「やさしい日本語」知っていますか? その2
皆さん、こんにちは。経営企画室 能瀬です。前回に引き続き「やさしい日本語」についてご紹介したいと思います。
ありがたいことに前回の記事を公開してから、とてもたくさんの方にお読みいただき、外国人スタッフへの日本語指導や日頃のコミュニケーションに悩みを抱えていらっしゃる方が多いのかもしれないと感じた次第です。
さて、今回は具体的なやさしい日本語の書き方、話し方について紹介していきたいと思います。内容の関係上、出入国在留管理庁および文化庁作成の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」からの引用が多くなってしましますが、やさしい日本語の啓蒙を目的としておりますので、ぜひ興味を持たれた方は文化庁のホームページも併せてご覧いただければと思います。
とのことで、まずはやさしい日本語で文書を書く際のポイントからご紹介します(書き言葉)。
ステップごとに見ていきましょう。
ステップ1 日本人に分かりやすい文章にする(簡潔な文章にする)
ポイント1 情報を整理する
以下のような例文と書き換え例が提示されています。
伝えたいことの優先順位を決め、不要な情報は削ります。この例文は、おそらく市役所のホームページの「問い合わせ」ページ、あるいは「防災サイト」の一文だと思いますが、ここで伝えたいことは「地震が起こると、(様々な理由により)電話がつながりにくくなることがある」ということなので、大幅に情報が削られています。「など」は削るべき言葉の一つでしょう。いろいろなパターンを想定して保険的に「など」を付けることがありますが、よほどじゃない限り必要のない言葉だと思われます。私がこのオープン社内報の校正をする際に、削ることの多い言葉の一つです。
個人的には「地震が発生した場合、電話がつながりにくくなることがあります」の方がさらに分かりやすいのではないかと思いましたが、それはこの後のステップ2のポイントでした。
必要のない情報を削除するのも大事ですが、一方で足りない情報を補うことも大切です。以下のような例文が示されています。
日本人なら「市区町村に提出する」と書いてあれば、「市区町村の役所」のことだと大抵の方が分かると思いますが、外国人には分かりません。日本語は主語や目的語が省略されやすい言語のため、日本人には伝わっても外国人に伝わらないことが多くあります。
例えば、以前こんなことがありました。外国人スタッフに対して「あすは びょういんに あさ9時に きてください」とメッセージを送りました。その前日にも、病院の事務所で話をしていたので、事務所の場所も知っているし大丈夫だろうと翌日待っていたのですが、待てど暮らせど来ません。家にいるのかと、メッセージを送っても反応がありません。部屋まで行ってみようかと外に出ると病院の外で待っているではありませんか。彼は間違いなく9時に病院に来ていたのです。
私は「あすは びょういんの じむしょに あさ9時に きてください」と書くべきだったということになります。
このような省略された言葉を付け足すことも重要な行程のひとつです。
ポイント2 イラスト、写真、図や記号を使ってわかりやすくする
「情報を整理する」のポイントの中で、イラスト、写真、図や記号を使ってわかりやすくすることも紹介されていました。ゴミ袋の有料化のお知らせが例として示されていましたが、こちらは前回の記事で紹介しましたので省略します。
ポイント3 文をわかりやすくする(1)
ここでは3つの点に注意するように書かれています。
・一文は短く(一つの文に言いたいことは1つだけ)。いわゆる重文、複文は避けできるだけ、文を短くしましょう。
一つの文が長いので2つに分けられていますが、実際には主語、述語ともに3つある複文ですね。
主語1:結婚したい人 述語1:役所に婚姻届を出す
主語2:役所 述語2:婚姻届出を受理する
主語3:結婚 述語3:成立する
2つ目と3つ目の文は条件ー結果の関係なので、分けないほうが分かりやすいとの判断でしょう。ただ1つ目の文は「出します」と言われても「誰が?」って感じなので「出してください」とか「出しましょう」の方がいいのではないかと思います。
・3つ以上のことを言うときは、箇条書きにする
続いて、3つ以上のことを並べるときは接続詞で文を繋ぐのではなく、箇条書きにするように書かれています。
・回りくどい言い方や不要な繰り返しはしない
最後に「伝えたいことを明確に、簡単に書く」ことが勧められています。例文として
例文のような書き方をした方が、なんだか難しそうで頭が良さそうに見えるかもしれません。書く側としても文字数を稼げる点もいいかもしれませんが、ただ文が分かりにくくなっているだけですね。私自身が文章を書く際、文章を構成する際にも、こちらのポイントをとても意識しています。
ポイント4 外来語(カタカナ語)に気をつける
次のポイントとして、外来語はできるだけ使わないように書かれています。とはいえ、日本語にはたくさんの外来語がありますよね。ここでは、「バス」「ガス」「テレビ」「パン」など外来語以外に適切な日本語がない場合は除きます。
例としては、「スキーム(計画)」「コンセンサス(合意)」「デリバリー(配達)」が挙げられています。このような言葉は語源となる言葉と意味が違ったり、発音が異なることが多く、誤って伝わる危険性が高いためできるだけ使用しないように書かれています。
とはいえ、なかなかどのように言い換えればいいか分からない言葉も多いですよね。ここでは、外来語の言い換え候補の検討手段として独立行政法人国立国語研究所作成の『「外来語」言い換え提案』のページが紹介されています。
