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病める時も萌える時も

私はかれこれ20年選手のオタクである。

仕事終わりのくたくたの体でTwitterを開くと、いつもの仲間達がいる。

「どうしよう沼ったかもしれない」「締切間に合わない!」「〇〇アニメ化!」「△△の考察なんですけど」「推しの顔がいい」「5000兆円欲しい」「カップリング、検索0、なら書けばいい」

私にとってはTwitterはオタク仲間と一緒に住み、語り合う家だ。

コロナ禍で全て無くなった現場であったが、今は少しずつ戻ってきている。しかし医療従事者である私はまだコンサートも舞台も行けていない。以前は毎月誰かしらフォロワーと飲み会や旅行、現場同行していたがそれも全くだ。

コロナ禍になる前から、一緒に住めたらいつでも鑑賞会も飲み会も萌え語りも推し語りもやり放題なのにね、とよく話していた。

今もオンライン飲み会やツイッターやLINEでの日々の会話はしているが、やはり実際に会うのとは違う。推しが摂取できないのならせめて気の知れた仲間とはしゃぎたい。

日々の寂しさから、よく読者として利用していたnoteを私も始めてみようと思い立ち、この読書感想文の企画を目にした。以前から興味のあった本が対象となっていると知り、購入し応募してみることにしたのだ。

かつてはV系の方の沼に突っ込んでいたので、この本の著者である藤谷千明さんの名前は存じ上げていたし、シェアハウスの話も興味を持っていた。

2020年、夏。平日のある蒸し暑い夜、私は自宅のリビングで肉が焼けるのを見ていた。焼いているのは同居人たちだ。なぜ平日に自宅焼き肉が行われているのか。理由は「『おそ松さん』第3期の放送が決定したから」だ。

女4人での共同生活というと、どんなイメージが抱かれるのであろうか。正直な話、類は友を呼ぶようにオタクはオタクを呼ぶので、私の友人は大体なんらかのオタクであり、同年代(30代)の非オタの女性がどんな生態なのか全く分からない。逆にオタクではない人には、オタク達のこの謎の行動はどう映るのだろうか。

このエッセイは、肩の痛みやパートナーとの離別、オタク特有の部屋に対して物が多すぎるしお金も貯まらないという多重苦の末に「夜泣き」に至った藤谷さんが、仲間達と理想の家(通称文化的なハウス)を見つけ、オタク4人暮しをエンジョイする、というものである。

このエッセイの特徴は大きく2つに分けられる。1つ目は家族でも恋人でもない集団で暮らす、比較的新しいライフスタイルであること。2つ目はそれが全員オタクであることである。

他人と住む、というシェアハウスの形からして、生活が大変なのだろうと思っていた。しかし現実的にはどうやら住む前までのハードルの方が高いようだ。シェアハウス可という物件は実はあまり多くないのだという。この先の将来、書面上の家族という絆以外でも繋がっていく人が多くなっていくであろうから、これから先はこの本を機に減っていってくれないかな、と思う。

藤谷さん達は住居ガチャから星5の文化的ハウスが排出されるまでリセマラを繰り返したのだが、それ以降は大きなトラブルもなくやっていっているのだそうだ。

成功の秘訣にはオタク同士という要素も含まれているのだと思う。

オタクというのは不思議な生き物である。何故かよく分からないが同じジャンルではなくても、何かを「推し」ているだけで謎の共同体意識が生まれる。その癖、ウェットなようでドライであり、ちょうどよい距離感で生きられる(これは人に寄りけりな部分はある)。これは何かを「推し」ている故の精神の拠り所の有無な気がする。そもそも地雷や同担被りで病むオタクはシェアハウスしたがらないだろうし。

そしてオタクは謎にネットやガジェットを駆使する。ついでにタスク管理能力にも優れているので、大体の問題はなんとかしてしまう。たぶんオタクという生き物は、同人誌制作やコスプレ衣装作成、現場管理やグッツ収集などで一般人よりもそういったスキルが勝手に高くなっているのだと思う。藤谷さん達も生活の中で、買い物や掃除などですれ違いが生じることもあるのだが、そのスキルでなんとかしてしまう。その解決方法は非オタのシェアハウスライフでも十二分に活用出来ると思うので、本文を参考にしていただきたい。

