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本と映画と、エトセトラ。

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読んだ本・観た映画について気まぐれに。 (photo by tomoko morishige)
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#映画

物語は、「私」を拡張させる

物語は、「私」を拡張させる

小説を読む。映画を観る。

ともすれば、「趣味」「娯楽」として片づけられてしまうもの。効率やわかりやすさが求められる社会において、それらは余剰の多すぎる情報でしかないと捉える人もいるかもしれない。

たしかに、一冊の本を数日かけて読む、一本の映画を2時間かけて観る、それだけの時間を費やすだけの費用対効果を示すのは難しい。同じ時間を資格試験の勉強に費やすなり、仕事にまつわる情報収集をするなりした方が

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闘う、ということ

闘う、ということ

「不当逮捕」「サイバー犯罪」「実際に起きた大事件」。ポスターやあらすじに並ぶものものしい単語から、社会派の重たい作品なのだろうと思っていた映画「Winny」。

ノンフィクションの裁判ものなのでシリアスな場面も多かったけれど、鑑賞後の気分はまったく重苦しくなく、むしろ晴れやかさすらあった。それはきっとこの作品が善悪や正義といった作り手側の価値観を押し付けるのではなく、主人公である金子勇さんの生き方

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やり場のない感情に光を与える、柔らかなまなざし

やり場のない感情に光を与える、柔らかなまなざし

いまさらながら、李相日監督の「怒り」を観た。

李監督の作品を観たのは「流浪の月」がはじめてで、その映像の美しさと物語の組み立て方に一気に心を掴まれた。

他の作品も観てみたいと思いつつなかなか時間がとれずにいたのだけど、ひょんなことから「怒り」を観たら、「流浪の月」のときよりさらに圧倒されることになった。

物語のテーマは、タイトルそのままの「怒り」。登場人物それぞれが、やり場のない、どうしよう

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「わかってもらう」よりも、

「わかってもらう」よりも、

エンドクレジットがスクリーンいっぱいに映され、パッと照明がつく。客席にざわめきが戻り、伸びをしたり小声で感想を交わしたりしながら、いそいそと帰り支度を整える人々が劇場内の空気を揺らす。

おそらく、その場で泣いていたのは私だけだった。エンドロールが流れる間も、声も出さずにひたすら下まぶたから滴り落ちる雫だけを感じていた。

「この映画、好きだと思うよ」とある日友人に勧められた。調べてみると、私の好

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批判する覚悟と、人を幸せにする力

批判する覚悟と、人を幸せにする力

先日「おいしい映画館始まります。〜あなたの心を“鑑賞後のハッピー感”で満腹にします!〜」という自主上映イベントで、「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」という映画を鑑賞してきました。

あらすじとしては、グルメブロガーに料理を酷評された上にレストランのオーナーと仲違いし、シェフをクビになった主人公が、フードトラックをはじめて再起するロードムービーです。

シェフとしてのプロ意識を感じたり、父子

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