見出し画像

【#22】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#22

視点:ヤマバ・ムラ  31歳
『3223年 地球にて回想』

 そして3223年4月10日。『時空短縮法』発見パーティー。
 祝賀会が政府主催で行われたけど、あまりにもつまらなかったから、俺たちがマイクパフォーマンスで盛り上げて、その後には「僕たち研究があるので……」って勝手に帰ったよな。それなのに来場者は道を開けて拍手で送ってくれて。あれは嬉しかった。
 その足で、マスターの店に行って、マスターのおごりでガンガン高いワインを開けて、大いに盛り上がって……その時の話もしようか。

 アンジョーが未成年で飲めないからか、最初は機嫌悪かったんだけど、シーが甘いものあげたので、ニコニコしていた。アンジョーは怒っている時の方が多かったから、その姿を見て俺も嬉しくなって、ノボーに飲ませまくったな。
 きっとアンジョーはノボーの祝賀会が嬉しかったんだと思う。
 アンジョーは、ノボーのことをいつも意識しているようだった。でも俺にはそれでよかった。アンジョーが嬉しいなら、それだけでよかった。
 相変わらず、シーはワインで酔っていた。AIは基本的に飲食しないんだが、驚く事にシーは何故かワインだけは飲めて、しかも酔いもシミュレートされていた。
 シーの開発者はたぶん頭のおかしいワインマニアだ。まあ、天才と言うものはそんなものかもしれない。でもいいなぁと思った。同じ技術が分かれば、マリーンとも飲んでみたかった。

 かたや、ノボーは泥酔に近かった。
「時間が変わることが時空短縮法のきもなのです!」
「装置の技術はシンプルです」
「宇宙空間であれば、距離と時間を関係なく飛べます。ただし、先に探査機を飛ばしたデブリ(宇宙ゴミ)の調査が必要です。大気圏を出て着陸する能力さえあれば、どんな星でも行けます!」
 ノボーの話しぶりは、まるで壊れた音声再現機だった。

 シーの酔いも酷い。
「私は使徒の秘密を言いたい! でもロックが解除できない!」

 なんじゃそりゃ。
 2人が壊れているので、俺はアンジョーのところに行った。

「よお、楽しんでいるか」と聞くと、「ねえ、2人ともちゃんと帰れるの?」とアンジョーは返事をした。

 「俺とマリーンで送っていくよ」

 その後たわいもない笑い話をした後に、アンジョーは「あ! ねえ、ところで、マリーって誰?」と言った。
 突然すぎるアンジョーの言葉に俺は酔いが覚めた。

「気づいてないの? たまにあんた私のこと、そう呼ぶのよ。特に酔っているとき」

「……そうか、全然気が付かなかったな」

「せっかくだから教えてよ?」

 そうだよな、別に教えてもいいよな?
 俺とマリーとの思い出。
 俺の大切な大切な思い出。
 マリーンと話す以外では初めてのことだ。


「……それで、俺は世界を救うことにしたってわけさ」
 話し終えると、いつの間にか俺の話を聞いていた、ノボーとシーが泣いていた(シーは涙こそは出してはいなかったが)。
 シーお前いったいどんなAIなんだ! と突っ込みたくなる。よくその口で『私は感情が理解できません』なんて言えるものだ。

 ノボーが絡んでくる。
「ヤマバ! ヤマバ! 僕にできることないのか?」

「いや、時空短縮法を発見してくれただけで十分なんだけど……」

次にシーが絡んでくる。
「ヤマバ、私にできることはありませんか?」

「もう、お前らいい加減にしろ!」
 酔っぱらいの相手は疲れる。

 アンジョーが俺の方を向いて言った。
「じゃあさ、私と一緒に装置作って、ノボーとシーと、ついでに世界を救おうか?」

「も、もちろん!」俺がそう言うと、アンジョーは「約束ね!」とタンポポの花みたいに、にっこりと笑った。

『約束ね』そのマリーの口癖……その話、俺まだお前らにはしてないぞ……。

「ねえどうしたの、ボケっとして」
 アンジョーが金色のキラキラした瞳で俺を覗き込んだ。

 マリー、マリー。
 マリー聞こえているかい。
 頭のいい人が、いよいよ『発見』をして、そして俺がその『装置』を作るんだ。
 君とよく似た女の子と一緒に!
 約束だ、マリー。俺は世界を救うよ!


6章 終


#23 👇

6月14日17:00投稿

βチルドレン主席終了。世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員
βチルドレンで、ヤマバと共に過ごす。6歳で永眠。
ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者
【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI
私邸育ちの謎多き14歳の少女
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係

【語句解説】

(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)


【1章まとめ読み記事】


【4つのマガジン】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?