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晴れた日の話し

スッキリ晴れた日、大好きな魚の西京漬けを買いに家から徒歩30分くらいの商店街へと歩いた。

わたしは首が丸々見えるくらい、かなり短い髪型をしているからよく首の後ろが日焼けする。だから一応気にして帽子を被ろうと探したけど、しつもぶら下げている場所に無い。あれ、と思ったら、そういえば洗濯して外に干してるんだったと、ベランダに目を向けたらそよそよと風に揺れていた。気持ち良さそうに。
それを見てたら、なんか帽子なんてどうでもいいじゃないかという気がして、日焼け止めを手に持って外へと出た。

家の近くには交番があって、”ただ今巡回中”というパネルが見えた。
信号待ちの車の横を通り抜けて、日差しの中を歩く。
手には日焼け止めがあるのに、あんまり天気がいいから塗る気が起きなくって、というかこんな気持ちのいい風が吹いているお天気の日に、わたしとわたしを包む世界の間にバリアなんか要らない!というおかしな気持ちが勝って、日焼け止めをバックの中に放り込んだ。
わたしが住む街は、あちらを歩けば都会、こちらへ行けば緑と、いろんな顔がある街でとても好きな場所だ。木漏れ日が本当に気持ちが良い。
足を進めていると、この前はシートがかかって建設中だった家らしきものが完成していて、私の住む部屋のベランダなんてハナクソだと思えるくらいの大きなベランダに洗濯物が揺れていた。
人の生活する気配って、時として人を穏やかな気持ちにさせる。揺さぶる時もあるけれど。

商店街に到着して、お目当ての魚屋さんへと向かう。
戦前から営業しているというそのお店はちっちゃいけれど、とっても新鮮で美味しい魚が並んでいる。
その軒先には、本当に”美しい”という言葉が大袈裟ではないくらい美しいお刺身がほぼ毎日並んでいる。あっという間に売れてしまうくらい人気。
透明のブラスチックのパックに綺麗に盛られたお刺身。
たこ、かつを、まぐろにアジのタタキ。
ツマの上に綺麗に並べられたお刺身の右上に本わさびがちょこんと乗っけてあって、タタキなんて小ねぎと生姜おろしがこんもり乗っている。
ほとんど作品みたいな綺麗さだから、いつも本当に見惚れてしまう。

「嬢ちゃんいらっしゃい」

店先の小さい椅子に座っているおばあちゃん。
いつも優しく声をかけてくれる。

「今日も本当綺麗ですね〜」

いっつもこの会話をする。
でも今日はお刺身じゃなくって、西京漬を買いに来たんだ。
銀鱈の西京漬けを2つ買った。
”いつも刺身に感動してくれる嬢ちゃん”だから、買いにくるといつも少しおまけしてくれる。本当にあったかいお店。

帰路、来た道を戻る。
日差しが強くって、結構暑い。
前から歩いて来る男の人が暑そうな顔をしていて、半袖のTシャツに短パンにサンダル。完全にもう初夏だなあと思っていたら、横にあった自動販売機に目を向けて、その前へと向かっていった。
お金をジャラジャラを入れて、ボタンを押して、ゴトンと飲み物が落ちる。
じっと見るわけにもいかなかったから、その横を通り過ぎるわたし。
何を買ったのかなと気になった。
自動販売機って、いいよね。これもあったかい。魚屋のおばあちゃんとおんなじくらいあったかい。好き。

途端に、シャッフル再生しているイヤホンからユーミンの『ひこうき雲』が流れてきた。

なんか今の気分とか今の空とか、この状況にぴったりな曲で胸がいっぱいになった。
わたしはユーミンが好きだ。いいよね。あったかい。

行き、風に揺れてたあの家の洗濯物はもうなくって、この10分も経たないうちに取り込まれたらしい。
またしても人の生活する気配に心がいっぱいになる。

すごくいい気持ちだった日の午後の話し。

その日の夜、シャワーを浴びてベットの上でその話をしたら微笑んだ顔でまたわたしの心はいっぱいになった。
でも、「首の後ろ赤いよ」の言葉で、あちゃーとなった話しでした。


#日記
#荒井由実

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