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【心霊体験】土手を走るアレ

中学生時代に住んでいた町は、駅も無い小さな田舎町。
一級河川の堤防に沿って形成された町は、町の大通りを走っていると、堤防を常に視認しながら走ることになる。

そんな町に一つの噂があった。
夜、月明かりに照らされて、人間の下半身が走っている。
普段霊を見慣れてきていた私にも、そんな妖怪の類のような話は俄には信じる事が出来なかった。
鼻で笑い、見れるものなら見てみたいとさえ思っていた。

中学生時代の私は田舎すぎて何も無い町を夜遅くまで外をほっつき歩き、よく真っ暗な町を自転車で走っていた。
その為か、様々な怪異にも遭遇する機会が多かった。
そんな怪異の一つだ。

とある見通しの悪い交差点。
信号はあるのだが、黄色は進め、赤になったばかりは注意して進めの風習がある田舎町。
その交差点では、よく事故が起きていた。
死亡事故も多数あったのだが、住民のモラルが低い為なのか、事故は一向に減る事は無かった。

いつものように友人宅で遅くまでダラダラとした時間を過ごし、自転車で交差点を通り過ぎようとしていた。
街灯に照らされ、何か黒い塊が動いている。
少しずつそちらに近付く。
黒い塊の横を通り過ぎる・・・瞬間、その黒い塊の正体が見えた。

人の上半身だ。
苦しそうに悶え、既に無い下半身を手で探す素振り。
顔は苦痛に歪んでいる。
私は目を離す事が出来なかった。

(これは人ではない・・・)

わかってはいたのだが、私はそのモノの動向から目を離せずにいた。
その時、一瞬の間と共に顔が一気にこちらを向き、私の目を射抜く。
汗がドッと吹き出し、逃げ出したいが身体が動かない。
目を合わせていると、そのモノの口元がニチャァ・・・と笑った。
私は全力で自転車を漕いだ。
汗と震えが止まらなかった。

(なんなんだアイツ、絶対にヤバイ奴を見てしまった・・・)

大通りを自転車で疾走し、自宅を目指す。
自宅へ続く支線が遠くに見える。

(早く・・・早く・・・)

その時、右側の視界に何かが見えた。
それは堤防の上を全力で走っていた。

人間の下半身。

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ・・・

下半身が叫んでいた。

パニック。

初めて経験するパニックだ。
必死に自転車を漕ぎながら下半身を視認。
すると下半身が腰を捻り、こちらを見ているかのような素振りを見せた、瞬間。
堤防を駆け降り、こちら目掛けて走ってくるのが見えた。

路地から駆け出してくる下半身。
必死にペダルを漕ぎ続ける私。
その時私の背中から声がした。

なぁ、降ろしてくれよ・・・。

後ろを振り向くと、先刻道路で蠢いていた上半身が私の背中に覆いかぶさっていた。

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