妄想レベル98のハリネズミ。
こんにちは、ぷるるです。
先日、散歩中におもしろいハリネズミと出会いました。
この本は2017年に『本屋大賞・翻訳小説部門賞』をとっているので、ご存じの方が多いかも。
ハリネズミくん以外にも、さまざまな生き物が登場するとても楽しいお話です。
ただ、登場生物の９９％は・・・
ハリネズミくんの妄想
なんですけどね。
そう、この小説は彼の妄想だけで成り立っているのです。
もちろん彼はごく普通の、森のかたすみでひっそり暮らす、善良なハリネズミです。
ただ常に最悪を想定する、ちょっと慎重な性格というだけで。
物語はハリネズミくんが「うちに誰もも遊びに来ないな・・・」と気づくところから始まります。
彼以外の動物たちは、しょっちゅう互いを訪ね合っていたのです。
折りしも季節は秋の終わり。
ひとりが気楽で好き。だけどちょっとさみしい・・・・・・
そうハリネズミくんが感じるのも、無理はありません。
そこで彼は、みんなを自宅に招待しようと決めました。
他人を羨み悲劇のヒーローに甘んじないハリネズミ。
なんとえらい子だろう！
私は本屋で立ち読みながら、胸を熱くしました。
往々にしてこの手のタイプは、考えるばかりで二の足を踏みがちですからね。
私のように・・・・
文から漂う『良質なユーモアの香り』を嗅ぎ取った私は、この本を購入しました。
他人とは思えないハリネズミの、物語を通じた成長を見届けたいと思ったからです。
そして自宅に帰り、胸をときめかせながらページを繰り、
彼の妄想劇場に、めまいを覚えました。
物語をどれだけ読み進めても、一向に何も始まらないんですよ。
延々と続くのは、ハリネズミの取り越し苦労妄想だけ。
招待状を出した！と思ったら、ただの妄想。
お客がやってきた！と思っても、すべて妄想。
まあ、そこが物語の最高に面白いところなのですけどね。
妄想内でハリネズミが常に被害者なのは、実に図々しいですが。
そして散々ハリネズミに対して思うことが、いつしか全部自分へのツッコミに代わるのもこの小説の魅力です。
「彼、笑えるでしょ？でも君だって似たようなものかもよ」なんてね。
ただ、個人的にラストだけはちょっと・・・でした。
この辺りは好みだろうと思います。
作者のトーン・テレヘンさんはオランダの医師ですが、幼い娘にせがまれて物語を書き始めます。それがきっかけで児童文学作家、そして詩人となりました。
ただこのシリーズは、「大人に向けた小説」です。
トーンさんが頭の固い大人たちをくすぐって、柔らかくしているのかも。
でも私は、子どもにもぜひ読んでほしいなあと思います。
特に人間関係で悩んでいる、中学生や高校生たちに。
ハリネズミは彼らの良い友達になると思います。
物語を通せばお互いを訪問をしなくても、友情が築けますしね。
またこの本は、挿画と翻訳もすごく魅力的なんです！
祖敷大輔さんが描いたハリネズミは、まさにイメージ通り。
長山さんの訳文が素晴らしいので、よりハリネズミの人柄（動物柄？）がリアル、かつユーモラスに伝わってきました。
村上主義者の私は、ちょっとだけ彼の文に似たものを感じたりして。
あと、本の栞（スピン）までキレイなんですよ！
水浅葱色が、淡い砂色の表紙の良いアクセントとなっていました。
ところで私は海外の児童文学が好きで、ちょいちょい楽しんでいます。
読み始めたのは大人になってからですけどね。
そのきっかけはこの本でした。
お二人とも児童文学への愛がすごいので、だんだん感化されまして。
何冊か図書館で借りて読んだら、その質の高さと奥行きの深さにドボンとはまってしまった訳なのです。
ピアスとカニグズバーグの作品は、どれもハズレがありませんでした。
物語にスッと引き込む文章力。しっかりと構築された世界観。でもそれを軽々と飛び越え駆け回る、登場人物のリアリティ。
子どもでも大人でも、とにかくたくさんの、たくさんの人に読んでもらいたい作家です。
何せ、彼女たちの本を読んでいると、12歳の自分が隣にくるんですから！
彼女は身を乗り出して、主人公と一緒に笑ったり怒ったりしています。
そんな体験ができるのって、面白いじゃないですか。
児童書ならではの楽しみ方ではないでしょうか。
それ、ただの妄想じゃないかって？
いえいえ、まさか。私はハリネズミじゃないんですから！
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