見出し画像

『ファン』と『お客様』は、違う。まったく数値化できない世界。

Voicy No.0113  2022年1月31日放送


お金をたくさん払ってくださるお客様


言葉遊びのように聞こえたり、へりくつをこねるように聞こえたら、そういう意図ではないということを伝えた上で、「ファンとお客様は違うんだ」というお話をします。

そもそもブランドというのは、ファンがいてくださっている状態のこと。
ファンがいる状態がブランドです。

ファンがいるというのは、金額が安いとか性能がいいという理屈を超えています。似たようなものの中で相対比較を全く超越して、「自分はこれについては、これと決めている」「あなたじゃなきゃダメ」という状況になっている状態ができていれば、ブランドの関係です。

ですから、「全国民にとって」とか「世界中の消費者にとって」というブランドはありません。一人ひとりにとって違うからです。

アサヒ、サッポロ、キリン、サントリーの中で、「このビールの、この銘柄が好きだ」という方がいるとしたら、それは理屈の問題ではありませんよね。

「オレはこういうときはこれに決めている」という人にとっては、比較を超えて選んでいるものがブランドだということです。


ファンとお客様は違う。


では何がどう違うのか。

重なっている部分はあります。ファンでありお客様だし、お客様でありファンというのはもちろんある。ファンがお客様になり、お客様がファンになることもあります。

この辺も、何を言っているんだとなると思うので、ちゃんと説明したい。

お客様とは、お金をお支払いいただき、商品やサービスを購入いただいている方のことです。お金を払って買ってくれれば、それ以上、何を望むのかと思いますが、その時点で大事なお客様であることは間違いない。

ある程度の規模になると、やっていないところがおかしいと思うんだけど、顧客ランク制度を持っていないところが結構多いわけ。オレがアドバイスに入るようなところは、大体それをきっちりやっています。S客、A客、ロイヤルカスタマーと、いろいろな呼び方をしています。

ほとんどの場合は金額区切り、購入頻度、単価×購入頻度と利用期間みたいなもので出していたりするから、それはそれでいいでしょう。

S客、つまり購入金額が高く購入頻度も頻繁で、サービス利用期間も長い、その尺度におけるSの方がファンと言い切っていいかというと、全く別です。たくさんお金を払っているだけだからです。

もちろん、それを軽視するつもりは全くありません。長くご愛顧いただいているお客様があってこそ商売は成立するので、それはそれで、重要顧客としての接し方は絶対すべきという前提があります。

ただ、お金をたくさん支払ってくれているから、その方をファンとして、無条件で当ブランドの製品、自分が提供しているものを選んでくれていると思ったら大間違いです。

金額とか購入頻度とかの「数値化できるもの」で表した場合、顧客リスト内で相対比較すると、たくさん長く使っていただいていることが明らかなだけで、ファン度が高いかどうかは全く別なのです。

だって、他でも同じくらい買っているかもしれないでしょう?

化粧品ブランドで毎月のように何万円と買ってくださって、ブランドをご利用いただいている期間が5年を超えたとしても、その方は、たまたま収入が高くて、美容にかける費用がめちゃくちゃ多いだけかもしれない。

例えばコテツブランドで、毎月2万から3万、5年間ずっと買い続けたとしても、ほかのブランドでも買っているかもしれません。相対比較を超越しているのではなくて、単純に可処分所得に対して、かけているお金が多いだけなのです。

そもそも、そこに対する興味や欲求、お金をつぎ込む量が多いだけかもしれない。いつでもほかのところからも買っているし、スイッチするという状況なので、それを熱いファンだというのはちょっと無理がある。


恋愛とブランディングは同じ


ファンの方というのは、「これじゃなきゃダメ」という気持ちで、愛着と忠誠心、好きを持ってくださっている方です。ですから、購入頻度も金額も少なくても、特別な愛着と忠誠心を持っている方がファンの方なのです。

これに関しては、自分のところを強く愛してくださっている方を見つけて、手熱くコミュニケーションを取る必要があります。

恋愛とブランディングが全く同じだというのは、コテツブランド論では「あるある」です。人がどれぐらい好きでいてくれるかを数値で計らないでしょう? もう肌感覚しかわからないじゃないですか。

ドラゴンボールのスカウターみたいに、この人が自分のことをどのぐらい好きだと思ってくれているかとか重要視してくれているかが数値化して出てくれば、恋愛関係だけに限らず人間関係でめちゃ楽ですが、そうはいきません。

お互いの接し方、感覚的なものの中で、相手が自分に対して愛着を持ってくださっているのか、ある種のロイヤルティーを持ってくださっているのか、好きかどうか確認しますよね。

料理を食べにいった回数とか、飲みに行った回数、笑い合った回数で計れればいいけれども、そんなに簡単なものではありません。

ファンであり顧客であることは、あることはあるんです。この領域、この商品、このサービスに関しては、もう「あなたじゃなきゃダメ」という状態になっている。しかも購入頻度が高く、金額も高く、サービス利用期間も長い。顧客でありファンである。2軸必要だということです。


愛着や好きが強いファン


顧客ランク制度におけるお客様に対する購入金額、購入頻度、サービス利用年月による接し方とかイベントとかメリットというのは、もちろんやったほうがいい。ただし、それとは別に、ファン度の高い人たちを集めてクローズドなイベントをやってください。

特別扱いするのです。

ラグジュアリーブランドが抜け目ないなと思うのは、個別のクローズドのイベントを結構やっているから。海外のジュエリーブランドも同じです。

オレは、フランスで高級チョコレートに触れたのが、ブランドオーナー家との最初の接点でした。そこが150年ぐらいやっているチョコレートブランドだったので、いろいろなブランドのオーナーを紹介してくれたんです。

