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【#3】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】
【本編連載】#3
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『西暦3230年(新星1年) 惑星「エリンセ」』にて
脳内時計が11:00のシグナルを発した。休憩の合図だった。
本来なら働いている時間だが、今日は休みだ。
「残り55日……」1人そう呟きながら、自室で地球文化遺跡についての調べものをしていると、扉がベルもなしに突然開き、かつての研究室仲間のアンジョーが入ってきた。
「Dr.タカバタケ!」
その耳に刺さるような高い声には、不穏な響きがあった。
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「アンジョー、外部回線は切れているし、公の場でもない。いつも通りノボーでいいよ」
アンジョーは頭を振りながら、ため息をついた。
走ってきたのか息が荒い。
アンジョーは大きく息を吸ったあと、早口で話し出した……彼女が早口になるのは良くない兆候だ。
「ねえ、ノボー。あなた何を考えているの?」
その声は同情と怒りの、両方の色を持っていた。どちらの感情を選べばよいか彼女自体が迷っているように聞こえた。
「えーと、アンジョー、どうしたんだ?」
間違えないように言葉を選んだつもりだったが、その言葉はアンジョーの怒りの色を濃くしてしまったようだ。
きっと、僕はまた言葉を間違えてしまったんだろう。
「どうしたもこうしたも、地球に戻るってどういうこと? しかもすでに“従順の証”もあるってどういうことよ!」
アンジョーには、そのことは秘密にしていたんだが、いったい誰から聞いたんだろうか?
「アンジョー落ち着いて、誰に聞いたんだ?」
間髪入れずに帰ってきた言葉は完全に怒りの色に変わっていた。
「落ち着いているわよ! それに、私が聞いているの!」
困ったことだが、こうなったアンジョーには、もう手が付けられない。
アンジョー・スナーは、AC.TOKYO時代、同じ研究室での仲間だった。
惑星移民宇宙船のプログラミングを担当し、地球を救った英雄の1人だ。アンジョーは小さいころからその才能を発揮し、飛び級の飛び級、本来20歳で入る世界最高峰と言われる『AC.TOKYO』に14歳で入所した。
これは前代未聞だった。このことは当時学者界隈で結構な話題となった。
彼女は他の人たちとは、育った環境が全く異なっていた。
本来、世界中の子供たちは、生まれたころから『チルドレン(※)』という施設で集団生活になる。だが、アンジョーは私邸でAIだけで育てられていた。
これは他に例を聞いたこともないくらい珍しいことだった。
そのせいなのか、アンジョーの性格は、非常に不安定なものだった。人見知りなのかと思ったら突然攻撃的になったり、気が付いた時には静かに泣いていたりと、僕たちには予想ができないことが多かった。
アンジョーは僕にはいつも、食って掛かるような言い方をした。
ある日その理由を聞いてみると、僕のぼんやりとして、人の話をちゃんと聞いていないところが気に障ると言った。
僕は考え事をしているときは、人の話が耳に入ってこない。確かに一理あると思う。
それでもAC.TOKYOの同期同門であり、もう10年も一緒にチームを組んでいたので、僕はアンジョーの起伏の激しさには、ある程度慣れていた。
アンジョーのもう1つの特徴といえばブロンドの髪と金色の瞳だ。
それはとても珍しく、人の目を引く。そしてその容姿は極めて美しいと言える。
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優秀、聡明、麗美。恋愛というものがある時代であれば、人気があったのかもしれない。
アンジョーは深呼吸をしてから、もう一度僕に向かって言葉を発した。
先ほどよりは少し落ち着いたように見えた。
「で? どうして?」
「どうしてって言われても、たいした理由なんてないよ。新しい星の環境に慣れなかった。そしてあの星は美しかった。それで十分だと思うけど、ダメかな?」
「あなたにとって、私たちのことはどうでもいいの? この星は? 仲間は?」
今度は、急に声が大きくなった。アンジョーの感情のスイッチの音が聞こえる気がした。
「アンジョー、落ち着いて。僕にとってもそこはつらいところだよ。でも、もう十分に役割は果たしたと思っている。それに僕は政府を許していないからね」
僕はできるだけゆっくり、穏やかな声でアンジョーに声をかけた。
よく見ると、アンジョーのその目からは、今にも涙がこぼれおちそうになっていた。
「やっぱりそうなのね? 『彼女』のこと……今でも政府のことを怒っているのね。でも私たちは? 仲間は別にどうでもいいの?」
急に弱々しくなった言葉に困った僕は、ボローとジョフクに助けを求めた。
「アンジョーはん、この人の『人でなし』は今に始まったことじゃないでしょう?」と、ボロー。
きつい言い方と『カンサイベン』をインストールされているこいつは、オンラインタイプの携帯型のAI。
即座に真面目なジョフクがフォローを入れる。
「ボローさん、そんな言い方ありません。博士には博士の考えがあってのことです」
こっちはスタンドアローンタイプの携帯型AIだ。
2機ともこちらに来る宇宙船のクルーであり、その時からの付き合いだ。気に入ったので政府から譲ってもらい、その後も一緒に行動している。
「ほぉ、じゃあどんな考えなんや?」
「それはわかりませんけど……」
「オタクはいつもそうやって偉そうに言うけど、何にも知らんしなあ」
「ボローさん、そんな言い方ひどいです」
「ちょ、ちょっとふたりともケンカしないで」
アンジョーが止めに入った。AIの喧嘩なんかほっとけばいいのに、こういうところがアンジョーの優しいところだ。
「アンジョーはん、こんな人でなしとはホンマに、縁を切ったほうがええですわ」
「縁を切るも何も、もう関係ありませんから!」
アンジョーはそう言い残し、走って出て行ってしまった。
「ボロー、ジョフク。助かったよ」
「お安い御用ですわ」
「ボローさん、それでもあの言い方はないですよ」
「まあまあ、落ち着いて。とりあえず、今日は休みだし、食材の買い出しがてらドライブにでも行こうよ」
#4 👇
5月26日17:00投稿
【登場人物】
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【語句解説】
(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)
【4つのマガジン】
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