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【#18】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#18

第1部 エピローグ ➡ 第2部 序章


西暦3229年8月2日 移民最後の地球出発の日

「ねえ、ノボー。黒色だった空がきれいな紺色に変わっていくわ」

「うん、そろそろ地球を離れる時が近づいているんだ」

「……つまり、私が止まるときが近づいているのね」

「……ねぇS・H・E」

「なに?」

「僕から、お願いがあるんだ」

「奇遇ね、私もよ」

「あのワルツを一緒に踊って欲しいんだ」

「もちろん」


《2つの足音が「コツコツコツ」と甲板に響いた。
誰もいない自然エリアに停泊してある大気圏内用『シップ(※)』
世界には、その足音しか存在しないかのように静かだった。
蒼い空は少しずつ白んでいった。
夜明けはそこまで来ていた。
その静謐の中、2人は音楽が無いままに踊る。
2人の頭の中にはあのメロディが流れているのだろう》

※『シップ』
地上、水上、空中を移動できる船。
自動運転のように決められた領域内を移動するだけではなく、様々なところに移動が可能。
ただし、政府の免除を必要とし、公安による管理下に置かれての航行となる。
自動運転以外にも、AI補助付きの半手動による運航も可能。
国境を超える場合は、各管轄国の承認が必要。
大気圏内用と宇宙用があり、宇宙用は主要6国の承認が必要。


「ありがとうS・H・E」

「こちらこそ。
ねぇ、私からもお願いがあるの」

「うん」

「私の停止破棄は所有者であるあなたが行うべきだわ。時間を考えれば、今実行すべきよ」

「そのことなんだけど、考えがあるんだ」

「……なに?」

「僕は僕なりに、いろいろ調べながら考えていたんだ。コシーロ教授を通じて政府とも話し合った。
どうも、政府は移動後には地球との交信をシャットアウトしたいようで、新しい星にたどり着いてしまえば、地球は完全に切り離された状態になるみたいなんだ。つまり、移民が完了すれば地球で何が起こっているか誰にもわからなくなる。
そこには重大な何かがあると思うんだ。
ねえ、シー。それについて、君は何か知らないかな?
その理由が君にあるような気もするんだ?」

「私はそれを知っている。でもそれは、今は言うべきことではないことよ。いつかわかるかもしれないし、永遠に蓋がされるかもしれない。
それでもそれは、今、私の口から話すべきことではないの」

「うん、分かった。君がそう言うのなら。それは、いつか時がくればわかることなんだね」

「ええ、いつかあなたが受け止めるべきことよ」

「ちゃんと。頭に入れておくよ」


「ねえ、シー……僕たち2人だけで生きていかないか?」

「え?」

「前に、僕に美しいものを見て衝撃を覚えたことがないかって聞いた事を覚えている?」

「知ってのとおり、私は喋ったことも見たことも聞いたことも全て記録し、そのまま保存するの。
あの時の部屋の様子、温度、あなたの優しい微笑み、全て覚えているわ」

「僕が見つけた完璧な美、それは君なんだ。
君の純粋な思考は美しい。君が自分を探し続けるその姿を、僕は何よりも美しいと思っている。
君は僕にとっての美であり、知であり、喜びの全てなんだ。だから最後の時まで共にあって欲しいんだ」

「嬉しいわ、私には感情はわからないけれどもこれが喜びと言うことをよく理解している。
でも、ダメよ。あなたは移民をしないと」

「移民はするよ。ちゃんと。そうじゃないと、この作戦は成功しない。大丈夫、何とかして戻るよ、それはこれから考える。
でも1年半、3230年内に絶対に戻ってくる。だから君には準備を進めて欲しいんだ」

「準備?」

「完全停止のスタートさえ押してしまえば、政府の目を欺くことができる。そして完全停止プログラムが完了する前に、自らを3230年1月に再作動するように設定してほしい。
その時、全ての記憶をもったまま君は目を覚ます。目を覚ましたら僕がリストアップしておいたものの管理をしてほしいんだ。
それは戻ってきてから2人が生きていく上で必要となるものだ。
僕が戻ってきたらそれらをすべて起動させるから、それまで待っててほしいんだ」

「あなたがみんなを起こすのね。なんだか朝日みたいだわ。私は夜明けに目覚めて、あなたを待つのね」

「何よりも美しいフィナーレだと思うよ」

「……うん、嬉しい。でも駄目」

「シー?」

「駄目よ、ノボー。私たちのフィナーレは太陽に焼き尽くされる時になるわ」

「そのことなんだけど。なんだかわからないけど、新しいアイデアが浮かぶ気がしてきているんだ。
大丈夫、地球滅亡のこともなんとかするよ」

「……なんとかする?」

「うん、僕は。約束できるんだ」

「どうやって?」

「うん、それはまだわからない。
でも大丈夫だよ。僕はちゃんとシーの言いう通り『時空短縮法』を発見した。
ほら、前に言ったじゃないか。僕の『ひらめき』はシーを凌駕するって。
だから大丈夫、信じて」

「あなたの中には無限の可能性があったわ。
……そうね、あなたがそう思うのなら、きっとなんとかなるのね。
わかった。あなたのことは全て信じるわ」

「ありがとう、シー。戻ってきたら、また一緒にワルツを踊ろう」

「ええ、もちろんよ。あなたを待ちながら、私も何度も踊るわ。夜明けから朝まで、何度も何度でも」

《風は優しく2人をなで
やがて空には光が溢れだした
太陽が力強く、太古の昔から何も変わらないように
今日も、ゆっくりと大地を照らしていった》

[1部 終]

小説内曲『Dance from daybreak to morning』
作詞・作曲:PJ

Dance  始まり求める、君たちには
Dance  終わりを求める、僕たちにも
Dance  とても美しい物語さ
Dance  ずっと前から決まってたこと

今日を超え 明日を超え
星を超え 時を超え
僕たちがたどり着いたのは、どこ?

過去を捨て 昨日捨て
星を捨て 時を超え
君たちが見つけ出したのは、なに?         

距離を超え 時間を変えて

Dance  始まり求める、君たちには
Dance  終わりを求める、僕たちにも
Dance  とても美しいフィナーレなのさ
Dance  ずっと前から決まってたこと

誰もいない地球ほしに1人
君の帰り待つ
鋼の身体に 優しさを教えてくれた
今日もまぶしいね 朝だね

 

[第2部]

【序文】

《始まりの鐘を聴き、紡ぎ上げられた、Ⅾr.タカバタケと『彼女』の惑星移民」
それは美しいフィナーレを迎えた。
……果たしてそうだろうか?
彼らの物語はここで終わってしまったのか?
否。
物語はまだ、その本当の姿を見せてはいない。
そこに隠された黒い闇は、まだその姿をさらしてはいない。
人々の物語は、歴史の上に積み上げられている。

運命の子供たちよ。
時を前に動かせ。
それこそが我々の使命だ。
進化すること。
それが、生きとし生けるものすべてに与えられた、宇宙からの祈りだ。
地球の子らよ。
1000年間止まった時間を今こそ前に動かすのだ。

物語は、まだ始まったばかりだ。
新しい未来を作れ。
星の声を聞け。
我々はまだ、終わりの鐘を聴いていないのだから……》

#19 👇

6月10日17:00投稿

ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者
使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI
私邸育ちの謎多き14歳の少女
世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係

【語句解説】

(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)


【1章まとめ読み記事】


【4つのマガジン】


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