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⑤カヌーの上から見た星たち

ついに今夜が最後の夜かぁ。
あんなに陸地に戻りたかった私が、
いつの間にかこの旅の継続を望んでいた。
もはややぶ蚊との闘いにも慣れてきた。


夕飯を終えた私たちは
焚き火の前でまったりしていた。
持ってきたチープな赤ワインも
昨夜で飲み終わっていたので、
湖の水をフィルターでこした水を飲んでいた。



するとへレーナが
「カヌーの上で星を見ない?」
と提案してきた。
みんな「いいねぇ~」と言い、
早速カヌーとオールを準備した。
今日小島に行った時と同じく、
一艘のカヌーを使うことにした。


小島に行ったエッセイはこちら↓


もちろん辺りは真っ暗だ。
ヘッドライトを装着し、
島の目印になるライトは岸辺に置いた。
危険なためそのライトが見える辺りで
星を見ることにした。


カヌーを水面に浮かばせた。
私たちは乗り込みゆっくりオールを漕ぎ始めた。
波は穏やかでオールを漕ぐ
チャプチャプという音しか聞こえなかった。
陸地を離れておそらく3分。
オールを漕ぐのを止めた。
そしてヘッドライトを消した。


みんなで空を見上げた。
そこにはこんぺいとうを散りばめたような
満点の星空が広がっていた。
今にもそれらの星々に手が届きそうな
そんな感覚だった。



ポカンと大口を開けた私のアホ面を
他の3人に晒していたことだろう。
だが他の3人も同じような顔をしていただろうし、
星空にくぎ付けになっていた私たちは
他の者がどんな顔をしていようが
気にしてはいなかったと思う。
だいたいこんな暗闇の中じゃ、
みんながどんな顔をしてるかなんて
分かりゃしないのだ。


ここは東京やニューヨークにある高層ビルや
過度なライトパフォーマンスは無い。
遠くに島があるようだが、
人気(ひとけ)の無い島は漆黒の闇だし、
静寂に包まれている。
聞こえてくるとしたら
虫や野生動物が活動している音だろう。


そんな場所にある星空が
綺麗じゃないわけがないのだ。
だが私はここにオリオン座があればなぁ。
とも思っていた。
私はオリオン座が好きなのだ。
小学生の頃からオリオン座は
特別で身近な存在だった。
もちろん夏のこの時間の空では
オリオン座が見えるわけはないのだが。


兎アート


時間がゆっくり経過しているように感じた。
ぽつりぽつりと会話を交わすのだが、
何を話していたのか全く覚えていない。
みんなと一緒にいるはずなのに
自分だけの空間がそこにあったような、
そんな気がした。
それこそスピリチュアル的だが、
宇宙と私の身体が一体となったのだろう。


へレーナがカヌーから手を伸ばし、
空の水筒に水を汲んだ。
そしてフィルターを使わずに
そのままの状態で水を飲み始めた。
自己責任ではあるが、
ここの水は極めて綺麗な水質である。
私は若干抵抗があったが思い出にと思い、
その水を一口だけ飲んだ。
フィルターでこした水と同じく美味しかった。



私はこの旅の後も
様々な地で星空を楽しんだが、
その中でもカヌーの上で4人で見上げた星空は
特別なものとなった。


こうして私たちの5日間にわたる
カヌーの旅は終わった。
文明社会に戻った私たちは、
ミネアポリスに戻る際に立ち寄った町で
レストランに入り、
思う存分ビールと肉そして野菜を堪能した。
そしてへレーナの自宅に戻り
6日ぶりのシャワーを浴び、
心から日常生活にあるあらゆるものに
感謝する兎だった。



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