ジュエリーとか時計ブランドを紹介していただいたけれども自分は知らなかったので、まあまあなお金を払って、顧客リストの上位に名を連ねるようになっていきました。でも、それだけではないことがわかったのです。

商売をやっている方なら、自分を商品として押し出していっているときに、購入金額が高い人ではなく、自分のファンとして理想だなと思う方を思い浮かべてほしい。

自分のブランドとファンの関係として、こういう方がファンでいてくれれば、もう自分は本当にこのブランドに全てをかけてやっているという意味が出てくるという、理想のファンがいると思うんです。

「お金をたくさん払ってくれれば、それでいいんですよ」となったら、もうその時点でブランドではありません。

ブランドというのは、ファンの方がいてファンとの関係があることだから、素晴らしいビジネスとして儲かるビジネスができていればいい。金払いのいい、お金を大量に持ってくるお客さんが、自分の中で一番大事ですという尺度もありなのです。


ファンリストをつくろう。


ただ、ブランドとしてやっていくのであれば、理想のファンがまずいる状態で、理想のファンに合う方の中で、ブランドに対して無条件で競合とかの比較を超えて「あなたじゃなきゃダメ」と言ってくれる気持ちの強い方を、ファンリストのほうに移してください。

顧客紹介制度があるのは全然いいですが、そこからファンリストを別につくること。そういう話を大きめの企業でやると、「それをどうやって選別するんですか」みたいになります。

「金額じゃなくて何なの? うちはまあまあな規模でビジネスをやっているんです。顧客リストに何万人というお客様がいたら、ファンの方って、どうやって特定するんですか」と聞いてくる方も多いですが、ファンの方かどうかは、接してみたら熱さでわかります。

ですから、お一人お一人理想のファンになりそうな方で、ファン度が高い愛着が強い方から、「このブランドじゃなきゃダメ」と思ってくださっているかどうかを、全部個別に接して、リストに載せていくというやり方です。

中心的なファンリストに載る方は多くなくていい。

100億、200億やっていても、20人、30人がファンリストに名を連ねていて、個別にブランドオーナー自身が食事会等を開いてお礼を言える距離で付き合っていれば、すごく長く続きます。


ファンを「えこひいき」する。


海外のハイブランド、ラグジュアリーブランドは、そういうところが抜け目ないのです。

オレが時計を結構大量に買っていた時期がありました。もちろん、かなり数多く買っているブランドと、1個か2個しか買っていないブランドがあり、その1個か2個しか買っていないブランドのCEOが日本に来たときに、料亭の会食に呼ばれたのです。

オレが持っていたその時計は高かったけれど、全部合わせて数千万にはならなかった。その時計はファンが多いので、5~10個持っている方は結構いると思うのに。

料亭に行ったら、食事会に呼ばれたお客さん7名の中に自分は入っていたんだけど、その中では圧倒的に利用金額が低かったはずです。

では、なぜ呼ばれたか。

全然お金をつぎ込んでいなかったけれど、そこの時計が好きだったんだよね。それと、仕事の性質上、直営のショップに行ったときに結構お話をしっかりしていたのと、休みの日のファッションの感じが、そのブランドにすごく合っていたからではないかと思う。

だからオレは熱かった。研究を兼ねているのはほかの消費でも一緒なので、オレはそのとき、そのブランドが好きだった。でも顧客リストランクでは絶対にSとかAには入っていなかったと思う。それでも呼んでいただいたのです。

そのブランドが期間限定でちょっとしたイベントをやっていて、そこにも、もちろん招待状が届くので行きますが、それとは全く別にホームページにも書いていないファンの方だけのクローズド食事会みたいなものがあり、そこに呼ばれて行ったわけです。

これって「顧客リストとファンリストが別」ということじゃないですか。

その場CEOの方が、「こういうブランドで、こうなったらいいと思っているんだ」みたいなことを、CEOとアジアパシフィックの責任者とマーケティング担当などが話していました。

向こうは10人で、まだ出していないモデルとかを持ってきて、その人が仰々しくかばんから2個ぐらい出して、みんながそれをぐるぐる回して見るみたいな本当にマニアの会なんだよね。

これはほかのVoicyの放送でも話したことがありますが、日本人はエセ平等主義です。特別扱いしたらいけないみたいになっているけれども、ファンの方自体が、そのブランドをえこひいきしてくれているわけですよね。

ビジネスはえこひいきを作り出す競争です。

「あっちのお店のほうが近いけれど、遠いあなたのお店に来ました」というのが、えこひいきです。ブランドはまさに「えこひいき」してもらうことなので、えこひいきしなきゃダメだということです。

利用期間でも計れないとなれば、その商品サービスを買ってくださった期間はまだまだ短い、ほかの古株の口うるさい顧客がいる状態でも新しいお客様の中でファン度が高かったり、ブランドとして理想のファンの方だと思える方には、クローズドイベントにお誘いして熱を高めていくのです。

本当は5人でも10人でも、クローズドでそういう熱いファンの方とお互いの忠誠心や愛着を確認するイベントができれば、めちゃくちゃブランドとしての方向性に自信が持てるので、ぜひともやってもらいたいところです。

今日は以上です。
久々野智小哲津でした。

本文は
コテツがVoicyの「ブランディングと商売の話」で語った内容を
文章化し加筆したものです。
Voicy音声は下のリンクからどうぞ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?