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夏の夜

今から、35年前の 夏の夜
今ほど、連日35度をこえ、夜も昼間の熱風が残るような感じではなかったあの頃。
「冷房(クーラー)をつけっぱなしで寝ると体に悪いから。」という理由で、うちは、夜はクーラーは消して寝ていた。

それでも、寝苦しい中と思う時があり、隣で寝ている祖母に「おばあちゃん、暑いよ。」と訴えると、寝床のすぐ近くにある団扇を持って、「これで、涼しくなるよ。」と、パタパタとあおいでくれた。
団扇から、僕の頬に届く風は冷たく、とても気持ちよかった記憶がある。祖母が一生懸命に仰いでくれたその姿が、今でも忘れられない。

廊下の窓を開け、網戸にしてくれていた。当時、夏の夜風は冷たく、心地よい風が、優しく部屋を吹き抜けていった。
今の人工的なエアコンの冷たい風とは違い、長くあたっていても、冷たすぎず心地よかったものだ。

35年たった今、当時、祖母と寝ていた和室は、そのまま実家に残っている。その和室には、元気だった頃の祖母の写真が飾ってある。祖母のキラキラした笑顔の写真を見ると、祖母がまだ生きているような気がする。
祖母が使っていたタンスも、三面鏡も、そのまま残っている。
僕は、15年前に実家を出て、年に数回、実家のあの和室へ戻る。

あの和室は、僕の原風景そのものだ。ここから、僕の人生が始まったと言っても、過言ではない。

あれから、35年あまりたった。
日本は年々暑くなり、エアコンを一日中つけっぱなしにしなければならなくなったし、暑い日の昼間は、外に出られないほどになってしまった。

夜も熱い風が残り、息苦しく、昔の夏の夜のように、爽やかで心地よい夜では、なくなってしまった。

人間が人間らしく生きるためには、自然と共存していかなくてはならないと、最近、特に強く感じる。

エアコンの機械的な冷たい風より、自然の冷たい風の方が数段気持ちがよい。

人間のエゴで、自然や周囲の生き物たちの存在を軽視し、技術革新ばかり進めた結果、便利になった一面、失われてしまったものも、たくさんあったのではないか。

もう一度、あの原風景に立ち返り、あの頃の記憶を辿りながら、よく考えなくてはならない。

今年も、お盆がやってくる。祖母の仏壇の前で、そっと手を合わせたい。連日、猛暑が続く今の世を見て、祖母はなんて思うだろうか。

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