【#20】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】
【本編連載】#20
βチルドレンにいたとき。友達はいなかったが1人だけ、妹のような存在がいた。
かわいいマリー。初めて会ったのは俺が10歳。マリーが2歳のころだったかな?
マリーも両親のデータがなかった。人見知りで、でも俺だけに何故か懐いていた。
マリーは「ヤマバ、ヤマバ」と俺の後をついてまわった。俺もマリーを抱っこして、頭をなでて、一緒に本を読んで一緒に絵を描いた。
「ヤマバ、明日は一緒にお散歩して。約束ね」
「ヤマバ、あとで絵本を読んで。約束ね」
マリーの口癖は「約束ね」だった。金色の瞳をキラキラ輝かせながら「約束ね」と、にっこり笑った。
マリーはマリーゴールドを好んだ。先生に教えてもらったらしい。
「あのね、これマリーの花なの。金色のマリー、わたしのことなんだって。暖かい時はいつも咲いてる花なんだって。いつだって見ることができるんだって」
マリーは肩までの金色の髪をさらさらと風に揺らし、嬉しそうにそう言った。
マリーは黄色のマリーゴールドを特に好んでいるようだった。
あの庭で2人で過ごした時間は、本当に特別な時間だった。
ある日マリーがこう言った。
「ねえ、あそこに太陽があるでしょ」
「そうだな」
「太陽がおっきくなって、マリーたちを殺しちゃうの?」
「どうした急に?」
「昨日授業で習ったの、太陽がおっきくなっちゃったら、みんな死んでしまうって」
「そうか」
「でも、誰か頭のいい人が、なんかして、助けてくれるかもしれないんだって」
「うん」
「ヤマバ、頭がいいからマリーを助けてくれるよね」
「そうだなぁ」
「もう、ちゃんと聞いてよ。マリーとみんなを助けてね。約束ね」
「わかったわかった」
俺がそう言うと、マリーはタンポポの綿毛みたいな、フワフワな笑みを俺に向けた。
マリーと過ごし4年がたった冬の頃から、マリーは俺に会いに来なくなった。大人たちに聞いたけど、誰もその理由を教えてくれなかった。
嫌な予感がした。
そして、次にマリーに会うことになったとき(マリーがずっと俺の話をしていたから、会うことは特別だったらしいが)小さなマリーは箱の中に、静かに眠っていた。
マリーの周りにはマリーゴールドが敷き詰められていた。オレンジのマリーゴールドだ。マリーはオレンジ色のマリーゴールドに抱かれたまま、眠り続けていた。
どういうことなのか。どういう仕掛けなのか。俺には意味が分からなかった。それでも、その意味を理解するしかなかった。
まだ6歳になったばかりのマリー、きれいな金色の髪にそっと触れる。マリーの柔らかく温かい頬が、冷たくカサカサしている。俺が触れても、そのキラキラしたアンバーの瞳が開くことはなかった。
意味を理解するしかなかった。俺は手短にマリーとの別れを告げさせられた。
医者は「マリーが、君と出会いそして短い人生に別れを告げたのは、そういう運命だったんだよ」と、そう言いった。そして俺がマリーにあげた、AI付きのぬいぐるみドールを俺に渡した。
その後、俺はβチルドレンに戻っても、誰とも口を利かずに過ごした。
そして自分の中で繰り返し問うた。
『運命とは何だ』
『死の運命とはなんだ』
俺たち人類に突き付けられている死の運命、太陽膨張。既に受け入れている大人たちもいる。
「運命なのよ。いずれ死ぬ運命なのよ」
棺桶の前で、チルドレンの先生は、うつろな目でそう呟いていた。
『だめだ!』
『死なせてはだめだ!』
『何故死なせた!』
『何故マリーを失わなければならなかったんだ!』
あきらめだ、世の中にあきらめがあるからダメなんだ。
『運命を変える!』
『運命を変え、世界を救う!』
『誰もやらないなら俺がやってやる!』
俺の中にその決意が生まれた。
俺は14歳。
マリーは6歳。
マリーは永遠に6歳のままだ。
βを首席で卒業するころに気が付いた。
「俺に発明は不可能だ」
あれは天から与えられた才を持つ者の業(わざ)であり、そういう人種のものだ。
自分でも自負できるぐらい学問は修めたし、こと機械の構造に関しては十分に自信があった。
