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「やさしい日本語」知っていますか? その1

皆さん、こんにちは。経営企画室 能瀬です。

何度かこちらのnoteでも書いているようにクオラグループでは数年前から外国人採用を行なっています。2024年6月1日現在で、6つの在留資格、3国籍で計17名の外国人スタッフが働いてくれています。

上記はいずれも医療法人ですが、数カ月後には社会福祉法人でも外国人採用を始めます。

そこで今回は外国人スタッフとコミュニケーションを取るうえで知っておいていただきたい「やさしい日本語」について紹介したいと思います。

「やさしい日本語」とは

ニュース等でも報じられているように近年、日本に住む外国人の数は毎年増え続けており、30年前に比べ約3倍に増えています。2019年4月から始まった「特定技能制度」により、その勢いは更に加速し、2024年5月末現在341万992人(出入国在留管理庁令和6年3月22日発表)と過去最高を更新し続けています。

そんな中、日本に住む外国人に情報を伝える手段として、多言語での「翻訳」「通訳」のほかに「やさしい日本語」が注目されています。やさしい日本語とは、難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語のことです。外国人だけでなく、高齢者や障害のある方など、多くの人が理解しやすいように伝えるものです。

「いやいや、日本語よりも母国語で通訳したほうが伝わるっしょ?」と思う方が多いのではないでしょうか。ところが、過去に行われた「生活のための日本語に関する調査」によると、「外国人が日常生活に困らない言語」は日本語が62.6%で最も多く、44.0%の英語、38.3%の中国語と続いています。この調査が行われたのは2008年~2011年度で、在留外国人の3割を中国人が占めていた時代ですので、個人的には今同じ調査を行なったら違う結果が出るのではないかと思っています。

一方で、2018年に東京都国際交流委員会の調査によると「外国人が希望する情報発信言語」として「機械翻訳された母国語(12名)」「非ネイティブが訳した母国語(10名)」「英語(68名)」よりも「やさしい日本語」と回答した外国人が76人と一番多かったという結果が出ています。

こうした背景を踏まえ、出入国在留管理局と文化庁が、これからの共生社会実現に向けたやさしい日本語の活用を促進するため「在留支援のためのやさしい日本語ガイドラインに関する有識者会議」を開催し、「やさしい日本語ガイドライン」を作成しました。今回の記事は当ガイドラインおよびその付属文書を参考に書いています。

職場における「やさしい日本語」以外の手段のメリット・デメリット

さてさて、「そうは言っても通訳機とか使って母国語で説明したほうが分かるんじゃないの?」って声が聞こえてきそうなので、「やさしい日本語」について詳しく書く前に実際に外国人スタッフが働く現場においてのやさしい日本語以外の手段のメリット・デメリットを考えてみたいと思います。

1.通訳機を使う

外国人採用を始めると一番初めに現場から言われるのが「通訳機を買ってほしい」です。昔と違い、携帯端末型の通訳機は安価で購入することができますし、伝わっている気にはなります。クオラリハビリテーション病院でも外国籍の患者さんが受診したとき用に受付および外来診察室に携帯端末型の通訳機を置いています。

ですが、実際に働く現場での通訳機の利用は個人的にはあまりおすすめできません。まず、コミュニケーションの時間が倍かかります。日本人スタッフが通訳機に向かって日本語で話す⇒通訳機が外国語に翻訳して音声を発する⇒外国人スタッフが通訳機に向かって外国語で話す⇒通訳機が日本語に翻訳して音声を発するという行程が会話の度に発生します。

もうひとつの理由は「伝わっている気になる」という点です。日本人スタッフの言いたいことがちゃんと伝わる言語もあるかもしれません。が、機械通訳が正確に伝わらない言語も少なくありません。

以下は、翻訳ソフトにて音声入力した日本語をベトナム語に訳したものです。

私は「田中さんの清拭をしてください」と言いましたが、「田中さんの正式してください」と音声認識され、翻訳されたベトナム語の意味は「田中さん(呼びかけ)、これを正式にしてください」になっています。

こちらは「田中さんの移乗してきて。」と言いましたが、「田中さんの異常してきて」と音声認識され、翻訳されたベトナム語の意味は「田中さんはおかしくなってしまった」になっています。

本当は「ベトナム語は人称代名詞が難しいから正しく翻訳されないことが多いです」と書きたかったのですが、それ以前に音声入力でつまづいてしまいました。上記は、普段現場で使われている通訳機と同じものではないですが、間違って翻訳されていても正しく伝わっていると思ってしまうのは医療・介護の現場では非常にリスクが高いのではないかと思ってしまいます。

なにより、私が通訳機をおすすめしない一番の理由は「外国人スタッフの日本語が上達しない」という点です。外国語の一番の上達方法は「たくさん話すこと」「たくさん聞くこと」です。通訳機を使うことで、この両方が阻害されます(機械に向かって話している日本語を聞いていると思われるかもしれませんが、翻訳されると思っているのでちゃんと聞いてはいないでしょう)。「そうは言っても、全然日本語喋れないんだもん」という気持ちも分かります。ですが、回り道だとしても、外国人スタッフの日本語の上達は自分たちに必ず職場に良い結果をもたらします。通訳機よりも以下の手段を検討してみてはいかがでしょうか。

2.マニュアル等をスタッフの母国語に翻訳する

「おいおい、通訳機はダメで翻訳はいいのかよ」と思いますよね。通訳機と同じで、日本語が上達を妨げるので職場におけるすべての文書を多言語化するのは私もおすすめしません。

