい)ことを想定し、アウトソーシングの場合のコスト合計は750,000 円/月(購入費用 + 直接労務費 + 固定間接費)となる。
よって、アウトソーシングの場合のコスト合計が自社生産よりも50,000 円低いため、(管理会計上の数値を判断基準とすると)アウトソーシングを選択すべきであると考える。
キーワード
機会コスト
ある案を選択すれば得られたであろう利益(失った利益)のこと。
機会コストは、意思決定の際に考慮すべきコストである。
ケース❸:追加受注の意思決定
問題
A社は製品Yを生産し、2,000 円/個で販売している。
そこに、B社から製品Yを2,200 円/個で2000個販売して欲しいと注文が入った。
A社の工場の生産能力は5000 個/月で、現在4000 個/月の生産をしている。そのため、B社の注文を受けるには1,000,000 円で新設備をリースして、生産能力を増強する必要がある。
製品Yに関する、データは以下の通り(月当たりの現状)。
・売上高:8,000,000 円
・直接材料費:1,200,000 円(すべて変動費であり、300 円/個 × 4000個)
・直接労務費:1,320,000 円(すべて変動費であり、330 円/個 × 4000個)
・製造間接費:3,090,000 円
(固定費は1,650,000 円、変動費は360 円/個 × 4000個 )上記を踏まえて、管理会計の観点で、B社からの注文を受けるべきか?
解答
[結論]
B社からの注文を受けるべきである。
なぜならば、新設備をリースしたとしても、限界利益が1,420,000 円増加すると考えるためである。
[考え方]
注文を受ける場合、受けない場合の売上高、コストを算出し、両者の「限界利益(← 後述)」を比較してみる。
・売上高
注文を受ける場合:8,000,000 + 2,200 × 2000 = 12,400,000 円
注文を受けない場合:8,000,000 円
・コスト
注文を受ける場合:
固定費は変わらず、変動費のみ増加する。またリース代もかかる。
直接材料費1,800,000 円、直接労務費1,980,000 円、
製造間接費3,810,000 円、リース代1,000,000 円
注文を受けない場合:
直接材料費1,200,000 円、直接労務費1,320,000 円、製造間接費3,090,000 円
・限界利益
注文を受ける場合:
12,400,000-(1,800,000+1,980,000+2,160,000+1,000,000) = 5,460,000円
注文を受けない場合:
8,000,000 - (1,200,000 + 1,320,000 + 1,440,000) = 4,040,000 円
以上より、注文を受ける場合の限界利益が注文を受けない場合よりも1,420,000円高くなるため、新設備をリースしてでも注文を受けた方が有利である。
キーワード
限界利益
売上高から変動費を引いた利益のこと。
ケース❹:生き残りの意思決定
問題
Y社は、事業部A、事業部Bで、それぞれ製品を生産し、販売している。
現在、事業部Aが赤字の状況であり、事業廃止が検討されている。
下記事業部の損益は、下記のとおり。
[事業部A]
・売上高:6,000円
・変動費:4,800円
・限界利益:1,200円
・個別固定費:900円
・共通固定費:600円
・営業損益:△300円
[事業部B]
・売上高:4,000円
・変動費:2,000円
・限界利益:2,000円
・個別固定費:1,000円
・共通固定費:400円
・営業損益:600円
※ 共通固定費は、各事業の売上高に基づいて配賦上記の状況を踏まえて、事業Aを撤退すべきか?
解答
[結論]
事業部Aを撤退すべきではない。
なぜならば、事業部Aを存続させた方が、貢献利益が300円高くなるためである。
[考え方]
事業部Aは営業損益がマイナスであるため、一見、廃止するのがよさそうに思われる。しかしながら、「共通固定費」は、事業を廃止しても無くならない固定費であるため、単に営業損益を見ただけでは、判断を誤ってしまう可能性がある。
そこで、上記をを加味した利益概念である「貢献利益(← 後述)」を使って考える必要がある。
両事業部の貢献利益を算出してみると、事業部Aの貢献利益は300円、事業部Bの貢献利益は1000円である。すなわち、事業部A、事業部Bとも、会社全体の利益に対してプラスに貢献していると考えることができる。
キーワード
貢献利益
限界利益から個別固定費を引いた利益のこと。
事業部の管理可能なコストである個別固定費を限界利益から控除して、営業利益にどれだけ事業部が貢献したかを表す。
最後に
演習問題をやっていて思ったのは、(たとえ短期的な意思決定であっても、)管理会計の数値(定量)以外にも考えるべき論点はあるため、それらを見落とさないように気をつけた方が良いな、ということです。
管理会計は、あくまでも意思決定のための論点の一つであり、意思決定の際に「管理会計に飛びつく」といった姿勢にならないよう、冷静に思考するのが吉だなと、改めて感じました。
以上です。
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