しかし、発見・発明は別の次元のものだ。高みに来たからこそわかることもある。
それでも俺は『運命を変え、世界を救う』と決めていた。
ある日、マリーから貰った、形見のAI付きぬいぐるみドール『マリーン』(俺が名付けた、マリーは『ネコちゃん』って呼んでたっけ)が、俺にこう告げた。
「天才は理論の発見をできるけど、それを具現化する人が必要です。ヤマバ、あなたは具現者になればいいのです」
「マリーン。……なるほど、そうか。それが俺の役割か……」
『ヤマバ、運命を変えて世界を救って。たくさんの命を救って。生まれてくる子供たちに未来を作って……約束ね』マリーの声が聞こえた気がした。
その後、俺は世界トップの機械総合メーカー『リコウ』に入り、宇宙開発部門を志望して、世界中のブレーンとのパイプを作った。
「ヤマバ、ヤマバ!」
「……マリー?」
「到着しました」
マリーンだ。マリーンの優しい声がする。そうか、自動運転中だったな。
「マリーを思い出していたのですね」
「ああ」
「マリーはいつもあなたのことばかり話していました。あの日も『ヤマバが太陽からわたしを助けてくれるの……』って、弱々しくそれでも嬉しそうに言っていました」
「ああ、その時がついに近づいているんだと思うよ」
「ヤマバ、あなたも救われるのですね」
「世界を救うことができたら、自分の中で決着をつけることができると思うんだ。あの何もできずに、ただ受け入れるしかなかった弱かった自分に」
「マリーは言っていました、『太陽から逃げて、あなたとずっといっしょにいるの』って」
「ああ」
「マリーも連れて行ってあげたかったですね」
「代わりに君を連れていくよ」
「そうね、マリーの形見ですからね」
「明日からいそがしくなるなあ」
「そうです。体は大切にしてください。マリーからヤマバのことおねがいって言われているのですから」
「え?」
「言ってなかったですか。マリーはその最後のころ。『あなたのことおねがい』って私に告げて、医者に私をヤマバに渡すように伝えました。『わたしがいないとヤマバ泣いちゃうし、話し相手もいなくなっちゃうし』と」
「……知らなかったな……」
「ちょっと、泣かないでください」
酔いのせいだ。
俺は、しばらくマリーンの中で泣いた。
思い出の中のマリーは優しく微笑んでいた。
#21 👇
6月12日17:00投稿
【登場人物】
【相関図】
【地球-エリンセ 年表】
【語句解説】
(小説を読む中で必要な部分は、本文に記載してあります)
『地球』
Dr.タカバタケの世界は、2024年現在の私たちの時代の延長線上にある。
ヒトの身体的な進化などはなく、現在と同じ生体。一部障害を持った人が、その機能を補うために身体の機械化をおこなっているが、全世界の共通認識とまた世界条約として人体の機械化はタブー・禁止されている。それはクローン・人体錬成なども同様に、大きなタブーであり重い罪とされている。
変わったところがあるとしたら、平均身長が5~10センチほど小さくなった程度。
『惑星エリンセ (Elimssehs)』(#2にて本文説明有)
3229年に全ての人類が、惑星移民をした移民先。
この星の1日は48時間。サイズは地球の2.5倍。
恒星は1つ、衛星は4つ。
奇跡的に星の質量や惑星・衛星の影響等で重力はほぼ地球と同等になっていた。
環境は地球に酷似。ただ、地軸にほぼズレがないので四季はなく、エリアによって生態系が分布している。
気候は(エリアによるが)住居するには穏やかこの上なく、そのうえで知的生物は存在していない。
新星1年は西暦3229年と3230年を指す。公転が2倍なので、地球の2年分。
最大の衛星:青月(あおつき)-ブルースターと恒星:望日(ぼうび)-ホープスターが24時間で入れ替わる(日照時間は12時間)。
青月は大変明るいので、人は24時間の生活サイクルを崩すことなくおくることができる。
青月の日を『青日(せいじつ)』、望日の日を『白日(はくじつ)』と呼ぶ。
『時空短縮法』
…ノボー・タカバタケが発見したワープ理論
『時空短縮装置』
惑星間移動を可能にした装置
