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【#21】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#21

視点:ヤマバ・ムラ  31歳
『3223年 地球にて回想』

 だからさ、桜の花の舞うAC.TOKYOでお前を見た時は拍子抜けしたよ。でも、一目で俺が補佐するべき、天才なんだってわかった。ムカつきを感じていたαチルドレンにもかかわらずな。

 そうだな、その日の話をしようか。

 あの日、俺は緊張していたんだよ。運命を変える日が始まるってな。
 俺が研究室に入ったすぐ後に来た、色白のひ弱そうな、ボクちゃん。それがお前だった。
 とにかく動きが不審だったぜ? 顔は真っ青で、ゆらゆらと揺れているかと思ったら、いきなり倒れそうになって……そのまま外に連れ出したよ。そしたら「そ、装置が作動して時空が歪んでいる……」って!
 傑作だ! αの人間はやっぱり俺たちとは違うと思った。
 俺は元来人間嫌いだ。もちろん大人になってからはメリットのための人間関係を結ぶことはできるようになっていた。だが本当の友達は、マリーとマリーンしかいなかった。でも、お前と話したその数回のやり取りで、既に俺の心はお前を受け入れていたんだよ。

 不思議だ。
 その夜に、初めて一緒にワインを飲んだ。本当に楽しかったな。そしてそこで、お前の異質な知性と天才ぶりを感じたよ。一発で『ああこれが本当の天才。発見・発明をする人種なんだ』って思った。
 心地よかった。俺は、俺の夢のためのパートナーを見つけたんだと思った。同時にお前が叶えたいと思う夢をなんでも叶えてやるって思ったよ。
本当だぜ?
 でも本当にあの夜は楽しかったよ。後日店に行ったらマスターに、「顔もタイプも全然違うけど、かわいい弟さんね。紹介して」って言われて、噴き出したよ。

 桜の舞う入所式の日。
 もうひとつ俺はとんでもないものを見つけた。
 研究室に入ったとき目に飛び込んできた、金色の髪と金色の瞳……マリー、君が現れたのかと思った。

 あの冷たかった君はAIボディの偽物で、隠れて成長して、目の前に現れたのかと思ったよ。
 今でも相変わらず人見知りなんだろうなと思いながら、君を見ていた。
 テキストで見る限り、マリーと同じように両親のデータはなかった。私邸で育ったということ以外、ほとんどの情報は隠されていた。私邸で育つなんて普通あり得ない。もしかしたらお偉いさんの子供なのかもしれないと思った。
 俺の直感は、アンジョーはどこかで必ずマリーとつながっていると言った。

 確かめようなんてない。
 でもそれでもよかった。
 アンジョー、君を太陽から救えれば、マリーを救ったんだと自分の中に落とし込める。
 君との出会いは、俺にとってはそういう特別なものだった。

 そしてシーは地球の運命と俺たちの進む道を語った。
 衝撃的だったけど、全部受け入れられた。俺はこれを待っていたんだと思った。
 シーには感謝している。世界の運命を変えるために、俺をその一員に選び、使命を与えてくれた。ノボーと、アンジョーに会わせてくれた。
 シー、ノボー。俺は、お前たちのためだったら何でもやってやる。シー、あんたの言葉は全部信じる。星が運命を変えたがっているんだよな?

 ありがたい。すべてつながっている。全部俺の夢につながっている。
アンジョー、君を救うことが、俺の新しい夢になった。

 本当に充実した時間だった。リコウ時代も充実していたけど、すべてが違った。
 とにかく楽しかった。真剣なのに笑いが絶えず、世界の運命を背負っているのに楽しいレクリエーションをしている気分だった。
 みんな本物の天才だからだ。今まで周りに物足りなさを感じていたから、思う存分自分の実力を出し切り、自由に動ける感じが心地よかった。

 シーとノボーで組むことが多かったから、俺はいつもアンジョーと組んでいた。
 アンジョーとのやり取りは特に楽しかった。アンジョーは基本的にいつでも機嫌が悪い。でもまだ子供だから、少しでも興味が沸くとすぐにそれに引き付けられ、のめり込んでいく。
 何かを吸収しているときのアンジョーは素直だった。マリーが真剣に絵を描いたり、本を読んだりする姿を思い出した。
 アンジョー、君がそこに生きているということそれだけで、俺には奇跡が起きているように思えたよ。

 始めてアンジョーをマリーンにのせた時。マリーンが一言も声を発さないのには笑った。
 いわく、「回路が混乱し、言語を発することができませんでした」だって。マリーンの測定装置には限界はあるけど、俺の直感だけではなく、マリーンが認識する限りも、遺伝子解析すれば、マリーとアンジョーは相当近しい存在であるという見解だった。

#22 👇

6月13日17:00投稿


【登場人物】

βチルドレン主席終了。世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員
βチルドレンで、ヤマバと共に過ごす。6歳で永眠。
ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者
【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI
私邸育ちの謎多き14歳の少女
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係

【相関図】

【地球-エリンセ 年表】


【語句解説】

(小説を読む中で必要な部分は、本文に記載してあります)

『地球』
Dr.タカバタケの世界は、2024年現在の私たちの時代の延長線上にある。
ヒトの身体的な進化などはなく、現在と同じ生体。一部障害を持った人が、その機能を補うために身体の機械化をおこなっているが、全世界の共通認識とまた世界条約として人体の機械化はタブー・禁止されている。クローン・人体錬成なども同様に、大きなタブーであり重い罪とされている。
変わったところがあるとしたら、平均身長が5~10センチほど小さくなった程度。

