【#23】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】
【本編連載】#23
【7章 お昼寝の時間】
SIDE(視点):コシーロ・ガート
西暦3227年 8月 地球
3220年の入所式の日。いつの間にか、その日から7年の月日がたっていた。
その7年の間に、惑星移民のための研究は大躍進した。
ノボー君により時空短縮法は発見され、シー君、ヤマバ君、アンジョー君を合わせた4人の手で、その装置の完成までたどり着くことができた。
我が研究室に集った彼らは、世界中の天才たちを置き去りにして、あっという間に人類を救おうとしていた。
私は目の前で何が起きているか、理解が追い付かなかった。それでも、自分らしく辛抱強くじっくり踏み固め、彼らの歩幅に合わせた。
彼らの発想はシンプルで柔らかく自由だった。ノボー君の作り上げた理論を理解するには、これまでの科学の歴史を一度全て置いてこなければならなかった。だからこそ、私たちには見つけるどころか、想像することもできなかった。
コロンブスの卵。
若さとは、まぶしいものだ。
彼らは今日も一緒に『泳ぎ』ながら、装置の調整を進めている。政府により機密が義務付けられた『時空短縮法』。実質の運用も、彼らの手で行うこととなっていた。
彼らがS・W・I・Mをしている姿を見ていると、まるでお昼寝をしている子供たちに見える。なんて無防備なんだろう。
さて、私たち大人には、私たちなりの役割がある。『君たちを守る』それがいま私のすべき使命だ。
そう。世界は今、これまでで最も危険な状態にあるといっても過言ではなかった。まるで呪いともいえるものが世界を覆いつくそうとしていた。
西暦3227年8月某日。私は政府からの呼び出しを受け、政府専用自動運転装置に乗っていた。
どこに連れていかれるかは伝えられていなかった。普段の呼び出しでは官邸に行く。きっと何かややこしいことが起こるのであろうと、私は神経を張り巡らせていた。
外の景色が見えないまま2時間ほど移動しただろうか。やっとのことで自動運転は止まり、私を閉じ込めていたその重厚な扉が開いた。
そこは国定の自然エリアに見えた。国定のエリアは普段は人が立ち入ることのできない場所だ。目の前には奇妙な建物が、異様な存在感を示しそこに立っていた。素材も形も我々の使う建物と同じようなのだが、何かが根本的に違うのだ。
私は建物に入るのを躊躇(ちゅうちょ)したが、同乗した(政府の人間だろう)男に促され、1人建物に入ることとなった。
建物に入ると、案内AIが1体いるだけで、人は1人もいないようだった。内部も壁の材質も特に代わり映えはないが、人の気配が全くしない。
その異様な空間に、気味の悪さを覚えた。
厳重なセキュリティとステルス技術で、世界から隠された状態になっている。と、私は推測した。
『これは大物が出てくるぞ』
建物内での案内は、縦・横に何度も方向を変えたが、地下の方へと向かっているようだった。目的地を特定されないためなのだろう。
10分近く移動した後。いくつもの扉が並んだ長い廊下に出た。その扉の中の1つを選ぶような形でAIは止まり、故障したかのように奇妙な動きをした。扉を開けるための何らかの手続きなのかもしれない。
「お中におはいりください」と言ってAIはどこかに行ってしまった。
オナカにおはいりください、か。嫌な言い方をする。
外から眺めても、部屋の中は薄暗く、中の様子はわからなかった。
警戒しながら中に入ると、奥のほうに人影があった。目が慣れ、その姿がしだいに見えてくる。
私より一回りほど年上だろうか。白髪に髭を生やした、四角い顔。背は低そうだががっちりした体。ネオジャパンの政府関係者だと思われる、ローブのような服装。重厚なオーラを発する知的な容貌がそこにあった。
「近くまで、どうぞ」
地から沸きあがるような低い声が聞こえた。
ここまで来たら、警戒のしようもない。私は男に近づいた。
部屋の中央付近まで進んで、私は立ち止まる。男は椅子に腰かけていた。男との距離は5メートルほど。そこまで来て私は気が付いた。彼の後頭部に太いチューブが刺さり、それが床につながっていた。
それはこれまで見たこともない、異様な光景だった。彼は本当に人間なのだろうか?
