【#22】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】
【本編連載】#22
4
そして3223年4月10日。『時空短縮法』発見パーティー。
祝賀会が政府主催で行われたけど、あまりにもつまらなかったから、俺たちがマイクパフォーマンスで盛り上げて、その後には「僕たち研究があるので……」って勝手に帰ったよな。それなのに来場者は道を開けて拍手で送ってくれて。あれは嬉しかった。
その足で、マスターの店に行って、マスターのおごりでガンガン高いワインを開けて、大いに盛り上がって……その時の話もしようか。
アンジョーが未成年で飲めないからか、最初は機嫌悪かったんだけど、シーが甘いものあげたので、ニコニコしていた。アンジョーは怒っている時の方が多かったから、その姿を見て俺も嬉しくなって、ノボーに飲ませまくったな。
きっとアンジョーはノボーの祝賀会が嬉しかったんだと思う。
アンジョーは、ノボーのことをいつも意識しているようだった。でも俺にはそれでよかった。アンジョーが嬉しいなら、それだけでよかった。
相変わらず、シーはワインで酔っていた。AIは基本的に飲食しないんだが、驚く事にシーは何故かワインだけは飲めて、しかも酔いもシミュレートされていた。
シーの開発者はたぶん頭のおかしいワインマニアだ。まあ、天才と言うものはそんなものかもしれない。でもいいなぁと思った。同じ技術が分かれば、マリーンとも飲んでみたかった。
かたや、ノボーは泥酔に近かった。
「時間が変わることが時空短縮法の肝なのです!」
「装置の技術はシンプルです」
「宇宙空間であれば、距離と時間を関係なく飛べます。ただし、先に探査機を飛ばしたデブリ(宇宙ゴミ)の調査が必要です。大気圏を出て着陸する能力さえあれば、どんな星でも行けます!」
ノボーの話しぶりは、まるで壊れた音声再現機だった。
シーの酔いも酷い。
「私は使徒の秘密を言いたい! でもロックが解除できない!」
なんじゃそりゃ。
2人が壊れているので、俺はアンジョーのところに行った。
「よお、楽しんでいるか」と聞くと、「ねえ、2人ともちゃんと帰れるの?」とアンジョーは返事をした。
「俺とマリーンで送っていくよ」
その後たわいもない笑い話をした後に、アンジョーは「あ! ねえ、ところで、マリーって誰?」と言った。
突然すぎるアンジョーの言葉に俺は酔いが覚めた。
「気づいてないの? たまにあんた私のこと、そう呼ぶのよ。特に酔っているとき」
「……そうか、全然気が付かなかったな」
「せっかくだから教えてよ?」
そうだよな、別に教えてもいいよな?
俺とマリーとの思い出。
俺の大切な大切な思い出。
マリーンと話す以外では初めてのことだ。
「……それで、俺は世界を救うことにしたってわけさ」
話し終えると、いつの間にか俺の話を聞いていた、ノボーとシーが泣いていた(シーは涙こそは出してはいなかったが)。
シーお前いったいどんなAIなんだ! と突っ込みたくなる。よくその口で『私は感情が理解できません』なんて言えるものだ。
ノボーが絡んでくる。
「ヤマバ! ヤマバ! 僕にできることないのか?」
「いや、時空短縮法を発見してくれただけで十分なんだけど……」
次にシーが絡んでくる。
「ヤマバ、私にできることはありませんか?」
「もう、お前らいい加減にしろ!」
酔っぱらいの相手は疲れる。
アンジョーが俺の方を向いて言った。
「じゃあさ、私と一緒に装置作って、ノボーとシーと、ついでに世界を救おうか?」
「も、もちろん!」俺がそう言うと、アンジョーは「約束ね!」とタンポポの花みたいに、にっこりと笑った。
『約束ね』そのマリーの口癖……その話、俺まだお前らにはしてないぞ……。
「ねえどうしたの、ボケっとして」
アンジョーが金色のキラキラした瞳で俺を覗き込んだ。
マリー、マリー。
マリー聞こえているかい。
頭のいい人が、いよいよ『発見』をして、そして俺がその『装置』を作るんだ。
君とよく似た女の子と一緒に!
約束だ、マリー。俺は世界を救うよ!
6章 終
#23 👇
6月14日17:00投稿
【語句解説】
(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)
【1章まとめ読み記事】
【4つのマガジン】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?