本文で藤谷さんが書いているように、大切なのは条件のあった住居が見つかった上で、衛生観念・経済観念・貞操観念の擦り合わせが出来ていていることだろう。

彼女はこの生活にもいつか終わりが来るかもしれないと書いているが、結末がどうであれ新たなコミュニティがあってもいいのではないか。この本はそのきっかけとして勉強になりつつ、楽しく読める本だと思う。


以上が真面目な感想なのだが、私はここで終わらせたくはない。確かにシェアハウス体験記としての完成度は高い。が、それ以上に他人の気がしない。誰かフォロワーさんだったりするんじゃないか。

藤谷さんももちろんそうなのだが、他の登場人物もとても親近感を感じる。mixi(懐かしい!!!)で知り合った少年誌系コスプレイヤーの丸山さん。舞台全般のオタク兼アイドルオタクで和装を好む角田さん。2次元も2.5次元も愛するお堅い会社員の星野さん。全員アラフォーである。星野さんも角田さんももちろん出会いはTwitterである。

はい、他人の気がしない。私は現在二次創作BLを書きつつソシャゲをしつつ3次元のアイドルに沼っている。なんなら、オタクの性かもしれないが、なんとなく自分の仲間でイメージキャストが思い浮かんでしまう。ちなみに大変申し訳ないことなのだが、黒いシャンデリアをリビングの照明にしようとしたり、ソファーは物を置くからダメと言ったり、オタク口調がなんとなく親近感を抱いてしまった藤谷さんのイメージキャストは私になってしまいました……。あと、私もかつて肩を痛め、痛さと将来の切なさから夜泣きに至った事があるし、今も現場に行けなくてたまに夜泣きするので……。

本文中には藤谷さん達のオタク会話が多く展開されているのだが、それがそれぞれのイメージキャストの声で再生されてしまうのだ。そのくらい私にとってはリアルで没入感があった。

冒頭に書いたようにTwitterは、仕事がどんなに忙しくても寛げる家だ。そしてタイムラインのメンバーは同居人だ。そんな家が具現化したらどんなに幸せだろう。ツイッタランドMX4Dである。

いつしかイメージキャストを超えて、私も文化的なハウスの一員になった気がした。一緒に仲間の沼の新作記念に焼肉して祝福したし、皆がハマっている鬼滅の刃を初見で見て説明されたし、2019年4月1日にかつて大好きだったヴィジュアル系バンドが解散した時には慰められた。あと、冷蔵庫と電子レンジの転校生事件(大事件をオタクならではの発想でネタにしているので本を読んで欲しい)で、私も前前前世~ってガヤ入れてた。私もいたもん!メイ、トトロみたもん!

あと、ストイック暗記王は実際にフォロワーに見せられた事があって全く同じ反応をしたので、その件の部分は短い表現ながらも爆笑してしまった。あと、たぶん角田さんの言っている虚無舞台の演出家には心当たりが。同じ屋根の下なら他のフォロワーを気にしないで気の知れた人と愚痴れますね、いいですね、仲間にいれてはくれまいか(強引)。

そう、列挙し尽くせないほどのオタクあるあるがそこにある。特にこのコロナ禍にあって、同じ世界を共有する人達の大切さを身に染みて知ったからこそより楽しくシェアハウスの様子を覗かせてもらえた気がするのだ。

読了にかかった時間は3時間ぐらいだっただろうか。体感は3秒だったが。小分けに読もうと思っていたのに1日で読んでしまった。

もしかしたらリアル感のあるオタク同士の交流に餓えていたのかもしれない。現場が無くても鑑賞会が出来るし、コロナ疑いになればドアの前まで食事を持ってきてもらえる、そんな仲間と暮らせて羨ましい。

読了後早速、タイムラインにこの本の情報を流した。いいねもすぐさまつく。それを見て、覚悟してろ!絶対貴様を巻き込んでシェアハウスしてやるからな!と、心の中でほくそ笑む私であった。

いずれまとまった形でこの続きが読みたい。その時は配信のライブや舞台のネタなど、今だからこそのネタもあるのだろうか。


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