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アーシュラ・K・ル=グウィン『文体の舵をとれ』にて(文体のリズム)

この書物は、物語作家のための手引きです。第1章「自分の文のひびき」から、初心者を寄せつけない壁があります。というか、けっこう無理なことをしています。文章を音読して文体のリズムを読み取るよう、著者が要請しているにもかかわらず、そのための例文が翻訳文であり原文ではないのです。
しかし、主旨はわかります。スピリチュアルかつ哲学的な内容です。

語り手であるためには、自分のリズムを知らねばならないのだ。

ル=グウィンは、リズムある文体の書き方について述べるとき、イギリスの小説家ヴァージニア・ウルフの考え方を、よく引用しています。

 文体とはごく素朴な問題であり、つまりはすべてリズムなのだ。いったん乗れば、もう間違った言葉は出てこない。ところがかたや、朝も半ばを過ぎてここに座っているわたしは、着想アイデア夢想ヴィジョンなどでいっぱいなのにその正しいリズムが得られないために、そいつを外へ出せないでいる。今やこれはたいへん深刻で、リズムとは何か、そう、言葉以上のはるか深いところに入っている。情景、情感がまず心のなかにその波を作り、そのあと長い時間を経て、見合った言葉が生まれてくる。

――pp.71-72『文体の舵をとれ』

 適切な言葉モ・ジュストについてだけど、あなたのおっしゃっているのはまちがい。文体なんてとても簡単なことよ。文体って全部リズムなの。いったんリズムをつかんだら、間違った言葉なんて使いようがないの。それはそうなんだけど、もう午前中も半ばを過ぎたというのに、わたしはここにこうしてすわり、アイディアもヴィジョンも頭にいっぱいつまっているのにそれを外に出すことができないわけ。正しいリズムがつかめないから。今言ったことはとても深いことなの、リズムが何かってこと、そしてリズムは言葉よりはるかに深いところにある。ある光景、ある感情が心のなかにこの波をつくりだすの。それにふさわしい文章を作るよりはるか以前に。そして書くことで(というのがわたしの目下のところの信念なんだけど)人はこれをもう一度つかまえて、動き出させて(この動きは一見したところ言葉とは何の関係もなく見えるの)、それからようやくこの波が心のなかで打ち寄せては砕け、逆巻くにつれて、それに合った文章を作っていくの。でも、たぶん、また来年は違うことを考えているんでしょうけど。

――ヴァージニア・ウルフ
「ヴィタ・サックヴィル=ウェストへの手紙」
一九二六年三月一六日
『ファンタジーと言葉』(岩波現代文庫)

もしも、そのリズムが、哲学者ベルクソン用語の「純粋記憶」にあるなら、
語り手の「純粋持続」が、リズムを励起していることになります。語り手の内で、語る意図を設定しなければ、リズムは生じないということになる。

以上、言語学的制約から自由になるために。つづく。