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外資系企業の日本法人から、US本社へ移籍したいきさつを赤裸々に語る

このノートでわかること

- 外資企業の本社と日本法人の現実
- 外資本社への移籍はハードルは高いが不可能ではない
- 移籍を実現するためにすべきこと
- 世界は自分が思っている以上に遠くない

海外で働きたいならこの方法

日本から海外へ飛び出して働く方法はいくつかあります。例えば、

1. その国の大学(大学院)に入学し、現地企業に就職
2. 日系企業の駐在員として赴任
3. 国際結婚(を通して現地の永住権を取得して働く)
4. 日本でキャリアを積み、現地企業に転職
5. 現地で起業
といった方法がだいたいメジャーです。

そして今回このノートでお伝えするのは上記とは全く異なる、「外資企業の日本法人から本国本社へ移籍する」という方法になります。

上のどの方法を選択するにしても正直かなりのエネルギーが要ります。時間もかかる。それにどの方法にも良い点、悪い点がある。ポイントはどの方法が自分のスタイルに一番あっているか?(その結果として継続して努力できるのか?)というところです。

なぜ書こうと思ったか

上記1〜5については調べればそれなりに経験談がでてくる。ところが外資における社内からの本社移籍については極端に情報が少ないのです。そのためどうアプローチすべきか、何を準備すべきか等々、見えづらいと考えました。試しにツイッターで以前アンケートを取ってみたところ、思ったより反応があった。

そこで自分の経験が、困っている・諦めている誰かのお役に立てればとの思いから書いています。また海外志向の高い就職活動中の学生のかたにも、日本法人から本国に移籍することも可能なのだということを知ってほしいというのもある。

それでは本題に入っていきましょう。(なお、以下は自分がUS本社に移籍した時のことを前提に書いています。)

当時の自分のスペック

本社移籍を本格的に目指そうと思った時のスペックは、簡単にまとめると以下のような感じでした。

学卒文系SE
留学経験なし
TOEIC/TOEFLは就職してから受けてない
が、学生時代から個人旅行として海外には頻繁に行っていたので、英語はそれなりに得意 (US本社から外人が来た時に通訳を頼まれるレベル)
Cisco Certified Internet Expert(CCIE)というIT業界の中ではグローバルに通用する上位資格を持っていた。

さて、新卒として自分はシスコシステムズの日本法人にいたんですが、ご承知の通りシスコはFortune500に載るようなグローバル巨大企業です。当時は総社員数5万人、日本法人は400-500人くらいだったと思います。中に入って気がついたのが、日本法人は本社からすればイチ営業拠点でしかないということ。日本ローカルなことでない限り、製品や戦略の大事な決定は全て本社側でなされます。これは外資の日本法人なら大抵同じです。なので、常に本社>支社という力関係がついてまわります。従い常に下に見られていた日本法人からUS本社に移るなどかなり難しい話しと考える人がほとんどでした。

また、日本からシスコUS本社の社内の公募サイトから狙うということも考えました。しかし基本的にシリコンバレーの会社(特に大企業)となると世界中から一騎当千の強者達がわんさと応募してくるので、修士号も持っていなければ経歴も浅い自分のような人間が、日本から応募したところで跳ね返されておしまいというのは明らか

そんな中当時の先輩や上司から言われていたこと、それは世界にでたければまずは「社内のメーリングリストで有名になれ」でした。

外資企業にはたいていグローバルで共通に運用されるメーリングリスト(ML)があります。(今だとSlack Channel)テック系だと個別の技術トピックでMLが運用され、その中には業界の凄腕エンジニアや、IETFで有名なあの人も入っていたりします。つまりそのメーリングリストでたくさん有益な発言をして有名になると、業界の有名人達に名前を覚えてもらえるチャンスがあるわけです。しかし、それは簡単な話しではありません。シスコの場合世界の強者エンジニア達がたくさんいたので、新卒数年の自分が誰かの質問に答えるなんて(そもそもレベル的に)おこがましいという状態でした。

ところがある時、ヘッドハンター経由でシリコンバレーのスタートアップが日本法人を立ち上げるという話しが自分のところに舞い込み、いろいろ考えた末転職を決めました。この決断が結果的に移籍をグッと近づけたといえます。

移籍を実現できた3つの理由

1. "Go-to" guy

そのスタートアップはグローバルで120人くらいしかいませんでした。(日本法人は営業担当のカントリーマネージャーとエンジニア担当の自分の2人だけ) そしてエンジニアとして入った自分は、カントリーマネージャーに日本の日常業務上のレポートラインがあるものの、エンジニアとしての上司は本社のエンジニア部門のVPに*直レポートでした。