しかし、「外国人スタッフに伝わらなくては困るもの」「業務上、事故を引き起こす可能性が高いもの」に関しては、翻訳した方がよいと思っています。

たとえば、特定技能外国人を雇用する際には、雇用条件書など外国人が十分に理解できる言語で併記しなくてはならない文書がいくつかあります。これは「こんな説明受けていない」「私はこんな契約知らない」ということを防ぐためのもので、外国人スタッフに不利益が生じないようにするためのものです。

では、職場においてどのようなものが翻訳した方がいい文書とされるでしょうか。「就業規則」や「安全衛生教育の資料」等がそれに当たると思われます。クオラではそのどちらもまだ翻訳されていませんが、先日病棟スタッフから「手袋の使用ルールについてベトナム人スタッフになかなか伝わらない。分かったというのだけれど守られていないから、伝わっているのかどうか分からない」と相談され感染管理認定看護師さんからいただいた感染対策全体研修の資料をベトナム語に翻訳しました。

ただ、これも注意しなくてはいけなくて、前述の調査で外国人が希望する情報発信言語で「非ネイティブが訳した母国語」の回答数が少なかった原因と思われる「正しく翻訳されていない」可能性があるので、必ずネイティブチェックを受ける必要はあるかと思います。

翻訳をプロに依頼するとなると、費用も馬鹿にならないですが、介護施設では県の事業を利用してマニュアルを多言語化することが可能です。そちらも検討されてはいかがでしょうか。

鹿児島県/「令和6年度外国人介護人材受入施設環境整備事業」実施希望施設を募集します
https://www.pref.kagoshima.jp/ae04/chiikifukushi/ryugakuseishienkaigoshisetsujisshi.html

3.マニュアルに写真を入れて分かりやすくする(動画マニュアルをつくる)

マニュアルの場合、翻訳する前にやるべきことがありますね。それはマニュアルに写真を入れるということです。いまだ文字だらけのマニュアルもたくさんあるのではないでしょうか。文字だけではなく、写真を入れることで文字だけでは分かりにくいことも視覚的に伝えることができます。作成する手間やハードディスクの容量などの問題もありますが、動画でマニュアルを作成するのも手順を理解するのには非常に効果的です。マニュアルだけでなく、作業場に写真を貼ることも間違えやすい作業の注意喚起になります。

現在、調理部門に2名技能実習生がいますが、彼女たちが入社する際にこのような写真を使用したマニュアルを活用したそうです。

実際に使用しているマニュアル①
実際に使用しているマニュアル②

写真入りのマニュアルは外国人だけでなく、入社したばかりの新人や他のスタッフにも分かりやすくなるのでとてもおすすめです。

4.日本語を教える

「外国人スタッフの日本語が上達しない」の一番の解決策は結局これです。それ以前に「もっと日本語のできる人を採用してくれ」と思われるでしょう。確かに同じ特定技能でももっと日本語レベルの高い外国人を紹介してくれる紹介会社もあります。そういう会社では1年以上、本国で日本語と介護の教育を受けJLPTのN3を取得して日本に送ってくれます。いわゆる即戦力というやつですね。そういう会社は1人あたりの紹介料が100万以上、そしてお給料とは別に毎月の登録支援費が1人あたり3万円以上かかることが多いです。そして、クオラのように自社支援している会社が人材紹介だけを利用することはできません。高いお金を払えば払うだけ能力が高い人が採用できて、受入企業も楽をできはしますが、現在クオラではそのような手段を取っていません。

よく報道で「特定技能は技能実習に比べて即戦力で」みたいなことが言われますが、まったくそんなことありません。特定技能ほど、日本語能力と介護の知識・技術にバラツキのある在留資格はありません。そして、社内での教育能力の高いところほど、外国人採用を成功させられると思っています。

クオラでもこれまでに外国人スタッフに社内で日本語を教えてきたことはあります。まずは過去に老健クオリエでEPA介護福祉士候補生(以下、EPA)を受け入れた際、EPAは勤務中に学習の時間を設ける必要があるため、クオリエでは1週間に2回、1回2時間の勉強時間を設けていました。EPAの場合、入国時にN3(フィリピン、インドネシアはN4)以上を必ず持っているので、日常会話には困らないのですが、JLPTの上級N2やN1の受験対策でその時間を利用して、外部の日本語学校のオンラインレッスンを利用したり、私が読解を教えたりしていました(その後、2人とも最難関のN1に合格しています)。

また、調理部門で技能実習生を採用した直後も、数カ月間、朝の1時間程度を日本語の学習時間にしていました。

特定技能の場合、必ず行わなくてはいけない支援として「日本語学習機会の提供」があります。これは「会社で日本語を教えなさい」という意味ではなく、「有料・無料にかかわらず日本語が学習できる場所の情報を提供してください」というもので、私の方で定期的に声掛けを行なっています。ベトナム人に関しては、外部のNPOが開催しているオンラインレッスン(無料)を紹介しています。ネパール人スタッフ3名には週に1回1時間私が早朝に教えています。

日本語を教える際に問題となるのは、「時間」「費用」「教える人」「質」ですね。この4つのバランスを見ながら、誰がいつ(業務時間内なのか、業務時間外か)、どのような内容を教えるのかを検討する必要があると思います。

「日本語教育」は外国人スタッフの日本語力の向上の一番の特効薬ですが、それにはお金も時間もかかります。そこで、いますぐに誰にでもできる外国人とのコミュニケーション手段がこの「やさしい日本語」です。

本当は今回の記事で、普段の会話で「やさしい日本語」を話す際のポイントや、文章の「やさしい日本語」への書き換え方まで書くつもりだったのですが、既に五千字近くなってしまいました。続きはまた次回お送りしたいと思います。

参考(下記すべて文化庁サイトより)

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