東京の常識
東京には何度か訪れていて、そのたびに、人が多い、電車の種類が多い、ビルが多い、車が多い、……多い。
とにかくなんでもかんでもが多くて、その情報量に圧倒されるのですが、よくいわれる、都心の人は冷たいというのはあまり感じたことがありません。
人なつっこいとも思いませんが、別にそれで寂しさを覚えたこともない。むしろ、あの、誰も他人に興味を示さない感じに、なんとなく安心感さえある。
たとえば、原宿。
自分がこの地を初めて歩いた当時は、きゃりーぱみゅぱみゅさんが有名になってきた頃で、『つけまつける』のMVが話題になっていました。
猫なんだか虎なんだかよくわからない着ぐるみを着たお兄さん2人を従えて、枕どころか布団より重そうなクソデカいリボンを付けたきゃりーさんが踊る、あのシュールすぎる世界観で、デビューしたばかりなのにいきなり有名人になったきゃりーさん。
あの、それまでのアイドルともアーティストとも違う独創的すぎるファッションについては、「なんだアレ?」と度肝を抜かれたものですが、その「なんだアレ?」な格好をした人が、原宿ではフツーにそのあたりを歩いている。
それで歩いてなぜ転ばないんですか?何かコツがあるんですか?と質問したくなるような、複雑すぎてもはや素材がわからんスカートを履く女性。
それはひょっとしてギャグでやっているのか?というリアクションをしてしまいそうになるくらいの、ハート型の何かを背中に付けている女性。何かがなんなのかはやはりわからん。
そして、どこのメガマックやねんというくらいに盛り盛りサイズの帽子を乗せた女性。
きっとこれが、日本のkawaiiの最先端。世界が驚く原宿ファッション。This is Harajuku.
セカンドストリートで500円で買ったジャケットを羽織る我のような地味男子が踏み入れてはいけない場所なのでは……?
などとオロオロするも、冷静に辺りを見渡せば、スーツ姿のふつうのサラリーマンも歩いている。
東京都心部は街と街との間隔が狭く、原宿も渋谷も表参道も歩いて往来できる距離にあるので、オフィス街から出てきた人も混じっているのでしょう。
しかし、そのサラリーマンは、「なんだアレ?」なきゃりーさんとすれ違っても、二度見することもなく、表情ひとつ変えずにただただ通りすぎる。
きっと彼にとっては、たとえきゃりーさんであっても、そこにいる群衆のひとつとしてしか認識されない。
中途半端なベッドタウン育ちの自分にとっては「なんだアレ?」なことが、この大都会のクリスタルキングな原宿では、もはや常識、スタンダードだからなのだろう。というか、東京は常識というものの幅がかなり広いのかもしれない。
この頃はまだ、ダイバーシティとか多様性社会なんて言葉が使われることはあまりなかったが、日本の首都はひと足はやくその境地に達していたというのか……。
どうかはよくわかりませんが、他人がどんな奇抜な格好をしていようが気に留めないのが、都会ではある意味での礼儀。……なのかもしれない。
いやいや、おまえが何百回も行っている梅田だって都会だろうといわれそうだし、ミナミにはブッ飛んだ格好の人も確かにいらっしゃるのですが、やはり、阪神タイガースが日本一になった夜に、スクール水着で道頓堀で飛び込んだ人がいる、などという美味しそうな話を聞けば、その人物に対して興味をそそられてしまうのが関西人の人情。
何者だったのだ、あのスク水ダイバーは……。しかも、セパレート式じゃない、昔のスク水だったぞ。今時あんなものをどこから入手した。昼間からスク水で戎橋周辺をうろついてスタンバっていたのだろうか。ううむ。
噂によると、あの方は男性だったそうです。むしろ男性だった方が嬉しいという声もあるでしょうが、個人的には大人の女性のスク水の方が見たかったです(正直)。
ところで、東京の皆様は、読売ジャイアンツが優勝したら飛び込むところとかはあるのですかね。
皇居のお濠……、はもちろん絶対にダメですな。神田川とかかな?いや、神田川でもダメだが。というか、飛び込みそのものがダメなのだが。
でも仮に、ジャイアンツが日本一になって川に飛び込む人が何人かいて、それがニュースとして報道されても、たいして注目されないような気がするのですよね。
たぶん、数ある情報のひとつとしてしか処理されないのではないか。きっとそんな状況を見た徳光和夫さんはいろんな意味で号泣なさるのでしょうが、そもそも徳光さんはいつも泣いているので、日常の延長線上の風景でしかない。
そんなことよりハロウィンの渋谷でまともに道が通れないのをどうにかしろというしごく真っ当な意見のほうが重要で、誰かがスク水コスプレで川に飛び込んだところで、それが男性だろうが女性だろうがどうでもよく、都民だろうが神奈川県民だろうがどうでもよい。埼玉県民ならそこらへんの草でも食わせておけ。
とまではいかないのでしょうが、いちいち反応しない気遣いというのも見習わないといけないなあ、と、電車の中で足を伸ばして通路をとおせんぼする人を見るたびに思うのです。多少マナーが悪い人がいたところで、いちいち気にかけてムカついてはいけない。
いけない。いけないのである。埼玉方面いきの終電に比べれば、この電車ははるかに空いているのだから、心に余裕を持って……。あ、足ふまれた。ちくしょう。
サウナはたのしい。