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【小説】想い溢れる、そのときに

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小説「想い溢れる、そのときに」全14話
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2023年5月の記事一覧

【小説】想い溢れる、そのときに(1)

【小説】想い溢れる、そのときに(1)


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 1

 夢と現実の区別がつかないのは、どういったときだろう。
 行動した結果が自分の想像を超えたとき、今までの経験では見たことのないものに遭遇したとき、心の準備が足りない状態で衝撃的なことが起きたとき。
 これらは日常の中で頻繁に起こるわけではないけれど、確実に私たちの判断力を鈍らせ、惑わせる。

 そしてその瞬間が最もたくさん起こるのが、眠りから覚めたときだ。
 先ほどまで見て

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【小説】想い溢れる、そのときに(2)

【小説】想い溢れる、そのときに(2)

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2

 しばらく雨の日が続いた。
 それでも毎日お昼を過ぎたあたりになると、真香はダボの家に足を運んだ。変わらずダボは真香の知らない話をたくさん聞かせてくれるので、そのたびに真香は興味津々で聞き入った。アジョナはずっとダボの座る椅子の下に丸く収まっていて、時折部屋の中央まで出てきて大きく伸びをしては、ぴちゃぴちゃと水を飲んだり、サイドテーブルの上に飛び乗ってみた

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【小説】想い溢れる、そのときに(3)

【小説】想い溢れる、そのときに(3)

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あらすじと第一話

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3

 扉を開けると、ダボはいつもの椅子に座ってお茶を飲んでいた。アジョナはすでに部屋の中に戻っていて、本棚の僅かな隙間を埋めるように丸まっていた。

「おかえり。」

 ダボは目を合わせないままそう言うと、真香の手に握られている花をじっと見つめた。少し首を傾けると、ブルーブラックの前髪がさらりとメガネの前に垂れ下がった。

「…素敵だね。良

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【小説】想い溢れる、そのときに(4)

【小説】想い溢れる、そのときに(4)

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あらすじと第一話

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4

 部屋の中は、すでに薄暗くなり始めていた。キッチンの横長の凹凸ガラスが、部屋の中を頼りなく照らすように夕陽の橙色を乱反射させていた。
 明かりを付けることもせず、真香はベッドに横たわったままだった。ダボと話した後、どうやって家に戻ってきたのかも覚えていない。ただ、この世界が自分の生きてきた現実の世界ではないとわかっただけで、風の匂いも木

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【小説】想い溢れる、そのときに(5)

【小説】想い溢れる、そのときに(5)

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あらすじと第一話

5

 ちょうど会社のゲートを通った瞬間に、終電発車時刻になった。
 腕時計だと正確ではないし、もしかしたらあと二分くらいはあるのかもしれないと、少しの希望を胸にスマホの画面を見てみたけれど、こちらも発車時刻の四十秒後を指し示していた。
 二日後のプレゼン資料を今日この時間まで作る必要がどこにあったのか、自分でもわからない。でも、手も頭も止まらなかった。そ

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