*外資系企業でいう「レポート」というのは誰が上司(そのまた上の上司)かという意味でも使う。ここでいう「直レポート」というのは「直属の上司」という意味です。また「レポートライン」となると、上司の、そのまた上司の、そのまた上司の・・・で最終的にはCEOにつながるラインのことを指す。またVPとはVice Presidentの略で日本だと事業本部長から執行役員クラスを指す。スタートアップだとCEOの次に偉いことが多い。

シスコジャパン時代、全てのレポートラインが日本で完結していた自分にとって、これは大きな環境の変化でした。いきなりUS本社のVPに自分の仕事ぶりが見られる状況になったからです。(VPの上はCEOだった)

そしてこのスタートアップに移ったことで先の「メーリングリストの法則」が俄然意味を成すようになった。シスコの場合とあるMLに参加しても参加者が多いのでその存在感は1/3000くらいですが、このスタートアップだと1/30になります。つまり自分の発言を(規模は小さくとも)世界のエンジニア達によく見てもらえるチャンスが100倍に爆増したわけです。

それに加えて社内でSEとしての仲間が日本の外にしかいなかったというのもあり、ML上ではかなり積極的に発言していきました。例えば、

日本での成功・失敗事例からの学びの共有
新規プロダクトのアイデア
他国のSEの質問・困りごとにお答え

といったことを軸に発言しまくりました。誰に頼まれるまでもなくスライドを作ったりして共有したり、USのプロダクトマネージャーにアイデアを送りつけたり。半年後"SE Tech Summit"という社内のSE向けイベントが本社で開催され、日頃の発言を見ていたVPが「おまえの知見を各国のエンジニア達を前にプレゼンしてほしい」と頼んできたのです。スタートアップとはいえ、自分の顔と名前を各国のエンジニアや本社の上層部に知らしめる千載一遇のチャンスだった。

結果的にプレゼンは大盛況、社内には「Haruki is the "go-to" guy.」という空気が醸成され、社内の自分に対する見方がずいぶん変わったのをよく覚えています。

2. I know who you are. I know what you can do well.

訳すと、「私はあなたが何者で、何ができるかをよく知っている」になります。当時このVPには事あるごとに「シリコンバレーに行きたい」とか、「本社で働きたい」ということを伝え続けていました。そのたびに「うちまだスタートアップだし、そこまで潤沢にキャッシュがあるわけじゃない。だからまずは日本でもっと売れ」と言われてしまうわけです。しかし、この返答は想定内で、重要なのは「こいつはUSに来たいという強い思いを持っている」という刷り込み

このスタートアップ、実は後に別の外資の大企業(Juniper Networks社)に買収されてしまうんですが、このVPは買収後も残っていました。ある時Juniper社のUS本社に出張に行った時、スタートアップ時代の仲間と再会し自分が未だUSに移りたい気持ちに変わりはないことを告げる。すると、「スタートアップの時は君を移籍させてあげるだけの力が会社になかったが、今は買収されたので話しは別だ。ちょっと社内であたってみる」と言ってくれて、最終的にカスタマーサポート(CS)チームの空きにつないでもらうことができたのだ。

上の表題の "I know who you are. I know what you can do well." はその時VPに言われた言葉。つまり上層部に自分の強い意志と仕事ぶりを深く理解してもらったことが大きく効いたということ。またCSチームの*Hiring Managerは全く知らない人だったが、このCSチーム内は全て自分のかつての同僚ばかりでした。なので面接はこのHiring Managerとその上のディレクターの2人で済んでしまったのです。(本来なら7人ほど面接しないといけない)  VPと同僚の後押しのおかげで面接はスムーズに終わり、無事USへの移籍を決められました。自分がスタートアップ時代に積み上げたものがこうして花開いた瞬間でもあります。カスタマーサポートエンジニアになることは最初キャリア上若干抵抗があったが、USに移籍することには変えられないし、選んでられない。やりたいポジションには渡米してから移ればいいと考えたので取っ掛かりとしてこれでいこうと考えた次第です。

*外資系企業では、採用をかけるときにHiring managerという役割をそのポジションの上司になる人(もしくはその上の上司)が担います。Hiring managerは採用に関する最終決定権をもっており、採用するしないはもちろん、給料やストックオプションその他福利厚生の全てパッケージを決めます。

3. 移籍が決まってからのフォロー

晴れて移籍が決まったとは言え、まだ気をぬいてはいけない。なぜならUS採用になるので、日本の雇用ではなくUSの雇用ベースで自分の採用が動きます。よって会社の一存でいつでも簡単に移籍をなかったことに(クビに)できるからです。なので、物理的にUSにたどり着くまでは気が抜けません。

