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夏八木 秋成
2023年6月3日 23:09
前回のお話はこちらあらすじと第一話6 あの日から、私は十日間仕事を休んでいる。いい加減戻らないと、本当に私は再起不能になると思うのだけど、思うだけで体は全く言うことを聞いてくれなかった。休みたい旨を伝えた日、高宮部長はとても安堵した表情を浮かべていた。「やっと休んでくれる気になってくれて本当によかったよ。申し訳ないけど、娘さんの葬儀の二日後から出社って、その、…普通じゃなかったよ?
2023年6月15日 03:48
前回のお話はこちらあらすじと第一話推奨BGM7 目を開けると、視界はぼやけていた。次々に溢れてくる涙が、目の前のダボの姿を細かく震わせ、滲ませていった。蓮の葉の上で風に揺れる朝露のように、左右どちらに流れるかを決めかねながらも、涙は真香の瞳から零れ落ちては、膝に乗っているアジョナの背中を濡らしていった。「おかえり。」 ぼやけたままのダボの表情は、それでもいつもの優しい笑顔の
2023年6月27日 14:10
前回のお話はこちら第一話とあらすじ推奨BGM8 翌朝はすっきりとしない曇り空だった。所々でねずみ色の低い雲が風に乗って西の方へと駆けていき、ダボの庭では、葉の擦れる音が雨降りのときのように絶え間なく続いていた。アジョナは出窓に座り、じっと外を眺めながら退屈そうに尻尾を左右に振っていた。「今日は雨は降らないよ。このまま、どんよりだ。」 ダボの言葉にちらっと振り返ったあと、アジ
2023年6月27日 19:05
前回の話はこちら第一話とあらすじ9 アネモネが咲き始めて四日が過ぎた。 スカビオサは少しずつ数を減らして、アネモネと共に今度は小さな紫の花も見られるようになった。うなだれるように茎を下に向けて、細長い花弁は羽ばたく鳥のように空へ向けて反り返っていた。 三種の花が咲き乱れる中を歩いてみると、真香はその悲しみや怒りに似た母の感情に囲まれ、取り込まれていくような気分になった。 時折、母