ようやく「ステップ1 日本人に分かりやすい文章にする」が終わりました。まだ「1つ目しか終わってないの!?」と私自身が思っちゃっていますが、実際には日本人にも分かりやすい文章にする過程が一番重要でボリュームが大きいです。というわけで、ここで読むのをやめず最後までお付き合いください。
ステップ2 外国人にもわかりやすい文章にする
ポイント1 文をわかりやすくする(2)
ここでは2つの点について書かれています。
・二重否定を使わない
「~ないことはない」「~ないわけではない」「~以上/以外は必要ない」など二重否定を使わないように書かれています。
・受身形や使役表現をできる限り使わない
「行動の主体(視点)がわかりにくくなるので、できる限り使わないようにします。」と書かれていますが、こちらも主語を明確にすることで分かりやすくなるかもしれません。
ポイント2 言葉に気をつける
ここでは「簡単な言葉を使う(難しい言葉を使わない)」、「曖昧な表現はできる限り使わない」といった、細かいですが、とても重要なテクニックが書かれています。
・できるだけ漢語は使わない。
・抽象的な言葉は使わない。
単語自体もそうですが、日本人同士だと伝わっていると思っている曖昧な言い方は外国人には伝わらないことが多いです。ダメなことははっきりと「ダメ」と伝えた方がいいです。
・略語は使わない
特に医療の現場では略語がとても多いです。医療監視などでも「患者さんに渡す文書では略称を使わないようにしてください」と指摘されるので、やはり医療専門職以外には難しい言葉なのだと思います。マニュアル等においては、省略することなく記載するべきだと思いますが、業務上必要な略語についてはリストを渡すなどして覚えてもらった方がいいでしょう。
・ローマ字は使わない
外国人は必ずしもローマ字を日本語の発音どおりに読めるとは限らないので、カタカナで書くようにしましょう。
・曖昧な表現を多用しない。
抽象的な言葉は使わないの項目と同様ですね。できる限り、具体的に表しましょう。
・複数の意味を持つ表現は使わない。
この例は日本人同士でもどちらか分からないことがありますね。私も先日、営業の電話がかかってきた際に、2回ほど「結構です」と断った後に、「資料お送りしますのでメールアドレスだけでもお教えいただけませんか?」と言われたので、「資料だけならいいか」と思って優しい声で「結構ですよ」と答え、メールアドレス伝える気満々でいたところ、残念そうに電話を切られました。日本人同士でも伝わらないので外国人ならなおさらでしょう。
ポイント3 表記に気をつける
最後のポイントです。
・漢字の量に注意し、ふりがなをつける。
漢字が多くなりすぎないようにして、すべての漢字にふりがなを付けます。字の大きさ、ふりがなの大きさ、行間等を調整して見やすくします。
・時間や年月日の表記はわかりやすくする
年月日に「/(スラッシュ)」を使ってはいけない理由は、国や地域によって、表記の順番が違うからです。2024年7月1日を例に挙げると
日本:2024/7/1(年/月/日)
ベトナム等:1/7/2024(日/月/年)
アメリカ等」7/1/2024(月/日/年)
となります。これは危険ですね。
ステップ3 わかりやすさの確認
書き換えた文章を、日本語教師や外国人に読んでもらい、分かりやすいか、伝わるかをチェックしてもらいます。マニュアルであれば、実際に外国人スタッフに読んでもらいながら一通り作業をしてもらうといいでしょう。
確認できる相手がいない場合でも、日本語の文章の分かりやすさを確認できるツールがいくつか紹介されています。
やさにちチェッカー
文の中で使われている語彙のレベルや、文自体のわかりやすさを診断してくれるウェブツールです。
本当は今回の記事で、実際に文章を書き換えてみたり、話し言葉の場合のポイントをご紹介したかったのですが、6,000字近くなってしまいました。あまりにも長くなりすぎて途中で離脱されるのは本望ではないですし、かと言って削りたくもありません。というわけで、少しでも興味を持っていただけた方は在留支援のためのやさしい日本語ガイドラインの後半(上記ステップに沿った具体的な書き換え例)、別冊 話し言葉のポイントをご覧ください。いずれも数ページの薄い資料ですので気楽にお読みいただけると思います。
ぜひ、今回の記事をきっかけにマニュアルの書き換え等されてみてください。また、日頃から「やさしい日本語」を心がけて外国人スタッフと話してみてください。少しでも現場でのコミュニケーションの改善につなげていただけると嬉しいです。
【6月25日追記】
記事をアップした後に、こんなニュースを見つけました。
やさしい日本語ガイドラインも十分分かりやすいのですが、この記事の中で紹介されている「気をつけて!4つ」と「はさみの法則」がとてもキャッチーで、ポイントをついており、分かりやすいので紹介したいと思います(既に記載の内容と重なっている部分もあります)。
気をつけて!4つ!
漢字を減らす!
尊敬語・謙譲語を使わない!)(です・ます・くださいで話す!)
カタカナはできるだけ使わない!
オノマトペを使わない!
はさみの法則
「は」っきり言う
「さ」いごまで言う
「み」じかく言う
これらを意識するだけで、かなり分かりやすい日本語になるはずです。是非、普段の会話に取り入れてみてください。
参考(下記すべて文化庁サイトより)
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