日朝水面下の交渉、もとい交流
在日の友人Kくんから、都内において北朝鮮の音楽公演があるという情報が飛び込んできた。会社を1時間早く早退する必要があるが、今の職場なら大丈夫。かつその日は人手が厚いことも確認し参加を決めた。
ところでぼくのWalkmanには北朝鮮音楽が500ファイル近く入っているが、Kくんは在日朝鮮人世界の音楽も網羅しているので1000ファイルを超す。しかし使っているのはiPhone。米国製やないかい!そこはええんかい!と毎回突っ込みたくなる。在日コリアン最高峰の愛好家といっていいだろう。こんな話をよくする。
「この前のキム・テリョンの光明星節記念公演の愛国歌すごくなかった?」
「すごかった」
「途中のギターソロがエモい!」
「わかる!」
この会話。9割9分わからないと思う。いいんです別に。
Kくんはぼくの平壌ホテルの恩人、チェ・ユンジュさんとも親しく訪朝経験も豊富なので話していて飽きない。「こんなこと聞いちゃまずいかなー」という質問にも答えてくれるので、とても助かっている。いや、これって大事。政治のことだけじゃなく「今度平壌行ったらどこに行くのがいい?」と聞いたら「ここやね」とたちまちいくつもプランを出してくれる。
これ北朝鮮だから「ええ?」と思うけどソウルだったら普通にあり得る会話でしょ?「今度ソウル行くけど、どこ行くと面白いかな?」「最近弘大がアツいみたい」「何が美味しいかな」「日本式の生ラーメン!」「それだったら日本で食うわ!」という会話は普通にありでしょ。こういう会話が出来ない現状、日朝関係がぼくは嘆かわしい。
Kくんは北朝鮮趣味における師匠である。
さてさて。前回雑誌「イオ」に書いた記事は評判が良く実際に演者の方からも連絡とご感想をいただいた。演者というのだからまぁすごい。実際複数の楽器を演奏できるという。
こっちはリコーダー。アルトリコーダーと普通のリコーダー。ハーモニカも習ったけどもう忘れている。Kくんもこのあたりのセンスは皆無らしい。唯一チャンゴだけは褒められたとはいっていたけどどちらも聴く専門。
聞くとその先生も公演に来るという。アフターに夕食を誘ってみたら快諾をいただいた。かくして日本のオタクと在日のオタクと在日の音楽のプロが焼肉つつきながら北朝鮮の音楽の話をバッチバチの恐怖の集いが幕を開けることになった。
場所は赤羽のいつもの店。2Fを借りようと思っている。あそこなら…。少しくらい声が大きくなっても大丈夫。そもそも酔っぱらった在日のおっさんが闖入し、ぼくを含む客全員で「太陽節マンセー!」するくらいの店だから少々のことでは何ともならない。赤羽ならKくんもぼくも帰りが楽。先生はお近くにお住まいらしい。
翌日仕事か…。休み入れるかな。
良識ある日本人はいう。「草の根交流が大事!」と。だが実際のところその草の根交流とやらは不均衡だという思いを最近強くする。結局のところ行動に対して、対価は善意と過去の歴史の清算。ボランティアが基本で持ち出しも当然。金の話をしようものなら「野暮!」と非難されるのである。「交流交流。友好友好」と笑顔でごまかす人もいる。言いたいことも言えなくて何が友好で何が交流か。こういう会は大概楽しくない。二度目はない。
一方でヘイトスピーチも論外。女性と子どもを泣かせちゃあかんでしょ。
しかしどうだ。好きなものについて、その国の人と存分にバチバチに語る。焼肉を食べながら。
これだけ日朝関係が冷え切った今こそ、過去の朝鮮通信使にも匹敵すると自負する交渉、もとい交流なのだ。えへん。
■ 北のHow to その153
在日の人とごはんを食べる時は、店を任せてしまうのが基本です。特に北関係の話をするときは場所を選びます。
公安が!というのもあるけど周りの目も一応気になる。この点主は在日コリアンで従が日本。その方が美味しいものも食べられますし。
サポートいただけたら、また現地に行って面白い小ネタを拾ってこようと思います。よろしくお願いいたします。