「どうぞそこにおかけください」
男が指をさした方向には、柔軟タイプのシートがあった。何も言葉が出ず、言われるがままにそこに座った。
「どうも緊張しておられるようですな。コシーロ教授」
「あ、いや……」
かすれ出た声は、自分の声じゃないようだった。喉に乾いた痛みを感じた。
私としたことが……。
私は63年の生涯を通じて経験してきたことに、強い自信を持っていた。世界の要人にもたくさん会った。様々な大ステージで講演もした。政府や研究者の面倒な人間関係や、言い難い修羅場もくぐってきた。そんな私が男を目の前にして、これまで経験したことがない強い緊張感を覚えていた。
「少し、安心してもらいましょう」
男がそう言うと、私の右斜め前の空間に、シートに腰かけた白髪の男性が現れた。
「モーリ首相!」
同時回線ホログラムだ、つまりオンタイムのオンラインヴィジョンである。
「コシーロ君、久しぶりだ」
「お久しぶりです、首相」
「今日は突然済まない。実は君にお願いがあるんだ。政府として、いや統一政府として」
「統一政府?」
「まもなく発足する。周りを見てごらん」
「な!?」
そこには各国の首脳が同時回線ホログラムで浮かび上がった。つまり、世界中のトップが、今このために時間を割いて集まっているということだ。
「首相、どういうことなんでしょうか!?」
チューブのつながった男が口をひらいた。
「コシーロ教授。まぁ、慌てないで聞いてくれ。じっくりと時間はとってある。詳しいことは俺から話そう。皆さんありがとう。一旦席をお外し願おう」
ホログラムは消え、再び薄暗い部屋に私たちは2人きりになった。
#24 👇
6月15日17:00投稿
【登場人物】
【相関図】
【地球-エリンセ 年表】
【語句解説】
(小説を読む中で必要な部分は、本文に記載してあります)
『地球』
Dr.タカバタケの世界は、2024年現在の私たちの時代の延長線上にある。
ヒトの身体的な進化などはなく、現在と同じ生体。一部障害を持った人が、その機能を補うために身体の機械化をおこなっているが、全世界の共通認識とまた世界条約として人体の機械化はタブー・禁止されている。クローン・人体錬成なども同様に、大きなタブーであり重い罪とされている。
変わったところがあるとしたら、平均身長が5~10センチほど小さくなった程度。
『惑星エリンセ (Elimssehs)』
3229年に全ての人類が、惑星移民をした移民先。
この星の1日は48時間。サイズは地球の2.5倍。
恒星は1つ、衛星は4つ。
奇跡的に星の質量や惑星・衛星の影響等で重力はほぼ地球と同等になっていた。
環境は地球に酷似。ただ、地軸にほぼズレがないので四季はなく、エリアによって生態系が分布している。
気候は(エリアによるが)住居するには穏やかこの上なく、そのうえで知的生物は存在していない。
新星1年は西暦3229年と3230年を指す。公転が2倍なので、地球の2年分。
最大の衛星:青月(あおつき)-ブルースターと恒星:望日(ぼうび)-ホープスターが24時間で入れ替わる(日照時間は12時間)。
青月は大変明るいので、人は24時間の生活サイクルを崩すことなくおくることができる。
青月の日を『青日(せいじつ)』、望日の日を『白日(はくじつ)』と呼ぶ。
『時空短縮法』
ノボー・タカバタケが発見したワープ理論
『時空短縮装置』
惑星間移動を可能にした装置
『ネオジャパン』
2024年現在の日本とほぼ同じ領土である。国境間にパスポートが不要になったので、様々な国の人が行き来している。首都はTOKYO
『チップ(脳内チップ)』
全人類に義務づけられた、脳内に入れる機械部品。記憶の拡張や、翻訳など様々な機能がある。また、国家管理のための個人情報が収めれれている。
『クロックカレンダー』
脳内に入れられたチップにより、日にち・時間が把握できる。また、アラーム機能など様々な機能がついている。国家観を超える連絡の時に、時差の把握にも便利。
