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「特別支援」という言葉は差別にあたる?:言葉の使用に関する世界のガイドラインから

みなさん、こんにちは。
公認心理師・臨床心理士の香川です。

私は、オーストラリアで開発された前向き子育てプログラムTriple Pのトレーナーとして、月に1回、トレーナーミーティングに参加しています。

ミーティングでは、主にオーストラリアやニュージーランドで活動しているトレーナー10名弱とZoomでつながり、各々のトレーニングの実施報告やTriple Pの研究や開発に関する新しい情報の共有、そのほか専門的知識やスキルの向上につながると考えられる話題のシェアやそれに関するディスカッションを行っています。

今回の記事では、そのときにでたトピックで、ぜひみなさんに紹介したいと思うものがあったので、紹介させていただきます!

数か月前のミーティングで、ニュージーランドやオーストラリアで活躍しているトレーナーが、"they"は複数形として私たち日本人は捉えていますが、英語を第一言語として使う人たちは、"they"を単数形としても使うそうです。ミーティングに参加していたトレーナーたちは、個人を指し示すときに、"they"を主に使っているとのことでした。これは、"he"もしくは"she"だと相手の性別を一方的に断定するような表現になってしまうためで、本人がどのように自認しているかを尊重するために"they"と呼ぶことが多くなってきているそうです。

そして、日本語で「特別なニーズ」「特別支援」を意味する ”special needs” という言葉は、差別的な意味合いが含まれるので、避けることになっていることもシェアしてくれました。

日本でも、昔から言葉や表記の仕方に関する議論はありますよね。
例えば、「障害」を「障がい」や「障碍」と表記したり、「(診断名)の人」から「(診断名)のある人」と表現されるように変化してきました。
ただ、”special needs" という言葉に相当する、「特別支援」「特別なニーズをもつ…」「特別な支援を必要とする…」という言葉や言い回しは、日本でまだまだ使われています。

今日は、2つのガイドラインを紹介しながら、このトピックについて深めていきたいと思います。

アメリカ心理学会による"Inclusive Language Guidelines"は必見です

このガイドラインでは、問題のある用語やフレーズについて、なぜそれが問題があると考えられているのかという理由に加えて、適切な代替案やより現代的な置き換え方が表で示されています。

英語のページではあるのですが、ぜひ一度翻訳機能を使いながらご覧ください。

 ガイドラインでは、見下すような言葉ではなく、個人を第一に(Parson-first)、アイデンティティを第一に(identity-first)言い表している言葉を使用するように記されています。

たとえば、"special needs"という言葉は、見下しているような印象を与えたり、るので避けるべきですが、その代わりに"person with a disability"(障がいのある人)という言葉を使うように推奨されています。 

(英語だと、最初にpersonがくるので、人が第一だというニュアンスがより伝わりやすいですね。日本語の場合は、どうしても人の前に修飾語がついてしまうので、そこがもどかしいところです…)

ただし、一方的にこのスタイルで呼ばなけらばならないということではなく、呼ばれる側の人がどのように呼ばれたいのか、どの表現を好んでいるのかということが優先されなければならないことも付記されています。
本人が望んでいないのに、「その人のためを思って」することは、その人の自由を侵しているのだということは、忘れないようにしたいです。

ほかの避けるべき言葉についても詳細に記載されているため、ぜひみなさんもご覧ください。

国連のガイドラインでは

このテーマに関して、ほかのガイドラインはどうなっているのだろうと思い、探してみました。国際連合ジュネーヴ事務局が発行している"DISABILITY-INCLUSIVE LANGUAGE GUIDELINES”を紹介します。

この中には、「ニーズ(needs)」という言葉と「要件(requirements)」という言葉について論じられている箇所があります。

このガイドラインによると、以下のように記されていました。
感銘を受けたので、引用いたします。

国連機関や専門家の中には、「ニーズ」よりも「要件」という言葉を好む者もいる。これは、障害者が権利保持者であることを認めるという、障害に対する人権的アプローチに沿ったものである。「ニーズ」という用語は、特に「ケアの必要性」に言及する場合、障害者が困窮している、あるいは重荷であるという固定観念を永続させるものとして認識されている。このアプローチを示す例として、学校が視覚障害のある生徒に点字教材を提供しなければならないのは、彼らが点字教材を必要としているからではなく、彼らが他の生徒と平等に質の高い教育を受ける権利を持っているからである。

DISABILITY-INCLUSIVE LANGUAGE GUIDELINES

「支援を必要としている存在だから」ではなく、「ほかの生徒と平等に質の高い教育を受ける権利を持っているから」調整や変更を行うのだという観点は、とても重要だと感じました。

おわりに


ガイドラインを読んでいくと、日本で私たちが普段よく目にする言葉が「避けるべき用語」とされていることに気が付き、驚きの連続でした。
一貫して、「個人が平等に権利をもっていること」「その人が自分をどう認識しているか、何を好きだと感じているのかはその人の自由であること」が根底にあると思います。
これからも、このようなトピックをちょっとずつ発信していければと思います。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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