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【#20】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】
【本編連載】#20
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『3223年 地球にて回想』
βチルドレンにいたとき。友達はいなかったが1人だけ、妹のような存在がいた。
かわいいマリー。初めて会ったのは俺が10歳。マリーが2歳のころだったかな?
マリーも両親のデータがなかった。人見知りで、でも俺だけに何故か懐いていた。
マリーは「ヤマバ、ヤマバ」と俺の後をついてまわった。俺もマリーを抱っこして、頭をなでて、一緒に本を読んで一緒に絵を描いた。
「ヤマバ、明日は一緒にお散歩して。約束ね」
「ヤマバ、あとで絵本を読んで。約束ね」
マリーの口癖は「約束ね」だった。金色の瞳をキラキラ輝かせながら「約束ね」と、にっこり笑った。
マリーはマリーゴールドを好んだ。先生に教えてもらったらしい。
「あのね、これマリーの花なの。金色のマリー、わたしのことなんだって。暖かい時はいつも咲いてる花なんだって。いつだって見ることができるんだって」
マリーは肩までの金色の髪をさらさらと風に揺らし、嬉しそうにそう言った。
マリーは黄色のマリーゴールドを特に好んでいるようだった。
あの庭で2人で過ごした時間は、本当に特別な時間だった。
ある日マリーがこう言った。
「ねえ、あそこに太陽があるでしょ」
「そうだな」
「太陽がおっきくなって、マリーたちを殺しちゃうの?」
「どうした急に?」
「昨日授業で習ったの、太陽がおっきくなっちゃったら、みんな死んでしまうって」
「そうか」
「でも、誰か頭のいい人が、なんかして、助けてくれるかもしれないんだって」
「うん」
「ヤマバ、頭がいいからマリーを助けてくれるよね」
「そうだなぁ」
「もう、ちゃんと聞いてよ。マリーとみんなを助けてね。約束ね」
「わかったわかった」
俺がそう言うと、マリーはタンポポの綿毛みたいな、フワフワな笑みを俺に向けた。
マリーと過ごし4年がたった冬の頃から、マリーは俺に会いに来なくなった。大人たちに聞いたけど、誰もその理由を教えてくれなかった。
嫌な予感がした。
そして、次にマリーに会うことになったとき(マリーがずっと俺の話をしていたから、会うことは特別だったらしいが)小さなマリーは箱の中に、静かに眠っていた。
マリーの周りにはマリーゴールドが敷き詰められていた。オレンジのマリーゴールドだ。マリーはオレンジ色のマリーゴールドに抱かれたまま、眠り続けていた。
どういうことなのか。どういう仕掛けなのか。俺には意味が分からなかった。それでも、その意味を理解するしかなかった。
まだ6歳になったばかりのマリー、きれいな金色の髪にそっと触れる。マリーの柔らかく温かい頬が、冷たくカサカサしている。俺が触れても、そのキラキラした金色の瞳が開くことはなかった。
意味を理解するしかなかった。俺は手短にマリーとの別れを告げさせられた。
医者は「マリーが、君と出会いそして短い人生に別れを告げたのは、そういう運命だったんだよ」と、そう言いった。そして俺がマリーにあげた、AI付きのぬいぐるみドールを俺に渡した。
その後、俺はβチルドレンに戻っても、誰とも口を利かずに過ごした。
そして自分の中で繰り返し問うた。
『運命とは何だ』
『死の運命とはなんだ』
俺たち人類に突き付けられている死の運命、太陽膨張。既に受け入れている大人たちもいる。
「運命なのよ。いずれ死ぬ運命なのよ」
棺桶の前で、チルドレンの先生は、うつろな目でそう呟いていた。
『だめだ!』
『死なせてはだめだ!』
『何故死なせた!』
『何故マリーを失わなければならなかったんだ!』
あきらめだ、世の中にあきらめがあるからダメなんだ。
『運命を変える!』
『運命を変え、世界を救う!』
『誰もやらないなら俺がやってやる!』
俺の中にその決意が生まれた。
俺は14歳。
マリーは6歳。
マリーは永遠に6歳のままだ。
βを首席で卒業するころに気が付いた。
「俺に発明は不可能だ」
あれは天から与えられた才を持つ者の業であり、そういう人種のものだ。
自分でも自負できるぐらい学問は修めたし、こと機械の構造に関しては十分に自信があった。
しかし、発見・発明は別の次元のものだ。高みに来たからこそわかることもある。
それでも俺は『運命を変え、世界を救う』と決めていた。
ある日、マリーから貰った、形見のAI付きぬいぐるみドール『マリーン』(俺が名付けた、マリーは『ネコちゃん』って呼んでたっけ)が、俺にこう告げた。
「天才は理論の発見をできるけど、それを具現化する人が必要です。ヤマバ、あなたは具現者になればいいのです」
「マリーン。……なるほど、そうか。それが俺の役割か……」
『ヤマバ、運命を変えて世界を救って。たくさんの命を救って。生まれてくる子供たちに未来を作って……約束ね』マリーの声が聞こえた気がした。
その後、俺は世界トップの機械総合メーカー『リコウ』に入り、宇宙開発部門を志望して、世界中のブレーンとのパイプを作った。
「ヤマバ、ヤマバ!」
「……マリー?」
「到着しました」
マリーンだ。マリーンの優しい声がする。そうか、自動運転中だったな。
「マリーを思い出していたのですね」
「ああ」
「マリーはいつもあなたのことばかり話していました。あの日も『ヤマバが太陽からわたしを助けてくれるの……』って、弱々しくそれでも嬉しそうに言っていました」
「ああ、その時がついに近づいているんだと思うよ」
「ヤマバ、あなたも救われるのですね」
「世界を救うことができたら、自分の中で決着をつけることができると思うんだ。あの何もできずに、ただ受け入れるしかなかった弱かった自分に」
「マリーは言っていました、『太陽から逃げて、あなたとずっといっしょにいるの』って」
「ああ」
「マリーも連れて行ってあげたかったですね」
「代わりに君を連れていくよ」
「そうね、マリーの形見ですからね」
「明日からいそがしくなるなあ」
「そうです。体は大切にしてください。マリーからヤマバのことおねがいって言われているのですから」
「え?」
「言ってなかったですか。マリーはその最後のころ。『あなたのことおねがい』って私に告げて、医者に私をヤマバに渡すように伝えました。『わたしがいないとヤマバ泣いちゃうし、話し相手もいなくなっちゃうし』と」
「……知らなかったな……」
「ちょっと、泣かないでください」
酔いのせいだ。
俺は、しばらくマリーンの中で泣いた。
思い出の中のマリーは優しく微笑んでいた。
#21 👇
6月12日17:00投稿
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【語句解説】
(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)
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