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夏八木 秋成
2024年7月1日 13:23
前回のお話はこちら第一話とあらすじ(6)①「隣、いいすか?」 完全に声変わりを終えた深めの声が、僕の鼓膜を震わせる。「あ、…っす。」 ほとんど吐息みたいな小さな声なのに、周りの同級生とは違って明らかに高さを保ったままの自分の声が頭蓋骨に響き渡る。 この時点で、もう今日という一日がろくでもないものになることを確信した。 朝のこの一瞬を何度も何度も思い出しては一人赤面して
2024年7月5日 22:23
前回のお話第一話とあらすじ(7)② それからほとんど毎朝、河瀬くんは僕の隣の席に座ってきた。 毎回「隣いいっすか?」と聞いてくるので、その度に僕は首を小さく縦に振った。その包み込むような低音とは対照的な自分の高い声で、朝から自己嫌悪に陥るのはもう御免蒙りたかった。 あれ以来、喧しい彼の友人は僕にちょっかいを出してくることはなく、河瀬くんを見掛けるとしばらく通路を塞いで会話をした後、
2024年7月11日 14:23
前回のお話はこちら第一話とあらすじ(8)③ スクールバスが高校の駐車場へ到着すると、河瀬くんはすぐに立ち上がってバスを降りてしまった。 僕は『はい』と返信をした後、どうすればいいのか分からなくて、ただスマホの画面を眺め続けていた。ボールの投げ合いと考えれば、次は河瀬くんから何か送ってくるのだろうかと待っていたのだけど、結局何も反応はなく、僕は戸惑いながら最後にバスを降りた。 昇降口
2024年7月16日 09:31
前回のお話はこちら第一話とあらすじ(9)④ 翌日、いつものように河瀬くんが隣に座ってくると、僕は両手で握りしめていた約束の本を渡した。抑えることのできない腕の震えが恥ずかしくて、改めて自分の気持ち悪さが心底嫌になった。「お、さんきゅ。」 河瀬くんはそのまま何事もなく受け取ると、しばらく表紙を眺めたあと、すぐに本を読み始めた。 盗み見るようにして目線を横にずらすと、すっと背筋を
2024年7月18日 20:58
前回のお話はこちら第一話とあらすじ(10)⑤ 毎年夏休みになると、僕はとても調子が良かった。 生き抜くことに必死の通学がなくなり、毎日を自室で過ごしていくだけで僕は健やかに生活をすることができた。 もちろん家の中の息苦しさもあるのだけれど、学校生活の荷が下りるからなのか、いつもより少しだけ両親への気持ちも和らいでいた。宿題を早々にやり終えると、大好きな本を何度も読み返したり映画を観
2024年7月23日 02:02
前回のお話はこちら第一話とあらすじ(11)⑥ 長瀞駅を降りた頃には、すでに13時を回っていた。祭り会場の石畳に行く前に、僕達はとりあえず腹ごしらえをすることにした。 表参道に出てすぐのところに、ライン下りの受付と併設する形で飲食店が建っていたので、特に相談することもなく吸い寄せられるように店内へと入った。「思ったより観光地っぽいな。」「う、うん。」 河瀬くんはうどんとカツ丼