『ネオジャパン』
2024年現在の日本とほぼ同じ領土である。国境間にパスポートが不要になったので、様々な国の人が行き来している。首都はTOKYO
『チップ(脳内チップ)』
全人類に義務づけられた、脳内に入れる機械部品。記憶の拡張や、翻訳など様々な機能がある。また、国家管理のための個人情報が収めれれている。
『クロックカレンダー』
脳内に入れられたチップにより、日にち・時間が把握できる。また、アラーム機能など様々な機能がついている。国家観を超える連絡の時に、時差の把握にも便利。
『太陽膨張』
かつて、2000年代には、太陽膨張による地球上の生物の滅亡は5億年以上先だと予想されていた、しかし3000年に入る頃には、太陽は狂ったように膨張をはじめ、3300年には人類がが生存していくのが難しいと予想されている。
『AC.(アカデミア)』
各所にある研究機関。現在の大学の延長線上だが、教育よりも研究を中心に置かなっている。学位研究員としての期間は10年以内だが、状況によって延長が可能。
『人類忠心』
男女の恋愛が希薄になり、出生率が下がる2200年の少し前ごろから、人類は戦争・テロを行わなくなった(最後のテロは2189年と記録されている)。また、凶悪犯罪が急速に減少していった。同時に法整備、移動技術の進歩により、交通・移動事故による死者はほとんどいなくなった。また、医療体制も行き届き。人の死因は老衰と自己終了(尊厳死)の2つが中心となっていた。
つまり、寿命まで人は死ななくなっていた(3200年で平均寿命は160歳 ※自己終了含む)。
その一方で体力の少ない幼少期の死亡率が一定数ある事は、この時代においても無くなることのない悲劇の1つであった。
簡単に生まれなくなり簡単に死ななくなると、その1つ1つの命の価値が上がる。人が人として生き、人として死ぬ。そのことに、全人類が共通して敬意を払う。そういうことが社会通念上、当たり前の認識になっていた。
『人と自然』
人は、居住区と工場区(農業・酪農含・漁業含む)、自然区(開放区と非解放区=国定区)を分け、人の手の届く範囲とそうでないエリアを分けて生きていた。
『チルドレン(共通育成教育施設)』
出生~20歳までは一貫して、各国が管理し育成・教育をする。
施設で集団生活が原則となり親との面会は可能であったが、一緒に住むことは禁止された。
世界の合計特殊出生率(以後、出生率)は2未満であり、子は宝。相互監視と国の指導を導入し、ネグレクトや犯罪などから子供を守るよう、徹底的な管理体制が敷かれた。
『ウインドスクリーン』
モニターであり、光や熱の遮断できる、窓。
透過したり、空気を通したりすることも可能。
『テキスト技術』
脳に入れられたチップを通じて情報を交換する方法。
視覚的には空中に情報が浮いているように、感覚的には脳裏に直接流れ込んでくるように感じる。
眼鏡型の外部機器で補いことも可能。
脳内チップにはキーロック機能があり、解除区画の情報のやり取りしかできないように、法令上もシステム上もしっかりとしたセキュリティの中で作動している。
『S・W・I・M (Shallow Well Interchange Meeting:表意交換会議)』
テキスト同様、脳内チップを用いて人員間でネットワークをつなぐ方法だが、テキストに比べると、より深い意識の階層に入るため、リスク分配のためオフラインでの使用は禁じられている。(S・W・I・Mにおける、オフラインの禁止)
一対一の議論に用いられることが多い。複数名での使用も可能であるが、発信者が特定しにくくなる、外部に対する意識が切り離されるので、安全な環境で行うことが義務付けられている。(S・W・I・Mにおける、外的安全の確保)
また、没頭しすぎて飲食の時間を忘れるので、一定時間がたつとオンラインアラームが鳴り、さらに過ぎると、オンラインポリスより警告が来る。(S・W・I・Mにおける、使用時間の順守)
【1章まとめ読み記事】
【4つのマガジン】
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