『惑星エリンセ (Elimssehs
3229年に全ての人類が、惑星移民をした移民先。
この星の1日は48時間。サイズは地球の2.5倍。
恒星は1つ、衛星は4つ。
奇跡的に星の質量や惑星・衛星の影響等で重力はほぼ地球と同等になっていた。
 環境は地球に酷似。ただ、地軸にほぼズレがないので四季はなく、エリアによって生態系が分布している。 
 気候は(エリアによるが)住居するには穏やかこの上なく、そのうえで知的生物は存在していない。
 新星1年は西暦3229年と3230年を指す。公転が2倍なので、地球の2年分。
最大の衛星:青月(あおつき)-ブルースターと恒星:望日(ぼうび)-ホープスターが24時間で入れ替わる(日照時間は12時間)。
青月は大変明るいので、人は24時間の生活サイクルを崩すことなくおくることができる。
青月の日を『青日(せいじつ)』、望日の日を『白日(はくじつ)』と呼ぶ。

『時空短縮法』
 ノボー・タカバタケが発見したワープ理論

『時空短縮装置』
惑星間移動を可能にした装置

『ネオジャパン』
2024年現在の日本とほぼ同じ領土である。国境間にパスポートが不要になったので、様々な国の人が行き来している。首都はTOKYO

『チップ(脳内チップ)』
全人類に義務づけられた、脳内に入れる機械部品。記憶の拡張や、翻訳など様々な機能がある。また、国家管理のための個人情報が収めれれている。

『クロックカレンダー』
脳内に入れられたチップにより、日にち・時間が把握できる。また、アラーム機能など様々な機能がついている。国家観を超える連絡の時に、時差の把握にも便利。

『太陽膨張』
かつて、2000年代には、太陽膨張による地球上の生物の滅亡は5億年以上先だと予想されていた、しかし3000年に入る頃には、太陽は狂ったように膨張をはじめ、3300年には人類が生存していくのが難しいと予想されている。

『AC.(アカデミア)』
各所にある研究機関。現在の大学の延長線上だが、教育よりも研究を中心に置かなっている。学位研究員としての期間は10年以内だが、状況によって延長が可能。

『人類忠心』
男女の恋愛が希薄になり、出生率が下がる2200年の少し前ごろから、人類は戦争・テロを行わなくなった(最後のテロは2189年と記録されている)。また、凶悪犯罪が急速に減少していった。同時に法整備、移動技術の進歩により、交通・移動事故による死者はほとんどいなくなった。また、医療体制も行き届き。人の死因は老衰と自己終了(尊厳死)の2つが中心となっていた。
つまり、寿命まで人は死ななくなっていた(3200年で平均寿命は160歳 ※自己終了含む)。
その一方で体力の少ない幼少期の死亡率が一定数ある事は、この時代においても無くなることのない悲劇の1つであった。
簡単に生まれなくなり簡単に死ななくなると、その1つ1つの命の価値が上がる。人が人として生き、人として死ぬ。そのことに、全人類が共通して敬意を払う。そういうことが社会通念上、当たり前の認識になっていた。

『人と自然』
人は、居住区と工場区(農業・酪農含・漁業含む)、自然区(開放区と非解放区=国定区)を分け、人の手の届く範囲とそうでないエリアを分けて生きていた。

『チルドレン(共通育成教育施設)』
出生~20歳までは一貫して、各国が管理し育成・教育をする。
施設で集団生活が原則となり親との面会は可能であったが、一緒に住むことは禁止された。
世界の合計特殊出生率(以後、出生率)は2未満であり、子は宝。相互監視と国の指導を導入し、ネグレクトや犯罪などから子供を守るよう、徹底的な管理体制が敷かれた。

『ウインドスクリーン』
モニターであり、光や熱の遮断できる窓。
透過したり、空気を通したりすることも可能。

『テキスト技術』
脳に入れられたチップを通じて情報を交換する方法。
視覚的には空中に情報が浮いているように、感覚的には脳裏に直接流れ込んでくるように感じる。
眼鏡型の外部機器で補いことも可能。
脳内チップにはキーロック機能があり、解除区画の情報のやり取りしかできないように、法令上もシステム上もしっかりとしたセキュリティの中で作動している。

『S・W・I・M  (Shallow Well Interchange Meeting:表意交換会議)』
テキスト同様、脳内チップを用いて人員間でネットワークをつなぐ方法だが、テキストに比べると、より深い意識の階層に入るため、リスク分配のためオフラインでの使用は禁じられている。(S・W・I・Mにおける、オフラインの禁止)
一対一の議論に用いられることが多い。複数名での使用も可能であるが、発信者が特定しにくくなる、外部に対する意識が切り離されるので、安全な環境で行うことが義務付けられている。(S・W・I・Mにおける、外的安全の確保)
また、没頭しすぎて飲食の時間を忘れるので、一定時間がたつとオンラインアラームが鳴り、さらに過ぎると、オンラインポリスより警告が来る。(S・W・I・Mにおける、使用時間の順守)

『シップ』
地上、水上、空中を移動できる船。
自動運転のように決められた領域内を移動するだけではなく、様々なところに移動が可能。
ただし、政府の免除を必要とし、公安による管理下に置かれての航行となる。
自動運転以外にも、AI補助付きの半手動による運航も可能。
国境を超える場合は、各管轄国の承認が必要。
大気圏内用と宇宙用があり、宇宙用は主要6国の承認が必要。


【1章まとめ読み記事】


【4つのマガジン】


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