話を組み立てるには
『絶体絶命でんじゃらすじーさん』などで知られる漫画家の曽山一寿先生が、このたびご自身の名前を冠した「曽山一寿賞」なるものを始動されたそうです。
いわゆる、漫画雑誌で募集されている手塚治虫賞やちばてつや賞みたいなものですが、そこは曽山先生の独自のルールを設けるとのことで、そのルールとは、登場人物が2人までの作品に限定する、というもの。
ページ数の規定はなく、1ページでも1000ページでも可、ジャンルも問わないそうで、かなり自由度が高いように思えますが、登場人物が最大でも2人というのはなかなかに難しい。
物語の出だし、「起」の部分だけなら2人だけでも書けますが、「承」につなげない。
試しに少し考えてみましょうか。
まずは、パターン1。
ある正月、少年が部屋で寝転んでグータラしていると、机の引き出しから突然、青いロボットが飛び出してきた。
「誰だおまえは?」
「ぼくドラえもん」
「何しに来た?」
「君の未来を変えるため。ところでこれなに?」
「おもち」
「どれどれ、パクパク……。うまいもんだなあ!じゃ、帰る」
ここまでの会話は成り立ちますが、君の未来を変える理由を説明するために、主人公の子孫やら、現時点で未来の嫁になる人物やら、主人公の本命の人物をださなければその後の物語は成立しません。
また、近所に性格の悪いガキ大将(映画だといい奴になる)や、そのガキ大将の腰巾着みたいなヤツ、成績もスポーツもできすぎているヤツなどがいて、やっと話が膨らみます。
青いロボが餅を食って帰るだけで終わるというのもつまらなくはなく、それはそれでシュールな味わいがあるかもしれませんが、いまいちインパクト不足に思えます。
続いて、パターン2。次は女の子を主人公にして考えてみます。
主人公は、いつも元気な小学4年生の女の子。ある日、家の本棚にあったとある本を開いたら、本の中からぬいぐるみが飛び出してきた。
「こにゃにゃちわー」
「ほえー。ぬいぐるみが喋った!」
「よう目覚めさせてくれたわい」
「ほえー。大阪弁で喋った!」
「この本に挟まってたカードがどっかいってもうたんや」
「ほえー。で?」
「カードがどっかいってまうと色々ヤバイんや」
「ほえー。そりゃ大変!」
「オシャレな杖あげるさかい手伝ってくれんか?」
「ほえー。いーよ!」
まあ設定は作れましたが、設定しか作れていませんね。主人公に「ほえー」という口癖を付けることで魅力が出ていますが、異常なまでに主人公のことが大好きな親友のお嬢様とか、歳の離れたツンデレなお兄ちゃんとか、主人公が憧れているお兄ちゃんの友達とかが出てこないと立体的になりません。
パターン3。今度は大人のキャラクターにしてみましょう。
トイレを求めて全力疾走する主人公はごくふつうの青年。強いて特徴をいえばガチムチな男が好きってことかナー。そしてトイレのある公園へと駆け込むと、ベンチにひとりの男が座っているのを見つけた。ウホッ、いい男。そう思っていると、彼はツナギのホックを外しはじめて、その後、2人はトイレの中で以下略。
これは2人でも成立する内容であり、というかむしろこの2人以外の人物が入り込むべきではない物語なので、賞の趣旨にはあっているはずですが、コロコロコミック関連の賞で成人向けはダメだわな……。
バターン1とパターン2は、設定の説明ならできるが盛り上がりがない。パターン3は2人で(いろんな意味で)盛り上がるけどR指定。くそっ、どれも使えねえ。まあ、それ以前に3つとも既存の作品のパクリなのでアウトなのだが……。
ところで、noteの下書きにはもう半年以上も放置したままの書きかけの小説があるのですが、これが2人の会話なら続けられるのですが、そこに第三者が入り込むとすぐに書きたい方向から外れてしまうという現象が起きまして、なかなか完成しません。
いつものこのテキストなら、話が反れても構わないというか、むしろ脱線してからいかにふざけた文章へと発展させていくかに情熱を傾けているのでむしろ歓迎なのですが、物語は綺麗なものにしたいので、そうはいかないのです。
このテキストの中では自分が主人公なので、いくら明後日の方向へ行こうとも、いずれ帰結する場所があります。
たとえいきなり明日からラッパーになって第2のエミネムを目指すぜとか言い出したとしても、よく己を鑑みれば、そのためにはまず滑舌を鍛えないといけないことに気づいて、やっぱめんどいからえーわ、と思い留まる。
初めてxxxxxでxxxした体験について赤裸々に書こうと思い立ったとしても、noteには小学生のユーザーもいるんだからやめなさいという自分の理性が止めてくれる。
これが創作物だと自分ではないので、そのキャラクターがすげえエロい奴だったらすげえエロいことをしかねないし、ヒロインと結ばれるはずがなぜか遺産相続の件で争ってしまうかもしれない。
事前に設定とか考えると書けなくなってしまうタイプなので、書かないと何が起きるかわからないし、キャラクターがどう動くかわからない。うっかりツナギのホックを外した後に「やらないか?」と誘われた後の展開まで書いてしまいかねないのです。
何をいっているのかよくわからないという人はわからなくていいです。わかる人は立派なインターネット中年であり、なおかつインターネットをふざけて使っていた過去を持つ人なので、これからどう更生していくかを考えるべきです。そう、自分も含めて。
なので、今夜も超感動大作を夢に描きながら、noteのテキストを開いて文章をポチポチと綴り……。このようなテキストができあがりました。いつもと変わらんやんけ。
サウナはたのしい。