『太陽膨張』
かつて、2000年代には、太陽膨張による地球上の生物の滅亡は5億年以上先だと予想されていた、しかし3000年に入る頃には、太陽は狂ったように膨張をはじめ、3300年には人類が生存していくのが難しいと予想されている。
『AC.(アカデミア)』
各所にある研究機関。現在の大学の延長線上だが、教育よりも研究を中心に置かなっている。学位研究員としての期間は10年以内だが、状況によって延長が可能。
『人類忠心』
男女の恋愛が希薄になり、出生率が下がる2200年の少し前ごろから、人類は戦争・テロを行わなくなった(最後のテロは2189年と記録されている)。また、凶悪犯罪が急速に減少していった。同時に法整備、移動技術の進歩により、交通・移動事故による死者はほとんどいなくなった。また、医療体制も行き届き。人の死因は老衰と自己終了(尊厳死)の2つが中心となっていた。
つまり、寿命まで人は死ななくなっていた(3200年で平均寿命は160歳 ※自己終了含む)。
その一方で体力の少ない幼少期の死亡率が一定数ある事は、この時代においても無くなることのない悲劇の1つであった。
簡単に生まれなくなり簡単に死ななくなると、その1つ1つの命の価値が上がる。人が人として生き、人として死ぬ。そのことに、全人類が共通して敬意を払う。そういうことが社会通念上、当たり前の認識になっていた。
『人と自然』
人は、居住区と工場区(農業・酪農含・漁業含む)、自然区(開放区と非解放区=国定区)を分け、人の手の届く範囲とそうでないエリアを分けて生きていた。
『チルドレン(共通育成教育施設)』
出生~20歳までは一貫して、各国が管理し育成・教育をする。
施設で集団生活が原則となり親との面会は可能であったが、一緒に住むことは禁止された。
世界の合計特殊出生率(以後、出生率)は2未満であり、子は宝。相互監視と国の指導を導入し、ネグレクトや犯罪などから子供を守るよう、徹底的な管理体制が敷かれた。
『ウインドスクリーン』
モニターであり、光や熱の遮断できる窓。
透過したり、空気を通したりすることも可能。
『テキスト技術』
脳に入れられたチップを通じて情報を交換する方法。
視覚的には空中に情報が浮いているように、感覚的には脳裏に直接流れ込んでくるように感じる。
眼鏡型の外部機器で補いことも可能。
脳内チップにはキーロック機能があり、解除区画の情報のやり取りしかできないように、法令上もシステム上もしっかりとしたセキュリティの中で作動している。
『S・W・I・M (Shallow Well Interchange Meeting:表意交換会議)』
テキスト同様、脳内チップを用いて人員間でネットワークをつなぐ方法だが、テキストに比べると、より深い意識の階層に入るため、リスク分配のためオフラインでの使用は禁じられている。(S・W・I・Mにおける、オフラインの禁止)
一対一の議論に用いられることが多い。複数名での使用も可能であるが、発信者が特定しにくくなる、外部に対する意識が切り離されるので、安全な環境で行うことが義務付けられている。(S・W・I・Mにおける、外的安全の確保)
また、没頭しすぎて飲食の時間を忘れるので、一定時間がたつとオンラインアラームが鳴り、さらに過ぎると、オンラインポリスより警告が来る。(S・W・I・Mにおける、使用時間の順守)
『シップ』
地上、水上、空中を移動できる船。
自動運転のように決められた領域内を移動するだけではなく、様々なところに移動が可能。
ただし、政府の免除を必要とし、公安による管理下に置かれての航行となる。
自動運転以外にも、AI補助付きの半手動による運航も可能。
国境を超える場合は、各管轄国の承認が必要。
大気圏内用と宇宙用があり、宇宙用は主要6国の承認が必要。
【1章まとめ読み記事】
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