ビザが取れるまでの間、まずはAPACチームのカスタマーサポートエンジニアとしてある種試用期間として働くことになりました。もちろん全力でとりかかりましたね。Hiring Managerに「やはり紹介してもらった通り、こいつを採用して正解だ」と常に印象づける必要があるからだ。そしてここでのパフォーマンスは、USに移籍してからの最初の給料にも影響します。

また、米系外資企業はUS本社を頂点に「シアター」と呼ばれる組織体制をひいていることが多い。例えばUSの下にEMEAシアター(ヨーロッパ・中近東地区)、APACシアター(日本・中国・東南アジア・インド、ANZ(オーストラリア・ニュージーランド)、North Americaシアター(アメリカ・カナダ・メキシコを含める時もある)Americas International シアター(中南米・カリブ海)といった感じでSales Regionが別れています。

各リージョンには「地域本社」というのが存在し、そのシアターの中心的存在になります。当時日本法人はAPACシアターの下にあり、APAC地域本社は香港法人でした。この場合、人事上のレポートラインは日本->香港->USのような形になります。もし日本オフィスの中から社内公募で行こうとしていたら、香港法人によって思わぬ横やりを受けていた可能性は高いです。なので、USの内部の人々とがっちり握っておけたおかげで香港法人の声は全く影響せず、非常にスムーズでした。

世界は自分が思っている以上に遠くない

最後に今回のノートで一番強調したいのは、漫然と「海外いきたいな〜」と考えている限り道は遠くなるばかりということ。移籍が決まるまでは自分も「この努力を続けていて、本当に決まるのか・・?」という疑心暗鬼な時も多々あった。今だからこそ振り返って一つのストーリーのように見えますが、当時は前例もなく全て手探りです。だからこそ、こうしてお伝えすることで自分が何をすべきかイメージする参考になってもらえれば、少なくとも雲をつかむような話しではなくなります。あとは自分の立ち位置で具体的なアクションに落とし込むだけです。

冒頭のコメントに戻りますが、やることが明確になったからといって全てがうまくいくとも限りません。だからこそ、「自分が継続して努力できる選択肢なのか」が重要になります。

ただここまでくれば、もはや世界は自分が思っているほど遠くないと気づくはず。


まとめ

外資の日本法人から本社へ移籍するためのポイントをまとめます。

「外資の日本法人立ち上げ」はチャンスが満載
上のストーリーにあるとおり、外資の日本法人立ち上げはなにかと目立てるチャンスが多分にあります。これを生かさない手はありません。もちろん、転職せずとも今いる会社で、「グローバルなチームで編成されるプロジェクト」という枠でもいいかもしれません。鍵は、どれだけ本社の人間に見られているかということです。本社の人に"Visible"で”Vocal"な人という印象を与えましょう。

本社の人間とのコネクションはがっちり築く
本社に移りたいのなら、やはり本社の人間と太いパイプを持っておくようにしましょう。ただ特にUSだと人の入れ替えも意外とあるので、今年せっかく仲良くなったVPが1年後にはいないなんてこともあります。なので、組織の縦横にパイプを広げておくことは非常に重要です。シアター制で日本法人がUS本社に直接レポートしていない場合、この動きは特に重要です。

英語は「点数」よりも「言葉の運用能力」を
外資の本社の人間にとってTOEICの点数は意味ありません。それよりも英語で相手が違和感を感じることなくコミュニケーションできるか、上司を説得できるプレゼンテーションができるかが見られ、ここがクリアできないといくらスキルが高くても選ばれません。英語での会話力と文章表現力を磨きましょう。会話力に関して僕のおすすめはトーストマスターズです。英語でのパブリック・スピーチをガッツリ鍛えることができます。

ドメインスキル・ドメイン知識
このノートではあまりスキルや知識的なことは触れてきませんでしたが、これは気にしなくて良いという意味ではなくて、むしろ当たり前すぎる前提条件です。本社の人間が採用する際に「人たらし」なだけで採用することはまずありません。数々の応募者を押しのけてでも自分を採用すべきほどの強いスキルと知識がないと、そもそも選考の土俵にすら上がれない。よく外資ではDomain skillとかDomain knowledgeという言い方をしますが、最初は狭い領域でも良いので、「この分野だったら誰よりも理解してる」とか、「これやらせたら自分は世界の誰にも負けない」というくらいスキルを尖らせてください。自分の場合スタートアップにいる時にそれが実現できました。当時はそのスタートアップのプロダクトはまだ世界にそれほど広がる前だったので、詳しくなればなった分、特定の狭い分野で「世界の誰にも負けない」状態になれたのです。

以上長くなりましたが、海外で働いてみたいと思うみなさんの背中を少しでも押せれば幸いです。応援してます!

もし自分の状況と照らし合わせて、どうして良いかわからなければツイッター経由ででも聞いてください。



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